シンポジウム「護憲」を超えて④ 新たな米中関係と日本の安全保障

第4回シンポジウム「護憲」を超えて④

新たな米中関係と日本の安全保障

2014.12.23 千代田区立日比谷図書文化館・大ホール

主催/自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会(略称:自衛隊を活かす会)

柳澤協二 元内閣官房副長官補

シンポジウム主催者挨拶
柳澤 協二

元内閣官房副長官補、国際地政学研究所理事長

 柳澤でございます。今日は「新たな米中関係と日本の安全保障」をテーマに、アメリカの第一級の研究者である植木千可子さんと、海上自衛官として北京に防衛駐在官として赴任され、第一級の中国の専門家である小原凡司さんのお話を伺いたいと思っております。

 なぜ米中かと言えば、やはり日本の安全保障と防衛を考える時には、米中という大国の関係を抜きにして考えるわけにはいかないからであります。

 冷戦時代、米ソ間に核を含む膨大な軍事力の均衡というものがあって、ひとたび戦争が始まればやがて核の撃ちあいになってお互いに滅んでしまうという相互確証破壊という考え方、現実が認識されていたが故に戦争が抑止されていたという時代を私達は経験してきたわけでありますが、果たして今の米中という2つの大国の間にそういう関係が成り立っているのかどうなのかというところに私は大きな疑問を感じております。

 核の撃ちあいが怖いから戦争をしない、それは正に典型的な抑止力の作用だと私は思いますが、それ以前に米中というのは──日本もそうですけれども──、お互いに最大の貿易相手国、投資相手国、国債保有の相手国であるという関係です。グローバリゼーションの中でお互いに経済発展をし、共通の流通経済、金融システムの中に組み込まれてしまっている国同士の間に、相手を破滅させるような戦争という動機があるのかという、そんな感じがするわけです。

 それとは別のものが、おそらく核による確証破壊に変わって、戦争をコントロールする何らかの作用を果たしているんじゃないか。ただそれを何と呼ぶのか。

 植木先生は以前、「リベラル抑止」という論文をお書きになっておられましたが、私はそういう意味での抑止構造というか、あるいは戦争を管理する構造がそもそも変わってきてしまっているのではないかということを、問題意識として持っております。

 そうだとすると、今の集団的自衛権の話もそうですし、沖縄の海兵隊の問題もそうですが、キーワードは「抑止力」ということなんですね。しからば抑止力というのはアメリカが中国に核をもって報復するという意味の抑止力なのか、あるいは拒否的抑止力、つまり中国が何か悪さをしてきたら、それに抵抗して思い通りにはさせないという拒否力という意味での抑止力なのか。

 また、集団的自衛権によって抑止力が高まるということが言われますけれども、それは誰にとっての抑止力なんだろうかなど、「抑止力」というキーワードをしっかりと考えていかなければいけないと思っています。

 そのベースにあるのは、米中間に果たしてどのような抑止構造が働いているのだろうか、それはどう変わりつつあって、仮にお互いに「大きな戦争はしないよね」という理解があるとすれば、逆に言えば「小さなことならやってもいいよね」というインセンティブが働くのかもしれないということになると、それをどのように危機管理をしていくかということが課題になっていくんだろうと思うんです。

 単に「相手より強ければそれで良い」ということになると、どちらかが息切れするまでの無限の軍拡競争に行き着かざるをえないことになるわけですし――そういうことをやれば、今の状況では中国が先に参っちゃうかもしれないと思いますが――そんなソ連が潰れたようなことをアメリカは中国に対して仕掛けようとしているのか。

 だとすればそれは抑止力の考え方の延長線上なんですが、もっと違う論理も働いているのではないかという、そのあたりのことをお二人のお話を通じて、更に考えを深めるヒントを是非頂きたいということを願っております。今日はよろしくお願いします。


植木千可子 早稲田大学国際学術院教授

米中関係と日本の安全保障
植木 千可子

早稲田大学国際学術院教授。専門は国際関係論、安全保障論

 今日、問い、として立てたのは、日米の対中戦略というのは成功しているのだろうか、もし成功していないとするならば何が問題なのかいうことです。米中関係が今どういう状態にあるのか、アメリカの対中戦略についても考えたいと思います。そして、日中関係の現状と対中戦略について、日本とアメリカは同じ方向を向いているんだろうか、ということを考えたいと思います。

 最初に、1970年くらいから世界でどういうことが起こっているかというところを話したいと思います。

世界に訪れる変化 1970年の世界

 各国のGDPの大きさを表しています。アメリカの黄色い丸、日本は赤い丸です。中国は点でしかありませんが、これが1970年頃の世界です。ちょうど日中国交正常化の話が始まるころです。

世界に訪れる変化 1992年の世界

 1992年、アメリカと日本の経済的な規模が一番近かった時で、アメリカは相変わらず大きいですし、ヨーロッパもそれなりですけれども、日本がすごく大きくなっているのがわかると思います。中国はまだ小さい。この頃アメリカは冷戦後、日本が一番の競争相手になるのではないかと考えていた時期です。

世界に訪れる変化 2014年の世界

 2014年の世界です。ヨーロッパなどいろいろな国が大きくなっていますが、一番顕著なのは中国が日本よりも大きくなっているというところです。1992年から2014年までの間の変化はとても大きいです。

日米中の経済

 今までのスライドはドルの交換レートで見たものでしたけれども、これは購買力平価(PPP)というもので中国の元と日本円をドル換算した場合の経済規模です。2014年に中国はアメリカを経済規模で追い抜いたと言われています。IMFの予測ですが2019年まで伸ばしてあります。アメリカよりも中国の方がはるか上に行って、日本はずっと低空飛行をしています。

日米中の経済規模

 2014年、アメリカと中国はほぼ同じ大きさですが、2019年は中国のほうが大きくて、日本は若干大きくなっているはずですけれども、相対的に大変小さくなっている。日米中を考える時に、現在はこのような状態で5年後にはこのような時代になるということですね。

 世界に訪れる変化というのが、どういうことを意味するのかということを考えたいと思います。まず、アメリカの影響力が低下しているということです。テレビや新聞等でも、しばしば言われています。相対的な経済力もそうですけれども、アメリカの財政難、赤字は日本よりもずっと少ないのですが、アメリカ政府と議会は赤字を減らそうとしています。例えば国防費は2020年までに4870億ドルを削減して、追加的に年間500億ドルの強制的な削減ということを言っています。オバマ大統領もアメリカは世界の警察官ではないと言っています。これまでよりもアメリカと直接関係のない紛争に介入する場合のハードルが高くなっていて、この傾向は強まるだろうと思われます。――これまでアメリカはいろいろな紛争に介入してきましたし、その是非はそれぞれ考え方はあろうかと思いますけれども――。アメリカの世論は、イラクとアフガニスタンの戦争を経て、非常に内向きになっています。世論調査でも「アメリカは国際的な問題には介入しないで、国内問題に専念するべきか」という設問に、1964年には20%しか賛成していなかったのですが、2013年に初めて過半数を超えて52%が賛成という結果が出ています。もうアメリカ抜きで、世界は自分たちで何とかやってもらおう、ということに賛成の人が過半数を超えているということです。

 一方で、2014年に中国は購買力平価でアメリカ経済を追い抜いたわけですが、中国が世界のトップに立つということは一体どういうことを意味するのかということです。考えないといけないのは、例えばこれまでアメリカが国連決議がないケースで軍事介入して、そしてその選択を誤った時――2003年のイラクというのは大量破壊兵器がなくて介入したわけですけれども――、世界中の国々がアメリカをストップさせることができなかったわけです。それでもアメリカは民主的な手続きを経て、国民が「もう戦争は嫌だ」という感じになっていき、それが政府の政策を抑制する、という自浄作用があるわけです。

 しかし、世界中で中国をコントロールできなくなった時、中国の場合は中国人が自ら「もうこんな戦争は嫌だ」という声はなかなか表出できない仕組みだということです。この地球で中国を止められる者は誰もいない時代というのが来るかもしてない、ということです。

 ただし、先ほどアメリカが軍事介入するハードルが高くなると言いましたけれども、中国が取って代わっていろいろな所に行くかというと、それもあまりないのではないかなと思います。やはり国内問題が山積していますので、中国は自らの国益を伸ばすこと、国益を守ることに関しては積極的で拡張主義的に見えることもありますが、同じ世界の人間が苦しんでいて、そこに介入するというような国際主義的な感覚というのはおそらくなく、まだまだ貧しく発展途上の国だという意識のほうが強いので、なかなか国益を守る以外の形でその力を外に向けて使うことは少ないのではないかと思います。先日のニュースでは、胡錦濤の側近だった令計画の逮捕が伝えられていましたし、その前は序列9位だった周永康も逮捕されましたけれども、そういうことで習近平は権力を固めているという話と、腐敗に立ち向かっているのだという話がありますが、それだけ上の地位だった人を取り締まっているということはやはり政治的な問題が大きくて、まだ安定はしていないというところの表れだと思います。

 先ほど柳澤さんのお話にもあったように、米中は経済的な相互依存が強いですから、大国間の戦争の可能性というのは低いのではないかと思います。アメリカもロシアもまだ5000発の核を、実際に配備しているものと貯蔵されているものを含めれば何千発という核弾頭を持っていますし、中国は少し少なくて相互確証破壊の状態にはまだないと見られていますが、経済的には深化していて、核の抑止もあるので大国間の戦争の可能性は低いでしょう。

 今後、アメリカは自らの国益に関係あると思われることについて、選択的に関与していくということが予想されます。そうすると小規模な紛争が増えるだろうと考えられます。そして全体として、今よりも高いレベルで対立して緊張状態が続くような2国間関係が増えると思いますので、少し住み心地の悪い世界になるかなと思います。

 そしてアメリカにとって利益があると思われない国の紛争というのは、今よりも国際社会が無視するようになる可能性があります。今は誰もが安全に旅行できて家族を見送れば無事に帰ってきますし、アマゾンで注文すれば商品が来る、ということをあまり疑わないわけです。ところが、国際的なことにみんなの関心が薄れてくるならば、必ずしも安全ではない、住み心地の悪い世界になっていくのではないかと思います。

 これらの問題を解決していくためには、中国との協力の必要性というのは増大していくと考えられます。

米国の対中戦略 リバランス ピボット

 アメリカの対中戦略の目的は3つほどあります。2011年頃からアメリカはアジア回帰戦略を取っています。しばらくアメリカはテロとの戦いに軸足を移していたところがありますので、今、リバランス、ピボットというアジア重視の戦略です。目的としては3つあると思います。

 1つは抑止です。これは非協力的な行動も含めるかもしれません。基本的には敵対的な行動、究極的には戦争ですけれども、それ以下の軍事行動を抑止していく。

 2番目は経済的な利益の確保です。オバマ大統領が発言やスピーチでこの地域の戦略について話すとき、必ず「仕事が増える」というようなことを言っていることにお気づきになると思います。この地域は世界で一番伸びているところなので、アジアの経済成長をアメリカのモノにする、プラスにするということで、経済的な利益を確保するということです。

 政治的に安定していないと、紛争でこの地域が乱れると経済的な利益を得られないので、経済的な利益、政治的な安定を図るというのが2番目の目的です。そして法による統治、法治を続けて――直接的に民主化を促すということは、当分中国に対してはしないでしょうけれども――民主化の方向に促していく。

 3つ目は協力関係の維持です。つい先日、北京でオバマ大統領は「アメリカと中国、一国では解決できない問題がたくさんある。米中の協力がなければ解決できない問題もある」と言っています。片方だけでもできないし、協力しないと解決できない問題が世界にはたくさんあるということで、アメリカは中国との協力関係を維持していく。

米国の対中戦略

 米国の対中戦略の目標を達成するための手段、方法について紹介します。

 一つ目は抑止の部分は、同盟国ネットワークによる抑止です。この中で日韓、そして日豪は戦略の中の大事な部分ということです。

 日米韓のミサイル防衛も進めようとしていますけれども、これもその一環です。アメリカの考えとしては今までは2国間同盟で、同盟国同士の連携は少なかったところ、もっと連携を増やしていくという戦略です。アメリカに全て「おんぶに抱っこ」ではない同盟国間のネットワークでこの地域をある程度安定化してほしいということです。日本が能力構築支援として東南アジアの国々に船を供与したり、警察官や海上保安庁の能力向上を図ったりするなどして同盟国以外の国の能力も高めているのも同じ考え方に基づいています。アメリカも能力構築支援をしています。ある程度自分たちで自衛できるようにしたいということです。同盟国とネットワークを強めて、それ以外の国の能力も上げてネットワーク化していくというのがひとつの方法です。

 2番目はTPPです。これは重要なところで、TPPを先に動かして実を挙げ、TPPに関係している国々、加盟している国々の経済が豊かになって経済成長を遂げ、そして中国に「入らないと損だな」と思わせてとり込んでいくという戦略です。

 3番目は2国間外交による対中関与です。エンゲージメント(engagement)といって1990年代から続けていますけれども、関与することによって先ほど言ったような協力を得るということです。

 アメリカの大きなアジア戦略としては、①地域を安定させること、②アメリカ中心の地域安全保障枠組みを作ること、これは2国間+多国間、そこに将来中国を取り組んでいく、③アメリカ中心の地域経済統合の仕組みをこの地域に作ることです。

 ですからアメリカが入っていない地域統合、地域連携というのは――例えばASEAN+3のような形の、アメリカが2005年よりも前にこの地域で統合の枠組みとして言われていたものですけれども――自分たちが入っていないような形でこの地域の経済連携が進むことはアメリカの利益ではないと思っています。

 TPPがなぜ重要かというと、非常に高いレベルの自由貿易の仕組みというのはアメリカにとってプラスですし、アメリカだけではなくて入っている国々の利益が守られる部分がある。ただ規則があるのと、オープンにする部分が大きいので、発展途上国や、保護する産業があるという中国あるいは東南アジアの一部の国にとっては要求が高いレベルの自由貿易なわけです。ただそれができることによって法律やルールが定められるのではないかと私は考えています。

 最近の中国の動きですが、みなさんのご記憶にも新しいと思いますけれども、中国は2013年11月にADIZ(防空識別圏)を設定しました。尖閣上空を含む防空識別圏を設定しました。南シナ海での活動も活発です。最近では、南シナ海の島に滑走路の工事をしているところが発見されています。

Fiery Cross Reef 永暑島

 Fiery Cross Reef(永暑島)と言われている小さい島ですが、黄色く囲まれている所に滑走路を作っているような様子が認められたということです。他の国はこの地域に滑走路のある島を持っているけれども、中国は持っていないから、というのが中国の言い分です。

 戦闘機の異常接近の事案もあります。2014年8月にはアメリカの対潜哨戒機に対して9メートル――最も近いところは翼の先端の6メートルまで――接近したというケースが見られます。6月にも自衛隊のYS11電子測定機にも、30メートルまで近づいています。

 それ以外に新開発銀行(BRICS銀行)というものがあります。新興5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)でつくり、初代総裁はインドから選ぶことになっています。今までは、アメリカが第2次世界大戦後、ブレトンウッズ体制の一つとして設定した世界銀行が、各国が出資者になって開発のお金を支援――日本も戦後の最初は世界銀行から様々なプロジェクトにお金をつけてもらうということをした――していますけれども、それに代わる銀行として新開発銀行を創設しています。

 それとAIIB(アジア投資開発銀行)もつくるということで、これもアメリカと日本が多く出資し、トップも出しているアジア開発銀行(ADB)への対抗、代替のものという見方があります。

 さらに、アメリカが進めているTPPに対して、中国はFTAAPのほうが良いと言っています。この間のAPECでもアメリカを中心とする国々はTPPを実現させたがっていましたが、まだ妥結はしていません。中国は同時にFTAAPを進めるということで、APECの場で2つの国が競い合っています。

 それ以外にもCICA(アジア信頼醸成措置会議)というものがあります。2014年から中国が議長になります。ずっと中国は信頼醸成や新安全保障観というようなかたちでアメリカの同盟ネットワークについては「冷戦時代の遺物だ」と批判的なことを言っていて、それに替わるような組織としてCICAというものがあります。

CICA参加国

 青が加盟国です。イスラエルとかアフガニスタン、韓国も入っています。緑はオブザーバーになっているアメリカと日本、東南アジアの国々です。

TPP 交渉中 加盟に感心 将来

 TPPへ加盟の意思を表明して交渉に入っている国は日本、オーストラリア、カナダ、アメリカなどがあります。加盟に関心がありますと表明したのが、東南アジアなど黄緑のところです。中国も一時期関心があるというようなことを表明していましたので、中国とインドも潜在的に将来、加盟の対象となっています。アメリカは将来的には高いレベルの自由貿易圏ができて、自分たちが主導して中国が入ってくるということを考えています。

 米中の合意についてです。11月のAPECの時、オバマ大統領と習近平国家出席による米中首脳会談が何日間にもわたって行われました。安倍首相と習国主席の日中首脳会談は25分と言われていましたけれども、米中は、1回に5時間くらいずつ、ずいぶん長く会談していました。その合意結果です。

 歴史的合意と言われているのが、温暖化ガス削減です。CO2の排出削減目標をそれぞれの国が表明したということです。来年度に削減目標の国際的合意が目標にされていますけれども、それは実現するのだと米中が意思確認をしたということです。

 アメリカは2025年までに2005年時に比べて26〜28%削減するという目標を表明しています。画期的と言われているのが、中国は今まで削減目標を明言したことは一度もありませんでしたが、それを言ったということです。2030年をピークとしてそれ以上は増やさず、徐々に減らしていくということです。米中は世界全体の温暖化ガスの3分の1を放出しています。2つの国が削減について合意したということは――自画自賛的なところもありますが――アメリカのマスコミでも歴史的だと言われています。

 防衛協力の推進も進んでいます。今年9月にはスーザン・ライスという国家安全保障会議のトップが、APECの首脳会談で防衛協力の推進を確認しあっています。覚書を2つ交わしていて、1つは重大な軍事行動を取るときは相互に通告しようという確認と合意、2つ目は海と空における遭遇の安全行動規範の覚書――先ほど言った異常接近の時にどうやって行動するか――ということの覚書を決めています。十数ページもあるような覚書です。大々的に発表した割には、インターネット上で見つけにくい文書でしたけれども、それぞれの国防長官と国防部長がサインしている覚書を結んでいます。

 米中2国間の枠組みとは違いますが、西太平洋海軍シンポジウムが2014年4月に開かれて、遭遇艦船へのレーダー照射を禁止する海上衝突回避規範(CUES)と言うようなルール作りにも動いてきています。

 アメリカは中国と対立し、対中抑止強化のための戦略も立てているけれど、他方、協力関係も推進していることがわかると思います。

 他方、この間、日本がどういうことを取り組んできたかということですが、2014年に実現したことは、①4月1日の武器輸出三原則の緩和、②12月に施行された特定秘密法、③集団的自衛権の部分的な容認、グレーゾーン事態と言われる戦争でも平和でもない事態への対応、例えば尖閣に武装した兵士か誰か分からないような人が上陸したような事態、あるいは北朝鮮からのミサイルに対して警戒しているアメリカの船を戦争が起こる前に自衛隊が守れるかどうか、④国連PKOの武器使用の緩和、活動範囲の拡大などの内容の閣議決定が7月1日になされています。

 もう一つ、ODA(政府開発援助)大綱の改定が11月末までパブリックコメントを募集していました。これも2015年早々に変わります。今まで軍事的なことに対する援助はできませんでしたが、軍に対しての災害救援などには援助できるようにするという改定です。日米同盟を強化することとあわせ、先ほどお話した東南アジアの国々が自分たちで自衛できるような力をつけるような能力構築支援、「お友達」を作って自分たちの大事だと思っているものを守る体制を強化していくということです。

 日本の対中戦略は、①抑止、②経済発展・政治安定、③協力の3つがあると思います。これも1970年代からずっと変わっていないことですし、現在も政府の人たちもこの3つだと答えています。

 ①は抑止、②は経済発展です。中国に経済発展を続けてもらって、政治的に安定した国になってもらう、③は協力です。これまでODAなど中国に対していろいろな援助をしてきましたけれども、基本的にはこの3つで日本に対して協力的な国にしたいということが戦略目標だったと思います。

 ところが最近は①の抑止に重点が置かれていると思います。②の経済的なところは放っておいても続くだろうと思いますし、③の協力についてはようやく日中首脳会談が実現しましたけれども、重点は圧倒的に①の抑止強化にエネルギーが割かれていると思います。

 抑止の仕組みについてお話しようと思います。水晶球が『眠れる森の美女』とか、『リトルマーメイド』、あるいは、『マレフィセント』にも出てきたと思います。手をかざすと未来の姿や景色が見えるので、外国では水晶球は未来を映すと言われています。

 抑止の仕組みというのは水晶球のように将来を見せることによって成り立つと考えられています。「撃つなら撃ってみろ。倍にして返してやる。だからやめろ」と言って止める、というのが基本的には抑止の仕組みの根底のところです。

 攻撃は無駄で損害のほうが大きいというようなかたちにするわけです。懲罰的抑止、拒否的抑止と分類されたりしますけれども、基本的には「撃っても無駄だぞ、成功しないぞ」ということを見せるというのが抑止の仕組みです。

 水晶球に映る景色がはっきりしているほど抑止が成り立つということなので、核による報復というのは、疑いもなくマイナスが大きいので止まるというものです。それより小さいと水晶球に映る景色がわかりにくい、本当に自分にとってプラスなのかマイナスなのかが分かりにくいということは、それだけ抑止が弱いということになります。

 抑止が成功する条件として3つ考えられてきています。

 1つは①「軍事的能力とそれを使う意図がある」ということです。今、政府が「抑止力を上げる」いう言い方をするときには①を指していることが多いように思います。ただ、成功のためには、②と③の条件が非常に重要だと考えられています。

 その2つ目は、②「相手に軍事能力を使う意図があることを正しく伝えることができる」ということです。シグナルがはっきりしていて通信手段があって、信ぴょう性があるということです。

 北朝鮮が「火の海にしてやるぞ」と言っても「また言っている」というふうに思うと信ぴょう性は高くないということです。逆に「もう二度としない」と言っても、信ぴょう性が低くて信頼されない、北朝鮮はシグナリングがうまくできない国ということになります。

 3つ目に考えられているのが、③「状況の共通認識がある」ということです。①に集中していると忘れがちなのですが、「ある線を超えた場合には撃たれる、撃たれたら撃ち返す」ということがハッキリしていて、共通認識があるということです。例えば橋があるとして、私が銃を構えて「橋よりこっちに来たら撃つぞ」と言って、私の言葉に信憑性があれば相手は橋の手前で止まる。

 大事なのは「橋まで来なければ撃たれない」という信頼感が必要だということです。そうでないと「来ても来なくても撃たれるのなら先に撃ったほうがいい」ということになってしまうわけです。ですから、「これをしたらひどいことになるけれども、しなければ自分の安全も確保できる」という安心供与と言いますが、共通認識が必要だということです。

 今年、安部総理が日本の対中の抑止力が増すと言って、いろいろな施策を導入しましたが、①については、オバマ大統領から「尖閣は日米同盟に含まれている」と言質をとり、自衛隊独自の能力も増やしていますけれども、②と③については、ほとんど進められていません。②については「連絡メカニズム」の協議を再開したので少し前進がありますけれども、③が非常に欠けていると思います。つまり、今のままでは抑止は必ずしも増さないということになります。

 それでは、米国にとって何が問題なのかということですが、アメリカは対中戦略の中で、この地域を安定化させるためには日米韓の連携が重要だと考えています。ところが、日本と韓国は、日中関係よりも難しいと言われていますので、その部分をうまく進めることができない。

 TPPの交渉もずっと長引いていて、TPPが成功して「こういうふうにルールを守って自由貿易をしていけばいいのだ」と中国に思わせることができない状態です。中国がFTAAPのような、もう少し低いレベルの地域統合を目指し、諸条件を留保した仕組みを他の国々と進めてしまっているので、戦略がうまく進められていません。

 日本にとって何が問題なのか。基本的に日本の戦略的なポジションは、ずっと悪化し続けていると思います。

 ディットマーというアメリカの学者が、三カ国関係について研究しています。一番良いのは、「ロマンチックトライアングル」、「両手に花」の状態だと言われています。不倫関係のようなものですが、両方から想われるというのが一番良い状態です。

 その次に良いのが「安定した結婚」と言われています。日本とアメリカは「安定した結婚」にあるはずなのですが、多くの面で日米が一緒になってこの地域のためにやっていくということが出て来ていません。

 一番悪いのは「仲間はずれ」の状態です。日米同盟がありますけれども、グローバルな問題、世界の人々が気にしているような問題については、日米で話をして進めていくというような関係にはなっていないのではないかと思います。

 人類にとって一番大きな問題の1つは温暖化ですけれども、いかに中国を取り入れていくかということを、日本がもっとやって良いと思いますし、中国も日本の環境保護の技術に期待しているところがあります。しかし、そういうところができていない。アメリカにとって日本の戦略的な価値が落ちています。

 日韓関係の改善というのは、この地域を安定化させるためにも、中国を協調的な方向に進めさせるためにも重要なものですが、できていません。

 日中関係の改善や信頼醸成も、ようやく首脳会談ができて、自衛隊と人民解放軍の海上連絡メカニズムとか、危機管理の制度構築が始まりましたけれども、まだスタートしたところです。先ほど言った共通認識が生まれて、「これをやったら良くないが、ここまでは大丈夫」というような信頼関係を構築していく必要があります。

 多くの日本人に「どういう日中関係が良いですか?どういう地域が良いですか?」と聞いた場合、「安定していて経済的に豊かで」と言われると思います。戦略目標の追求にあたって、目標をきちんと見定めるというところが弱くなっていて、道具であるところの抑止力に――今まで日本はそこが弱いと考える人がいたこともありますが――集中しすぎているのかなと思います。

 ①抑止、②経済発展、③政治安定・民主化、④協力のそれぞれの目標の達成度ですが、①抑止については先ほど言ったような日韓関係があるので、安定した地域的な枠組みの構築には至っていません。

 ②経済発展は続いていると思いますが、ルールで担保していくかたちのFTAないしTPPはまだ実現できていません。

 ③政治安定・民主化について、尖閣周辺の領海侵入については、11月29日を最後に12月には起こっていません。11月も8件でずっと減ってきています。首脳会談後、連絡メカニズムの協議をやろうとしているから減ってきているのかどうかというところはまだ判断ができませんが、減少傾向にはあります。

 オバマ大統領との合意などを見ても、既存の国際システムの中で協力する姿勢は維持しようとしていると思います。ソニー・ピクチャーズに対する北朝鮮のハッカーの問題についても、中国は一応、協力するようなことを言っています。今の既存の国際システムの中で協力して、役に立っている国だと思われたいという姿勢は維持していると思います。しかし、これまではアメリカが支える国際的な経済システムの中でその恩恵を受けて発展してきましたが、最近では、外に代替組織を作り始める動きを見せています。先ほど述べたように、日米主導のアジア開発銀行に替わる代替組織を作るとか、安全保障面でもアメリカと違う枠組作りの動きも見せていいます。そういう中で存在感を高めて、大きくなって、国際的な仕組みを変化させようという意図の表れが見られるようになっています。

 成功しているか、していないかについては皆さんと考えたいと思いますが、どうでしょうか?中国は、国際システムの中に留まっていて、一定の協力をしているという意味で、大きく見れば日米が目指す目標に向かって進んではいます。けれども、この間、中国は独自の動きもしているので、協調的な国にしようという目的について言えば道半ばかなと思います。

 今日お話したことや、この間いろいろ考えたことを『平和のための戦争論―集団的自衛権はなにをもたらすのか?』という本にまとめ、今年2月に出版しました。平和を維持するためには戦争のことをきちんと考えないと、知らないといけないという本です。


小原凡司 東京財団研究員 元海上自衛隊第21航空隊司令 中国防衛駐在官

中国の対日政策
小原 凡司

東京財団研究員、元海上自衛隊第21航空隊司令・中国防衛駐在官

 ただ今ご紹介に預かりました東京財団の小原と申します。

 私も11月に「中国の軍事戦略」という本を初めて出しまして、今日はその中の一部になるかと思いますが、なるべく多くのことをお伝えしたいと思っております。

 植木先生から日米中の話がありましたが、私の話は若干中国の内面といいますか、考え方を含めたものになります。

 12月6日、7日に日本でも報道がありましたが、中国軍機が第一列島線を超えて、西太平洋を往復する事態が2日連続で起こりました。

中国の対日批判抑制

 写真は防衛省の統合幕僚監部がメディアに対してピンナップした時のものですが、中国の環球時報という新聞等のメディアのネット版から持ってきたものです。

 こうした事象は中国でも報道されていたということなんですが、過去にこうした事象を報道するときは、日本が中国の演習を妨害しているという非難の記事であることがもっぱらでしたし、それが広くネット上にも広がったわけですが、今回はこの報道はほとんどされていません。しかも環球時報――これも国民を煽るのが好きなメディアなんですけれども――これもほとんど事実関係しか述べていないという状況です。これは今中国の中で、反日の口実を国民に与えないという動きがあることの反映であると考えられます。中国指導部にとっては、国外問題ではなくて国内社会が不安定化することこそ最も恐ろしい状態だということです。

 その頃中国で聞いたのは、12月13日は中国では南京大虐殺記念日と言われる日ですけれども、ただでさえ敏感な時に、国民に反日の口実を与えるのはさらに危険だということになります。そして、終戦70周年に際し発表されるであろう安部首相の談話がどういった内容になるのかを中国指導部は大変気にしています。

 最近もう一つ面白いのは、中国国内だけではなくアメリカやヨーロッパで行われる国際会議でも、中国側の出席者が――政府関係者であったり、軍人であったり、あるいは一般の研究者が――日中友好を強調するんです。その上で日中が協力することがいかに大事かということを力説します。ただこれは、日中関係が当面の間、改善しないという認識に基づくものだという逆説的なこともあります。

 植木先生の話にもありましたけれども、APEC2014にあわせて日中首脳会談が2年半ぶり──2年半ぶりというのは当時の温家宝首相ということですから、主席との会談ということでは3年ぶり──に日中首脳会談が行われました。これは中国でも日本でも非常にそっけない対応だったということが報道されていたので、皆さんもご記憶のことかと思いますが、中国でも笑顔のない握手の歓迎とは程遠い日中首脳会談だったという報道がされています。これは習近平主席が日本に対する不満を表明しなければいけないからこういった対応になったのですが、それでも日中首脳会談をやらなければならなかったことにこそ意味があると考えています。先ほどもありましたが、25分間の会談でした。通訳が入るので実質的にお二人が話したのは12〜13分ということになります。この短い中で何を話したかということですが、一つだけ具体的な項目が上がりました。これが海上連絡メカニズムの構築です。それほど日中衝突は避けなければならないと双方ともに考えているということです。もちろん、日中関係改善の必要性も認識されていますが、とにかく軍事衝突だけは避けなければならないというのが中国側の意図でもあるということです。

 これとは対照的に、米中首脳会談は大々的に中国国内で報道されました。オバマ大統領が北京に到着した様子から始まって、10時間に及ぶ会談が行われたわけですけれども、ほぼ全てが事細かに中国国内では報道されています。中でも中国が言っている米中「新型大国関係」を強調するという報道の内容です。これは簡単に言ってしまうと米中両大国が安全保障環境を決めていくんだというものなんですが、この内容について少しお話をしたいと思います。

 その前に、APECとほぼ時期を同じくして、珠海の航空ショーが開かれました。注目を集めたのがJ-31という最先端技術を用いたステルス戦闘機が初めてメディアに公開されたことです。この時にはデモフライトも行っています。もう一つ、KJ-2000という空中警戒管制機です。これがないと現代の空中戦は戦えないわけが、これもメディアに公開されました。一般的に中国は、防空識別圏は設定したけれども、その監視能力は十分ではないと言われています。それを払拭したいという意味もあったんだと思います。簡単に言ってしまうと口だけじゃないぞということで、大国としての軍事力も持っていることを示したということになります。

 ここで中国が示したかったのは何かということですが、中国は米国に並ぶ大国であると、そこで米中「新型大国関係」ということが出てくるんですが、この2国がアジア太平洋の安全保障環境を決めていくんだということです。中国には頭の上にロシアという非常に大きな国が乗っかっているわけです。中国はアメリカとロシアのバランスを常に考えて外交をしています。

 米中「新型大国関係」というのは何なんだろうという話なんですが、実は中国は2011年には早くもこの米中「新型大国関係」をアメリカに対して投げかけています。

 この当時、アメリカはこの提案に全く応じていません。それが2013年4月、中国がまた積極的に動き始めたわけですが、ケリー国務長官が訪中した際、習近平主席が直接会って、数日前にオバマ大統領と米中「新型大国関係」の構築の議論を始めることについて合意したということをわざわざ述べています。もちろん、ケリー国務長官はそんなことは百も承知なわけですが、わざわざ言ったということは、それを報道させたかったということなんです。

 中国はここで米国との新しい関係ということを言っていますが、この後にデンプシー統合参謀本部議長が訪中した際にも同じことを習近平主席本人が言っています。

 なぜ2013年4月だったのかということですが、2012年9月に野田内閣が尖閣諸島を購入した後、2013年のはじめ頃まで中国は日本との関係改善のために積極的に水面下で動いていました。日本側の反応を探っていたわけです。その最後だったのが2013年の3月末で、李小林――中国人民対外友好協会の会長ですが、彼女は李先念の娘でやはり太子党なわけで、習近平の右腕とも言われている人です――彼女が日本に来て日本の様子を見て、それが最終的に中国の態度を決定したのではないかと言われています。中国側からすれば安部首相に足元を見られたということで、ここから日本に対しては強硬姿勢を取らなければならないということになりました。ただ一方的に対日強硬姿勢を取るのは危険ということもあって、アメリカへの接近が始まるわけです。

 この大国関係については、2013年6月の米中首脳会談でもしきりに中国から働きかけています。この時もトータルで7〜8時間の議論が行われていますが、米国が中国の「新型大国関係」構築の議論に応じた訳というのは、先ほど植木先生のお話にもありましたように、アメリカは中国と軍事衝突をする気はないわけで、この地域において中国とは経済的には利益を共にしていかなければならないという思いもあるということですが、一方で、危険な状況も起きつつあるという認識がこの後押しをしたと言えます。

 ところがこの「新型大国関係」については中国とアメリカでは考え方が全く異なります。同床異夢であるということを中国はここで思い知らされ、それまで図ろうとしてきた米国との協調的な共存というのは難しいという結論に至ります。ここから、中国はアメリカに対しても強硬ベースでなければならないという議論が起こってきます。これは私が勝手に言っているんですが、「対立的共存」でなければならないということになります。

 2014年7月に行われたSEDという戦略経済対話においても「新型大国関係」が中国側の主たるテーマになっています。この会談はアメリカや日本ではあまり成果がなかったと言われていますが、中国にとっては非常に大きな成功であったと思います。

 それは、ケリー国務長官が中国を大国として認める発言をしっかりしたことです。このときに「過去の大国関係は戦略的対立であったけれども、米中はそうなるとは限らない」という発言をしているわけですが、これは米中関係を過去の米ソ関係になぞらえて言った話で、中国はこれはとても嬉しかったと思います。それともう一つは、対立があっても議論しようということをケリー国務長官も公言した、これが中国にとって一番大事なわけで、対立があっても米国が中国に軍事力を行使しないという保証こそ、今中国がほしいものだと言えます。米国から保証を得ると同時に、中国は国内向けにはアメリカと対等に議論しているという姿を見せる必要がある、こういったことからSEDというのは、中国にとって見れば非常に成功裏に終わった対話だったといえると思います。

 この「新型大国関係」というのは何かということですが、結論を言ってしまうと、中国が世界中で自国の利益を追求して自由に行動しても、アメリカが手を出さない世界、そうした米中関係こそが「新型大国関係」なんだと言えます。

 中国では、2012年から「西進」という戦略が言われるようになりました。これは北京大学の教授が提唱し始めたものです。アメリカでは簡単にパワーバランスの理論で捉えられることが多いんですが、中国ではそんなに簡単なものではありません。しかも中国は東への圧力を弱めているわけでもないということです。

「西進」戦略の意図

 これまで中国の内陸部の発展――中国全体の経済発展ということです――は、沿岸部の経済波及効果を用いてやるということをしきりに言ってきました。2000年頃から西部大開発といったこともやってきたわけですが、これが15年経っても全く効果がないということが分かってきたす。そこで中国は内陸部にも経済拠点を作らなければいけないということになるわけです。

 そこから西への経済活動の拡大ということを図り始めます。「西進」について、中国では2つの軸でのポジションの調整ということが言われます。①東から西と、②南から北という2つの軸です。

 沿岸部から内陸部へ経済の重点をシフトする、全く移すわけではありませんが、軸を移すということと、②南から北――発展途上国から先進国への中間国、正に中国ということですが――、中国へのポジションを調整するものであるという捉えられ方がされています。

 ただ、西へ向かうということであれば、中央アジア、中東、更にそこを通って北アフリカ、ヨーロッパへ繋がるわけですが、この地域が必ずしも中国の思い通りになっていないという思いがあります。そこで、こういった地域情勢の創出のために、米中は相互に干渉しない、あるいはさせないという世界が必要になるわけです。

 「西進」戦略は学者が言っているだけではありません。習近平や李克強という首脳が外遊の際にそれぞれの国で言っていることです。中国のメディアで公表されているものですが、「一帯一路」という政策として既に進められています。「帯」というのはシルクロード経済ベルトという陸上のシルクロード、「路」というのは21世紀海上シルクロードということで、この2つを平行してやるんだということです。

「西進」戦略の実践「一帯一路」

 このポジションの調整には論理のすり替え効果もあります。2012年から対日強硬派の人達が「日中戦争は不可避だ」ということを中国国内でも強く主張してきました。習近平主席は日本との戦争は非現実的な選択で――中国では日中関係はすなわち米中関係だとよく言われます――そういった対日強硬派の圧力をかわす必要がありました。しかし日本側には譲歩は期待できず、対日融和ではない何らかの論理が必要になる。

 そこで、「西進」戦略は対日戦争といった小さな目的のためではないのだと主張します。中国が国際社会において、自分の地位を調整するためのものだという論理ですから、日本への対抗などという小さなことにこだわっている必要はない、ということになっています。

 安部首相とは関係改善が難しいと判断する中での、日本を相手にする必要はないんだという論理展開で日中の軍事衝突を避けようとする、それでも中国は安部首相の言動に非常に注意をする――これは中国国内の反応を警戒しているわけですけれども――論理的には日本は相手にする必要はないんだと言って抑えこみつつ、日本は無視できない存在であるとも同時に示しているということになります。

 日中軍事衝突の可能性はあるのかということですが、まず日本は「小国」かという話ですけれども、レトリックとして日本は「小国」なわけです。これをもって対日強硬派も抑えこんでいますし、アメリカと中国の2大国で安全保障環境を決めていくんだという話をしていますが、日本は軍事的にも経済的にも無視できない規模の国であるということは中国国内でもよく理解をされています。

 中国が対日開戦しない主要な理由は2つあります。1つは自衛隊の能力と日米同盟です。日中戦争を起こすということは、米中戦争なんだということです。中国では中国がアメリカに対して戦争に勝つことができないという認識は広く共有されています。小規模な衝突から全面戦争、さらには核戦争にいたる、全てのレベルにおいて中国は米国に対して勝つことができないという認識です。

 もう一つは中国の経済改革に欠かせない日本からの投資があります。これは技術やノウハウを含む投資です。日本から中国への直接投資は減っていますが、台湾経由でもまだ投資が入っています。10月に台湾に行った際、台湾の商務部の人たちは「今の状況は大歓迎だ。日中関係が緊張していると日本企業が台湾に入ってきて台湾企業と一緒に大陸に入る、このことによって台湾の企業にもチャンスが生まれる」と言っていました。日本にとっても中国の市場というのは無視できるものではないということですし、中国にとっても日本からの投資は無視できるものではないということです。

 この2つの理由で――先ほど植木先生からもお話がありましたが――中国は日本に対して過度の強硬な手段をとらない。一方で、単に通常兵力を誇示しても対中抑止にはならないということです。通常兵力が抑止にならないということではなくて、誇示することが抑止にならないということを言いたいわけです。

中国防空識別圏公表の意義

 そうした中、2013年の11月に防空識別圏が公表されました。対日強硬手段に出ているじゃないかということなんですが、実はこの防空識別圏は2010年5月に日本で既に公開され、提示されています。日本のメディアでも報道されているので、ご覧になった方も多いかと思います。

 ではなぜ2013年11月のこの時期に防空識別圏を公表したのかということですが、バイデン米副大統領の訪中直前であるという意味が大きいと考えています。米国ファクターを示唆しているわけですが、アメリカに対して「ここに危機が存在するんだ」ということを示す必要があった。それに対してアメリカと議論しなければならないということを演出しなければならなかったわけです。中国が防空識別圏を公表したところでアメリカに無視されてしまっては、中国はただ単にメンツを失うわけですから、バイデン副大統領の訪中直前――訪中は決まっていたわけですから、問題があろうがなかろうがバイデン副大統領は訪中したわけですけれども――に公表することで、バイデン副大統領とこの防空識別圏の問題についても議論することができた。

 これで米中は、北東アジアにおける危機について議論しているということを内外にアピールすることができたわけですが、こうした米国との対立的共存は6月に協調的な共存を破棄して以降、中国がとり続けている戦略になります。

 2007年に中国は太平洋分割論ということをアメリカに投げていました。これはアメリカの太平洋軍司令官――当時キーティング将軍だったと思いますが――が訪中した際に中国海軍の司令員である呉勝利将軍が持ちかけたと言われていますけれども、他の中国の軍事関係者もこういったことを言っています。

 ところが最近中国が言っているのは分割論ではありません。太平洋には米中両大国が活動するのに十分なスペースがあるという言い方をしています。これは明らかに分割ではなくて共存の意思を示しているということが言えます。

空母 遼寧

 そういったことは、軍事装備品からも実際に見て取ることができます。

 空母「遼寧」というのは、1998年にウクライナから購入した艦です。中国は「遼寧」を空母として運用したいという意図があったわけですが、アメリカが中国の意図に気がついてウクライナに圧力をかけたために、ウクライナは売却の直前、この空母のほとんどの部品を取り外すということをやりました。

 そのおかげで中国はこれを購入してから修復するまで長い時間を必要としました。この艦は動いているのが奇跡のような船で、作戦等に使える艦では全くありません。この艦は蒸気ボイラーで動いているのですが、ボイラーがどれくらい圧力が上がると危険だとか、どの範囲で運転すれば正常だといった数値の表示まで全て取り外されていました。「遼寧」の機関長本人が言っているんですけれども、修復はエンジンからやったと言っていますが、修復が終わって出港させようとした時、圧力が上がりすぎて危険だったので、必要な出力が出せなかったということです。ただ、自分たちは危険だと思ったけれども、それが本当に危険なのかどうかさえわからなかったという艦なんです。そうした艦が動いているわけです。さらに航空機の発着艦の写真がありますが、航空機を離発着させる装置についても、取り外されて全く何も残っていませんでした。彼らは装備品が付けられていたボルトの跡と配管の跡だけを見て、ここにはこういった装備品がついていたのではないかと想像しながら、部品を巨大なジクソーパズルを組み上げるようにして作り上げたのがこの艦です。実際にこの艦はほとんど動いていませんし、発着艦訓練もほとんどできていないというのが現状です。

 しかし中国は、既に2隻の空母を建造中です。1隻は大連の造船所、もう1隻は上海で造っています。大連の方は遼寧省の党書記が自分で言ってしまっています。上海の方はアメリカの衛星が撮った写真から空母だと言われています。これらの艦は、中国が空母を運用したことがないにもかかわらず建造されていることから、運用経験や作戦要求に基づかない艦艇デザインだということが言えます。普通、艦艇はどういうものに用いるのかというのがあって初めてデザインがされて、設計がされるわけですけれども、そういったことが全くされていない空母だということです。

 この空母は実際、アメリカの空母と同等の戦闘力を発揮できるとはとても考えられないわけです。それにもかかわらず、中国が今空母を建造しなければならなかったことにこそ意味があると思っていますが、これはアメリカとの戦闘ではないということです。他に意味があるということです。

中国の艦艇整備状況 空母 駆逐艦

 中国は駆逐艦を毎年4隻、建造、配備を進めています。これはとてつもないスピードです。最近、中国のイージス艦と言われる船も南海艦隊に重点的に配備をされています。

 元々中国は北海艦隊が最強だと言い続けていました。これは首都防衛という任務があるからなんですが、首都防衛をやる艦隊だから最強だというのは陸軍的な考えで、海軍の考えとは全く違います。それに気がついた2000年前後の頃から重点的な装備は東海艦隊に移るようになりました。それが南海艦隊へと移ってきている、これは中国の関心の方向性を示すものだと言えます。

中国の艦艇整備状況 フリゲート

 このフリゲートですが、これは駆逐艦とフリゲートで主たる空母戦闘群の水上部隊の部分を占めるものです。このフリゲートも実に多くの船が建造されています。これらの船が、駆逐艦とフリゲート、現在の契約が全て行われたとすると、2030年には76隻以上の艦艇ができるということになります。

 実は、76隻の艦艇では空母戦闘群を3つ運用することは無理なんです。本当はさらに多くの艦艇が必要なわけですが、中国はそこまでいかないのではないかと言われています。それは大型の艦艇を建造するのと同時に、非常の小さな1000トンクラスのコルベットと言われる艦艇を大量建造しているからです。つまり沿岸部分はこの小型の艦艇で防御をするんだということです。では、大型艦艇はどこで使うのかということですが、中国の近くではなく世界に展開させるということになります。

 さらに来年度から1万2000トン超級の駆逐艦の建造が始まります。これは1970年代に計画がありましたが、中国の技術力の低さから実現できなかったものです。

 こうした大型艦艇を何に使うかというと、近海を離れて世界で戦略的に使うと言っています。この戦略的というものは何かというと、中国が影響力を及ぼしたい地域、中東や地中海を含む北アフリカで軍事プレゼンスを示すということです。

 今中国が一番心配しているのは、地域情勢を軍事力によって作り出せるのはアメリカしかいないという危機感です。必ずしも米中戦争ではありません。以前、イランがホルムズ海峡の封鎖という脅しをかけた時、米海軍は直ちに多国間の機雷除去のための掃海演習を実施しました。これをもって世界中は、イランはホルムズ海峡を封鎖できないという認識を持ったわけです。アメリカが軍事力によってイランの脅迫を無効化したということです。

 また、シリア危機の際にはアメリカは2隻の艦艇を直ちに派遣して、いつでも巡航ミサイルを撃ち込める状態にしました。実際には巡航ミサイルは使われなかったわけですが、中国に対しては非常に大きな衝撃を与えました。こうしたことができるのはアメリカしかいない、中国にとって有利な地域情勢というのは、いつアメリカに覆されるか分からないと考えたわけです。

 こうしたことから、今、中国は自らの軍事力をもって地域情勢をつくりだすために、軍事プレゼンスを展開しなければならないという考えに至っています。中国の軍事力の拡大は少なくとも米中衝突ではなく、アメリカと同じ方向を向いた競争であるとも言えます。つまり軍事プレゼンス競争ということになります。

 もう一つ中国が怖がっているのは、アメリカの核兵器による攻撃です。先ほど言葉の上ではアメリカは中国に対して軍事力を直ちに使用しないという保証を得たという話はしましたけれども、中国は言葉だけでは信用しません。

 問題になるのは、核兵力に対してどのように報復攻撃を保証するかということです。これは抑止になるわけですが、最終的な抑止手段というのは原子力潜水艦による核報復攻撃です。原子力潜水艦というのは位置を秘匿しているがために最終的な報復の保証になるわけですが、中国がこれを運用できるのは南シナ海からしかありません。東シナ海から運用したのでは海上自衛隊や米海軍にすぐに探知をされてしまう。これでは戦略パトロールを隠密にできないということですから、南シナ海こそ中国にとっては非常に重要だということが言えます。南シナ海はその他にも海底資源や海上輸送路といった問題があって、今中国にとっては南シナ海こそプライオリティーだということが言えます。

 中国の戦闘機の異常接近についてです。先ほど、中国は日本との衝突を避けたいという話をしました。ではなぜ戦闘機の異常接近が起きるのかということなんですが、これは中国の国内問題の影響も受けています。空軍が中国国内でも非常に問題になっているわけです。

 ここ数年間、中国空軍の中には不満があると言われてきました。これは海軍重視の戦略、政策がずっと取られてきたからで、この不満にはもちろん予算がふくまれています。2012年末に許其亮上将という空軍司令員だった人が、中央軍事委員会の副主席に抜擢されましたが、これは空軍重視というより、不満が溜まっている空軍の中に強いリーダーシップを置いておくのは危険だという判断の元に、中央側に取り込まれたと言われています。

 そうしたような状況の中で、2013年末頃から中国空軍の様子が変わってきます。防空識別圏の設定もそうですが、中国空軍に活躍の場が与えられてきたということです。2014年の全人代でも空軍代表が非常に元気の良い発言をしていました。これは今まで見られなかった光景です。

 4月には習近平主席が空軍増強を発言しました。これにメディアも追随して中国の安全保障は空軍にかかっているというようなことまで言っている。これは空軍に対して予算がついたということもありますし、俗な言い方をすればイケイケドンドンな状況にあるということなんですが、実はこの空軍の素養は非常に低いんです。各国との交流がほとんどない上に、訓練も十分ではないので操縦技量も低いということです。こうした空軍が今勢いづいているということが、先ほどの異常接近につながっているということです。

 習近平は、こうした人民解放軍を叩き直そうとしています。これは人民解放軍だけではなくて、他の既得権益の全てですけれども、一旦彼の掌中に権力を掌握して、その後、改革を進めるということです。

 徐才厚事案といって、彼は中央軍事委員会の副主席まで務めた軍の制服組のトップですけれども、元々総政治部の主任で軍幹部の人事を全て掌握する人間でした。2012年に退官しましたが、表向きは通常の引退だったんですけれども、中国国内では当時から拘束をされているという話を聞かされていました。

 遡ること2012年2月には総後勤部の副部長が解任をされています。この頃から徐才厚はやられるという話は出ていたわけです。この後勤部というのは腐敗の温床となっているわけですが、不動産に関わる部署なんです。基地の土地ですとか、兵隊用の宿舎といったものはここが扱っていて、不動産売買がやはり中国でも腐敗の温床になるということなんですが、2013年1月にはこれみよがしに実家の家宅捜索が動画で公表されました。そして6月に徐才厚は党籍を剥奪されたということです。

 こういった事案の背景で何が行われていたかというと、徐才厚を叩く一方で、他の幹部たちとの「手打ち」が行われていたということです。

解放軍報 人民解放軍の18人の将軍が忠誠を誓った文書

 解放軍報という民間人も手に入れることのできる新聞があります。4月だったと思いますが、人民解放軍の18人の将軍が忠誠を誓った文書が大々的に掲載されました。忠誠を誓う代わりそれ以上の追及はされないということです。

 そもそも全部追及してしまったら人民解放軍は解体してしまいます。習近平もとてもそんなことはできないわけですから、どこで「手打ち」をするかという問題なんです。

 こういった「手打ち」は中国らしいやり方です。象徴的な人物を叩いて、他の者に忠誠を誓わせる、これは鉄道部でも行われたことです。鉄道部の部長は大臣にあたるわけですが、裁判で判決を受けたとき、日本では刑が軽すぎるとか、他には追及が及んでいないと言われましたけれども、実際、このようなやり方で鉄道部は解体されました。部から局へ格下げとなり、利益をあげられる輸送部門は新たに会社を設立してそちらに移されました。鉄道部は完全に習近平に押さえ込まれたということです。

 既得権益を有する他の政治勢力の排除も進んでいます。徐才厚の調査が進められていた当時から、「残るは石油、電力だ」ということが中国国内で言われていましたが、石油閥はある程度、習近平の掌中に治まりました。南シナ海でのベトナムとの衝突にも石油閥が絡んでいたと言われていますけれども、最終的には周永康が処分をされ、石油閥も習近平の掌中に入ったということです。

 ただ、電力に関しては李鵬という人の利権で、李鵬は必ずしも習近平とは対立が激しいわけではないので、これ以上やるかどうかというのは疑問が残ります。反腐敗のもう一つの側面は、反江沢民派ということでもあるわけです。

 こうした改革を進めるための下準備が進められている段階にあると言いますが、実は人民解放軍は今まで戦える軍隊ではなかったわけです。なぜそう言えるかといいますと、習近平は胡錦濤と同じスローガンを用いて、人民解放軍の訓練をさせようとしています。普通、中国の指導者というのは、自分の独自性を出すために新しいスローガンを用いたがるんですが、習近平は胡錦濤と同じスローガンを用いています。これは胡錦濤がやろうとして出来なかったことをもう一度やり直すぞという意志表示でもあります。これをもって人民解放軍を戦える軍隊にしようということです。

極超音速飛翔体

 そういった中、新しい戦略兵器が米中間で開発されています。今世界中で米中2カ国だけが極超音速飛翔体と言われる武器の発射試験に成功していますが、成り立ちが中国とアメリカでは異なります。

 アメリカは冷戦終結後、前方展開基地を再編・縮小する方向にあったわけですが、同盟国に対しては何らかの保障をしなければいけない、それがCPGS(Converntional Prompt Global Strike)と言われる考え方で、米本土から世界中どの地域に対しても1時間以内に攻撃することを可能にする兵器を開発してきました。それが極超音速飛翔体です。

 中国は世界中を攻撃するためにこの極超音速飛翔体を開発しているわけではありません。空母キラーと呼ばれるASBM(アズビム・Anti-Ship Ballistic Missile・対艦弾道弾)の発展形として開発を進めています。発射に使っているミサイルをみれば、その距離から何に使おうとしているか分かるわけですけれども、成り立ちは違います。

 ただ将来的に技術が進めば同じような方向に向かうというのが武器ですから、中国も技術を確立していけば、世界中どこにでも攻撃が可能になるということです。

 アメリカはこういった中国の動きを黙って見ているわけではありません。アメリカは中国が自分と対等な抑止力を持つことを決して許容しません。アメリカはネットワーク・セントリック・オペレーションを進めて、今のBMD(弾道ミサイル防衛)では撃墜できないものを撃墜する手段というものを構築していくということです。

集団安全保障の概念を超える

 映画「ターミネーター」をご覧になった方はその中に出てきた「スカイネット」というものをご記憶かと思いますけれども、そうした世界が出現してくるということです。これはネットワークが艦艇や飛行機の配置を決め、探知もネットワークがして、どの艦艇から、どの飛行機から攻撃すればいいかも全てネットワークが決めるというシステムです。人間の意志を介さない軍事行動というものが現実味を帯びて来ています。そうしたことから、今、米中サイバー戦というのは技術の窃取、盗むということだけが問題になっていますが、今後は作戦自体へのサイバー攻撃というものが重要性を帯びてくるということになります。

 中国の軍事戦略をざっくりと述べますと、中国指導部は制度化を進めようとしています。この制度化というのは日本を含めた西側諸国が考えているような制度化ではありません。共産党による長期安定統治を目的としたものです。

 そのためには継続的な経済発展が必要です。先程申し上げたような「手打ち」をしている限り、中国国内での富の再分配というのは完全には行われないわけですから、経済発展を外に求めなければなりません。

 私が「中華民族の偉大な復興とは何か」と聞くと、何人かの中国の研究者等は「世界のGDPの4分の1を占めること」だと言います。「これが歴代王朝が成し遂げてきた中華帝国の姿だ」といったようなことを言うのですが、世界の経済成長はそんなスピードで拡大していませんから、他の国が割を食うということになります。これこそが問題なんだと思います。

 また、「新型の大国関係」は米国との軍事衝突回避と言っていますが、それ以外の国とは回避するとは言っていないことも問題です。中国は「日本は小国だ」と言っていますが――日本はまだ特別な扱いになっていますけれども――南シナ海などで起こっていることを見れば、「小国との衝突はやむなし」ということが、中国の考え方の背景にはあると言えます。

 では、軍事衝突がなければ東シナ海は安全なのかという日中の問題になるわけですが、今、中国は軍事力を使わない方向にあります。

White vs White 軍事衝突がなければ東シナ海は安全か

 「White vs White」と言いますが、White=白というのは民間を意味します。海上保安庁やコーストガードは国際法上、軍ではなく民間に属する組織です。この民間を使っている以上、軍事衝突ではないということが言えます。

 実際に中国はフィリピンとスカボロー礁で衝突した際、これで成功しています。衝突の時にフィリピンは海軍の艦艇を出してしまい、アメリカから叱責を受けています。あたかもフィリピンがエスカレートさせたように見えるということなんですが、ただ結果は同じなわけです。スカボロー礁は中国に管理されてしまいました。こういった事象にどうやって対応していくのかということはこれからも問題になります。

島嶼防衛における課題

 島嶼防衛における課題については、日本は各レベルで中国に「負けない」努力をする必要があると思います。現段階での自衛隊単独の作戦から、日米の安保に基づく軍事行動に至るまで、各レベルで中国はまだ日本、あるいは日米に勝利することはできないはずですが、この日本独自の防衛力というものは考えなければいけないと思います。

 私は事例ごとに自衛権行使を容認することは危険だと思っています。平時から自衛隊は軍事力として行動できるという覚悟がなければならないと考えていますが、その議論すらすることができないと思っているからです。

 先ほどグレーゾーンの話がありましたが、グレーゾーンというのは平時と戦時の中間にあるものではありません。元々の基準から言えば、平時なわけです。戦時ではないから平時の中で何が出来るかといった議論がグレーゾーンの議論であって、あたかも戦時と平時の間に何かあるような感覚を覚えるのは間違いだと思います。

 グレーゾーンは平時の議論です。平時に軍事力をどう行使するかという話であって、平時に自衛権を行使するのかという根本的な議論を抜いたままでは、日本の安全保障というものは何も語れないと思っています。

 今まで日本は軍事力行使について考える必要はなかったわけです。有事でなければ軍事力自体がなかったわけですけれども、今後はそうした事象だけではないということです。

 自衛隊は既にこうした事象に対処するために、法的な整備はともかく、実力としては対応できるよう機動化というものを進めてきました。ただし、法整備なり、その解釈といったものは全く追いついていません。

 今後、何かが起こりうるのは中国だけではありません。アメリカでさえ今後何が起こるか分からないという発想のもとに軍備の再編を進めています。自衛隊も何が起こるかわからないとう認識のもとに機動化を進めてきたわけです。

 日本は今後、何が起こるか分からないという中で、安全保障について自ら議論するという覚悟が必要なのではないかと考えています。

 安全保障というのは軍事力だけではありません。国家の持てる全ての資源を活用するべきものだと思っています。その中でも日本の強点である経済は全ての基礎になります。

 「日本が目指すものは何か?」ということも忘れてはならないと思います。豊かな国民生活こそ我々が求めるものだと思っていますし、正にそれが外国の憧れるものでもあるわけです。これは中国にとってもそうです。

 今中国は、南麂(ナンキ)列島で新たな軍事施設を建設しています。前方展開基地の主要な意味というのは監視と対応です。必ずしも直ちに日本に対して攻撃を仕掛けるものではないということは考えなければいけません。しかし、日本も陸上自衛隊の監視部隊を与那国島等に展開するといったことをやっています。双方の監視活動というものは起こっていますし、中国は今後、防空識別圏の監視強化を図ると思います。

 この地域にはまだまだ衝突の危機は拭い去れないんだということを考えながら、日本の安全保障は考えられなければいけないのではないかと思います。


伊勢﨑賢治 東京外国語大学教授 元国連平和維持軍武装解除部長

中国・インド関係の現状から日本防衛のための教訓を汲む
伊勢﨑 賢治

東京外国語大学教授、元国連平和維持軍武装解除部長

 もう1つのプレイヤーを忘れていませんかということで、インドを始めとするインド亜大陸の観点からお話します。1947年、インドは1つのインドとして独立できませんでした。“ヒンドゥーのインド”と“ムスリムのパキスタン”に分離独立します。混住が進んでいたので民族大移動が起きたそうです。土地、財産が奪われる恨みをお互いに募らせ、大殺戮が起こったと言われます。この二つの国の誕生は戦争から始まり、それはずっと今まで同じ状態にあります。

 分離独立に伴いパキスタンは、西パキスタンと東パキスタンの2つに分かれました。でも、西の方が政治の拠点だったのです。東側が不満を持ちだして、独立の気運が高まり、パキスタンからバングラディシュとして独立してしまうんですね。

 東は、同じイスラム教徒でも、民族的に西とは違うんですね。ベンゴーリという民族のアイデンティティーに、「イスラム」が勝てなかった。これは西の指導者にとってはショックです。東の分離独立にあたっては、インドが積極的にテコ入れしたんですが、ここから、そのショックは、インドの脅威を決定的なトラウマにします。反動で、パキスタンは更に「イスラム」化に向かいます。一応民主主義の体裁はとっているけど、宗教と軍政が融合する今日のパキスタンに続くわけです。

 中国の方を見ます。中国は大きい。我々日本から見ると「裏側」があるわけです。この地域に隣接する、チベットやウイグル地区です。僕が深く関わったアフガニスタンも、少しですが中国に接しています。このあたりの中国は、分離独立運動が盛ん。ウイグルでは、その主体は「イスラム」です。穏健派から過激派まで色々な運動がありますが、その中でもETIM(東トルキスタン・イスラム運動)は、マララちゃんを撃ち、「イスラム国」とも共闘関係にあるTTP(パキスタン・タリバン)と繋がりがあると言われています。ここで深く認識すべきは、中国政府も、対テロ世界戦の、米・我々と同じ側の当事者なのです。

 中印関係であります。インドは中国と領土紛争を繰り返してきました。東にアルナーチャル・プラデーシュ。中国にとっては南チベットです。また、西に、僕が足を運んでいるカシミールです。

カシミール アクサイチン ウイグルとチベットを結ぶ唯一の幹線道路

 カシミールですが(地図参照)、コブのように出ているところが、中国が実行支配しているアクサイチンと呼ばれるところで、幹線道路が通っているわけです。ウイグルとチベットを結ぶ唯一の幹線道路です。ほとんど誰も住んでいないところですけれども、中国は、ここにこだわるわけです。

 同時に、カシミールは、印パ戦争の舞台です。パキスタンの首都イスラマバードの近くまで軍事境界線が迫っています。過去3回の印パ戦争では、全てインドが圧勝したことを物語っています。

 第二次大戦後、戦勝国5大国の最後に中国が核実験をやって、インドがそれに対抗して核実験をやります。NPT体制は不平等条約だということで。インドがやれば、パキスタンも黙ってはいません。カシミールは、中印パ3大核保有国が、通常戦を戦っているところなのです。地球規模のリスクで言えば、最大の領土係争地なのです。

 すべては旧宗主国の英国の無責任さにありますが、コロニアル・マスターが残したレガシーは、お金とか軍の装備も含めてインドが独占したので、純粋なイスラム国家をつくろうとしたパキスタンは、ゼロからの出発。最初から、劣等感の出発だったわけです。

 国力でも、通常戦力でも、大国インドに敵わないパキスタンがとる戦略は、たった二つ。1つが核を保有すること。もう1つがいわゆる「インサージェント化」です。つまり、インド国内に残留した少数派イスラム教徒に対して支援をし、内側からテロによって社会を崩壊させるというやつです。その舞台が、ムスリムが歴史的に多く棲むカシミールでした。印パ戦争の結果、インドが、そのほとんどを軍事実行支配をしていますが、イスラム教徒がマジョリティーで、分離独立時には、パキスタンへの併合を願う人たちだったわけです。

 このパキスタンの「インサージェント化」戦法を、後に、ソ連がアフガニスタンに侵攻した時、アメリカは利用し、パキスタンを通してアフガニスタンのムジャヒディンたちを支援し、結果、ソ連は敗走。冷戦の終結を迎えるわけです。パキスタンは、その後も、アフガニスタンに親パの政権をつくるため(インドにつくられてしまったら、それこそ地政学上の敗北だから)、タリバン運動を支援します。そして9.11。アメリカが支援した連中が、アメリカに牙を向くという構図になっていきます。

 2014年、アメリカ、NATOは軍事的な勝利のないまま、アメリカ建国史上最長の戦争に一応、終止符を打てたわけではありませんけれども、戦闘部隊を全部撤退します。これは軍事的には敗北であります。敗北という実感がないのは、我々はこれをなんとか「民主主義の勝利」ということに見せかけているからです。つまり我々は14年間戦って、敵を殲滅できぬまま軍事的は敗走をするわけです。これがアフガニスタンです。「後はお前たちができる」とまだ開発途中のアフガン国軍に全責任を負わせて。今まで主力部隊、攻撃部隊として戦っていたアメリカを主力とする多国籍軍がいなくなるわけですから、当然「力の空白」が生まれ、アフガニスタンの「タリバン化」は、来年以降、不可避的なものになります。

 今、残された道は、タリバンをいかに「まともな敵」にするか、ということになります。民族的に同じパキスタン側のタリバンは、マララちゃんを撃ち、「イスラム国」とも共闘を宣言している奴ら。アフガニスタン側のタリバンは、一度「政権」を運営したこともあるし、それら新興勢力に比べ「分別」があるハズと。アフガン・タリバンとパキスタン・タリバンとの差別化を意識的に行わないと、「民主主義の勝利」ということでアフガニスタンに区切りをつけ、これから、よりグローバルな対テロ戦を継続する戦略の土台が崩れてしまいます。両者の関係というのは、CIAでも分からないわけですが、我々は、この差別化を無理にでも実現しなければならないのです。

 そのために大切なのは、アフガニスタンとパキスタン両政府の国境上の軍事的信頼醸成です。これまでNATOがボーダー・フラッグ・ミーティングという、歪ではありますが三角関係をつくることで、それを維持してきましたが、そのNATOがいなくなるのです。アフガン国軍は、9.11後タリバンと戦った旧北部同盟の軍閥色が強いですから、タリバンを支援したパキスタン国軍を基本的に信用しておりません。ですから、両者が戦闘になり、国境地帯が混乱したら、そういう混乱は、それこそ「インサージェント」の思う壺です。今までNATOとアメリカがやってきたことを、今後、国際社会(国連でしょうが)がどう引き継ぎ強化するか。これは、同時に、アフガン・タリバンを、一つの政治単位として「まともな敵」にするべく、彼らの政治的言い分に譲歩していく上では、彼らに突きつける最も根幹の条件として、パキスタン・タリバンとの決別を掲げなければなりません。その為にも、この国境に国際社会の「眼」を置かなければならないのです。

 インドのアフガニスタンへ介入。これが、地政学上、パキスタンが一番恐れていることです。だからこそ、インドは介入したい。アメリカとNATOの撤退後、アフガン国軍の維持支援に周辺国の「グレートゲーム」が始まろうとしています。敗走するアメリカ・NATOには、これを律する力はありません。一国の国軍が、周辺国のライバル政治によって翻弄される可能性が心配されます。ここでも、中国は大変大きな鍵を握っています。

中国 パキスタン 陸の回廊

 中国は、既に、パキスタンを、「陸の回廊」にしております(図参照)。パキスタンは、一応親米でありますが、中国を「ブレない友人」として、歴史的に非常に緊密な関係を築いてきました。

 図に示すように、中国は、非常に戦略的な3つの港を作っています。バングラディシュのチッタゴン、パキスタンのグワーダル、スリランカのハンバントタです。

 パキスタンにおいては、北の国境にカラコルム・ハイウェイを配し、正にパキスタンが中国の「陸の回廊」になっているわけです。シーレーンが封鎖されても、中東、そしてアフリカとの輸送路を既に確保している。

 表向きは海のシルクロード構想と呼ばれていますが、中国が狙っているもう一つの戦略は、インドの海上での封じ込めであります。スリランカです。

 スリランカに関しては、とにかく中国の戦略外交のしたたかさが非常に色濃く出ています。なぜかというと、スリランカは20数年間ずっと内戦をやっていたのです。仏教徒のシンハラ族が支配するスリランカ政府に対して戦っていたのがタミールの独立を狙うLTTE(Liberation Tiger of Tamil Eelam)。ノルウェーを中心に西側社会は、ずっと和平交渉の仲介を試行錯誤していました。ところが、2006年あたりから、急にスリランカ軍が強くなっちゃいまして、なんと簡単に勝ってしまったわけです。完全勝利ですね。西側は日本も含めて、あっけにとられた。中国が軍事支援したんです。資金や装備で。そして、パキスタンを軍事訓練などの面で「子分」のように使いながら。こうやって中国に勝たせてもらったスリランカは、中国の支援で南端のハンバントタで、軍港にも転用できる港を造っています。図でわかるように、シーレーンを確保すると同時に、見事にインドを封じ込めております。

 こうして中国は、このあたりの地政学上の支配の足場を固め、アフリカの資源至上を支配しています。スーダンのバシール政権のような独裁政権を無条件に支援しているという批判もありますが、逆に、強権でないと、このような資源に恵まれた(だからこそ利権がらみの内戦に明け暮れる)が更に無秩序になるという側面もあるため、簡単に批判はできません。そういう内戦の歴史的な要因をつくってきた旧宗主国の西側社会は、その辺のことを心得ていて、そういう中国と、嫌でも、アフリカ援助をいかに一緒にやっていくかの試行錯誤を始めています。日本の嫌中派が溜飲を下げるような低次元の国際関係に中国はありません。冷戦終結が内戦の時代の引き金を引いたように、アフリカの政権への中国の支援が弱まったら、どうなるのか。地球規模の人道的危機が起きた時に降りかかってくる日本を含む国際社会への負担は? 既に、中国は、そういう存在であるということです。

 それでも、そういう中国を単独で牽制できる能力が期待されている準超大国インド。昨年、ナレンドラ・モディという極右(ヒンドゥー至上主義・反イスラム)の人物が総選挙で地滑り的に大勝し、首相の座につきました。これがすごい男で、カシミールを始め対中国境戦では、中国に負けていますから、就任直後にインド軍を増兵し、一気に両国間に緊張が走ったのです。そうするとすぐに習国家主席が訪印し、何をやったかというと、中国の対インド経済支援をプレッジした。それも日本のそれの3倍の額を中国から引き出したのです。ものすごい、高度でしたたかな駆け引きです。

 中国は、パキスタンというカードで、アメリカ・NATOが撤退をするアフガニスタンを元とするグローバルな対テロ戦の近未来に、決定的な影響を保持します。これから、否応なしに進行するアフガン・タリバンを囲っているのは、パキスタンだからです。パキスタンを、いかに、対テロ戦の「誠実なパートナー」にするか。これに、対テロ戦の未来はかかっています。アメリカやその同盟国では、パキスタンを懐柔できません。「ブレない友人」の中国はタリバンとの和解外交に着手しております。

 最後です。「アフガニスタン戦」は、いわゆる“テロリスト”、もしくはインサージェントを通常戦力では殲滅できないという、明快な教訓を我々に示しました。前回、前々回の本会のシンポで僕が発表してきたように、アメリカ軍自身が、そのことを気づき、2006年にCounter Insurgency(COIN)として、軍事ドクトリンを大変換し、試行錯誤を繰り返してきたのですが、失敗、というか、まだ成功に程遠い状態です。

 新しい世代に派生を続けるInsurgentの常として、今、「イスラム国」が出現したわけですが、この戦争は、日本にとって対岸の火事であり続けるのでしょうか。ただ単にイスラム教徒が国内に少ないということだけで。いつ、「イスラム国」が、日本に直接の恨みはなくても、日本を、“アメリカの一部”ということ、そして“ソフト・ターゲット”だということで、都合のよい標的とみなすか。時間の問題だと思います。その時に、日本の何を、どこを、どのように狙うか。

 「まともな敵」をいかにつくるかの四苦八苦が支配する、この世界戦争の現状で、「中国の脅威」とは一体なんなのか。尖閣問題というプリズムで嫌中感が支配する我々の日本人の国防戦略は、根本的に見直す時期に来ていると思います。


加藤朗 桜美林大学教授

積極的平和主義に抗して 反安倍ドクトリン
加藤 朗

桜美林大学教授、同国際学研究所長、元防衛研究所

 これまで、中国やアメリカなどの話が出てきました。では日本はどう対処すべきかについて、「積極的に平和主義に抗して〜反安倍ドクトリン」というテーマでお話します。

 日本はもはやアジア随一の大国ではないという認識を皆さんはお持ちでしょうか。軍事、経済におけるアジアの大国は中国です。技術をはじめ、いかなる分野においても日本は既に大国ではありません。日清戦争以来110年経ちましたが、ついに日中の立場は逆転しました。

 吉田ドクトリンはそういう意味で破綻しています。「軽武装、経済優先」の前提条件である冷戦は既に終わっているという前提に立って、吉田ドクトリンに変わる新たなドクトリンは何かということを考えなければいけないと思います。つまり、これからいかに「軽武装」を継続するかということです。どう考えても中国との軍備競争に勝てるはずがありません。もう経済力ではとても太刀打ちができない。経済力で太刀打ちができないということは、軍事力においてもほぼダメだということです。

 それに対する安倍さんの答えがいわゆる「積極的平和主義」です。私はこれを安部ドクトリンと名づけています。これはこれまで以上に対米依存を高めていくという方法です。

 そして、もうひとつの答えは中韓との友好関係を促進するという方法です。この2つの方法のどちらかで軽武装をやっていくしかないだろうと思っています。その中身についてもう少し詳しくお話します。

 「積極的平和主義」で対米依存を高めるということですけれども、集団的自衛権行使の容認、防衛装備移転三原則、秘密保護法施行など、これまで安倍首相がとってきた様々な安全保障政策というのは、対米従属強化、日米同盟強化と一般には言われていますが、ひょっとすると対米抱き込み、アメリカと死なばもろともという自爆戦略、日本がアメリカを抱き込んで、万が一中国と何かがあったら、アメリカを巻き込んでやるぞという戦略なのかなとも思います。

 しかし、安部首相が元々思っていたのはそのような戦略ではなかったはずです。それは憲法改正であったり、靖国参拝の戦後レジームからの脱却でした。ところが安倍ドクトリンと戦後レジームからの脱却は矛盾をするわけです。この矛盾に今、安倍政権が取り組もうとしています。でも一体どのようにこの矛盾を止揚するのか、大きな問題だと思います。

 一方で「軽武装」になるために中韓との間でなんとか協力関係を促進しなければならない。しかし、中国は「国恥」、韓国は「恨」という日本に対する歴史認識問題をいかに解消するかという大きな問題を日本は抱えています。

 私の「新吉田ドクトリン」というべきものは、安部ドクトリンに対抗するかたちで考えています。我々がまだ失っていないブランドで唯一のものが平和大国です。この平和大国のブランドをいかに堅持していくかということが重要だと思います。

 そのためには、靖国参拝、憲法改正を封印すること。慰安婦問題での明確な政府の謝罪です。謝罪は今もしているということですけれども、さらに繰り返し謝罪せざるをえないだろうと思います。そして、自衛隊は専守防衛に徹するということであります。

 まず、対米戦略については自立です。憲法9条は安倍首相の思いとは別に、対米自立の切り札になるということです。つまりアメリカが何か言ってきても、日本は憲法9条があるがゆえに、限界があるということを言い続けることができる。これはある意味ではアメリカに対する大きな交渉カードになっていますし、これからもなるだろうと思います。

 対中国戦略についてです。最近、ワン・チョンというアメリカで教鞭をとっている中国出身の学者が「中国の歴史認識はどう作られたか」という本を出しました。その中で、多くの中国人にとって恥辱の一世紀の最大の恥辱は、かつての中国の朝貢国であり、従属国家だった日本に対する敗戦だと書いています。日本は従属国家であり、朝貢国であると見られているわけですね。

 それを踏まえた上で言えば、靖国参拝は日中平和条約の全体に反するものです。侵略の責任は「軍国主義者」にあるとの日中平和条約のフィクションを否定することになる靖国参拝を首相がするのはやはり控えるべきだと思います。

 憲法改正は、「国体護持」を降伏条件にしたポツダム宣言に反します。日本は「国体護持」だけを条件にして、後は全て何でも言うことを聞きますと言ったはずです。その結果、現在の平和憲法が作られた。それを否定するということは、ポツダム体制、サンフランシスコ講和条約を否定することになると思います。

 対韓国戦略です。「恨」に対してどう対応するかということです。依然として日本国内では強制連行の問題が慰安婦問題の本質のように思われていますが、慰安婦問題は現在の意味での人権問題です。強制連行問題ではありません。その本質は、人身売買と奴隷労働の問題です。このことがアメリカでも強調されています。軍が慰安所を管理した以上、日本政府に責任があると私は思います。

 したがって、潔く、とにかく潔く謝るしかない。謝った上で、韓国政府も慰安所を作っていたわけですから、同じようなことをした韓国政府にも「韓国も同じことをやっているだろう」と言っていく。とにかく我々が範を示して、あっさりと国家の責任を認めるということを韓国側に示す必要があるだろうと思います。

 最終的には、中国の「朝貢国」による集団安全保障体制の構築です。日本が協力してかつての中国の朝貢国によって集団安全保障体制を構築し、中国が強力な武力を行使できないような体制を築いていく必要があるだろうと思っています。


新たな米中関係と日本の安全保障 質疑応答

質疑応答と討論

柳澤 幾つか質問を頂いています。小原さんのプレゼンの中で、グレーゾーンも含めてどんな事例でどんなふうに対応していくのかを考えるよりも、もっと平時から自衛権をどうするかということを考えないといけないというお話があったと思うんですが、その辺をもう少し具体的にご説明してほしいという質問がありました。

 あわせて、平時のグレーゾーンといった場合、そこはあくまでも警察権であれ自衛権であれ、日本自身が日本を守るという問題になるはずなので、小原さんとしては、日本を守るための喫緊の課題の中で、集団的自衛権行使というのは具体的にどういうイメージ、どういう必要性があるとお考えなのかお聞かせ願いたいと思います。

 そして植木先生には、先ほどの著書のご紹介の中で、副題に「集団的自衛権がもたらすもの」とお書きになっておりました。集団的自衛権を使うとどうなるのか、さわりの部分をお聞かせ頂ければと思います。


新たな米中関係と日本の安全保障 討論

小原 私は本来、集団的自衛権の議論は、平時の自衛権の議論の先にあるものだろうと思っていて、集団的自衛権だけが先に取り沙汰されるべきものではないだろうと考えています。グレーゾーンの議論が先にと言いますか、平時の自衛権が根本的な問題でありながら、「平時に自衛権を行使するということなんですよ」ということはあまり強調されてこなかったのです。

 グレーゾーンというのは従来の判断では有事ではありません。グレーゾーンの事象に対応するということは平時に当たる部分で自衛権を行使するということで、なし崩し的にやっていいのかと私は今でも考えています。

 内閣の憲法解釈の変更によってなされたということですけれども、今後、法案化され国会で議論がされるということをもって、国民の議論がされるということです。まだその議論が行われていない段階にあるという認識に立っているわけです。国民の議論というのは国会での議論ということです。国会議員というのは、国民の直接選挙で選ばれた人たちですから、それをもって国会は日本の国権の最高機関であると定められているわけです。内閣は最高機関ではないわけですね。

 ですから、内閣が何かをしたい時には、国会がそれをしっかりとコントロールしなければならないわけです。内閣が決めたことについてもその法制化、法案化するにあたって、国会が議論する、これこそが国民の議論ということになるわけですけれども、安全保障政策に関しては、まだこの部分まではプロセスとしては行っていないということです。

 「事例ごとに考えるということは危険だ」というお話をしたのは、事例を特定するとその周りにはまた新しいグレーゾーンができるということなんです。相手がいるわけですから、相手は新しく自衛権が行使できるとされたところから外れたことをやろうとするでしょう。それを繰り返すと、結局なし崩し的にまた全部やらなければいけないということにもなります。

 現在でも自衛隊の現場の指揮官というのは、何か事象が起こった時に、これはどういった法律なり、法的解釈を元に行動すればよいのかということを常に考えなければいけないわけですが、今後起こる事象というのは、ますますそのスピードが早くなってくる。リアクションタイムを短くしなければならなくなってくるような事象が多く起こるだろうと予想されます。

 そのためにアメリカも自衛隊も機動化を図ってきました。機動化を進めてきたのは中国が脅威になると認識していたからではありません。そうであれば、南西方面に兵力を全部集中すればいいわけですが、そうではないのです。

 日本の周辺のどこで何が起こるか分からない、いつ起こるかも分からないから、兵力をいつでもどこへでも持っていけるような体制を作らないといけないということなんです。全て分からないからこそ備えなければいけないということです。国民は、平時から自衛権が行使できるという前提に立った上で、どういった事象に日本が関与すべきなのかという議論を始めなければいけないのではないかと思っています。

 議論の結果、そういった事象に関与しないという結論が出ることはもちろんありうることですし、自衛隊はそれに従うだけです。

 平時に自衛権が行使できるということが、すなわち、何か起こればすぐに機関銃を撃つだとか、ミサイルを発射するということではありません。このことについては、国民の誤解を解かなければいけないと思っています。自衛権を行使するということは、直ちに武力を行使するということではありません。

 例えば、尖閣の問題で、武装漁民の話が政府の方から出されていましたけれども、私が中国であるならば、漁民を使ったりはしません。

 海軍の軍人が漁民に扮することはあり得るかもしれませんが、軍隊というのは国際法上明確な規定があります。これは必ずどこの軍隊か分かる標識をつけていなければいけない、同じ制服、戦闘服を着て行動する、国家の指揮系統がなければならない、などですが、漁民に扮してしまうと軍隊とは認められないということになります。

 つまり、武装漁民のケースでは、コーストガードや警察が不法上陸した人間を逮捕するという警察権で対処できるということです。相手がいかに武器を持っていようと、相手が拳銃をもっているから逮捕できませんという警察官はいませんから、これは警察権で対処するということです。

 問題は警察権では国家の機関や軍隊には対処できないということです。ですから、もし私が中国であるならば、コーストガードを使うと思います。占領なんてことは言いません。悪天候避泊、更に船が故障したとでも言って、緊急避難のために上陸すると言います。

 そのような時、日本はどう対処するのかということです。そして上陸したところに修理のための物資輸送であるとか、乗員のための食料補給だと言って物を運ばれたらどうするんだということです。

 相手は国家の機関ですから警察権では手を出すことはできませんし、侵略でもないということであれば、自衛権も発動できません。こうした事象は他にもいろいろな所で考えられるだろうと思います。

 こうしたことに対して何もできないのかということになりますが、自衛権が行使できるということであれば、軍隊として対処することができます。

 軍隊は、他の国の軍隊であろうと国家機関であろうと対処することができます。ただし、相手が攻撃してこない以上、攻撃するわけではありません。

 相手の船が故障しているというのであれば、曳航してあげるということができるわけですし、彼らに対して必要な物資を提供して、一時的に護衛艦の中に連れてきて、必要とされる場所に移動させることはできるわけです。

 これは警察権と自衛権の違いの一部でもあるわけです。必ずしも武器を使うだけではなくて、対処できる事案、事象は変わるということも考えなければいけないわけです。

 こうした、自衛権が行使できない、軍隊として活動できないという状況は、そういったオプションは全て封印してしまう、そしてさらに日本人がどういった安全保障の対処、対策を取るんだということを考える機会すら奪ってしまうのではないかと考えるがゆえに、私は平時からの自衛権というものを考えなければいけないし、その議論が必要だと考えています。


植木 グレーゾーンの話を引き続きしたいと思います。明確なシグナルを送ることが戦争を防ぐのにとても大事だということです。中国を抑止するのであれば、中国が「こんなことになるくらいだったら、島なんていらなかったのに」と思うような状況になり得る、ということをあらかじめお互いに伝え合うということが大事だということです。

 グレーゾーンや集団的自衛権の話は、現場で不都合な面もある、それで制度を改正しなければいけないという議論が起こり、今に至っていることだと思います。

 その考え方というのは、シームレスに切れ目なくやるのだ、そのためにこういうところの穴を埋めればいいのだという発想です。しかし、考えないといけないのは、それが他国にどういうシグナルを送っているかということです。明確なシグナルを送っていなければ、目的であるはずの紛争の予防、抑止という目的が達成されないということだと思います。

 グレーゾーン事態については、一番大きく時間をとるべきところは、政治的な判断だと思います。軍事的に現場での効率性を優先すれば、政治が「どうしよう、ああしよう」と言っているのは、モタモタした無駄な時間になるわけです。しかし、民主的な国としてすごく悩んでもらわないといけないのは、その時間だということです。いかにスピーディーに対応するかということは、軍事的な効率から考えればものすごく大事なことで、国を守ったり、平和を守る上では大事です。けれども、逆に言えば、スピードアップされてしまうが故に、外交や政治的な判断に取られる時間は、もっと短縮されてしまうという危険があるということです。

 私たちが集団的自衛権を考えるときに、なんだか何が起こるのかよくわからない、グレーゾーンについてもいつの時点から自衛隊が投入されるのだろうとか、どういう権限で、どういうことができるということなのだろうというのが、はっきりしていません。しかし、私たちにはっきりしないということは、潜在的な攻撃相手にもはっきりしないということです。そういうことからすると、シグナルを送るのには不十分な点であるということですね。

 2014年は第一次世界大戦の100周年だったわけですけれども、当時ロシア軍のスピードがものすごく遅いということがフランスにとって悩みのためだったわけです。今の日本には平和憲法があって、普通の国のように速やかに対応できないのと同じように、当時はロシアが遅いということが、フランスにとっては悩みの種でした。

 ドイツはその弱みを知っていましたので、シュリーフェン作戦ということで、まずフランスを叩いて、その後まだノロノロと動員をかけてくるロシアを叩くという作戦をとりました。当然フランスは、いかに早くロシアを戦争に加わらせるか、動員させるかということに腐心しました。経済援助をしてロシアの鉄道網を整備したということがあります。やはりスピーディーに対応することが国家の命運を分けて、戦争の勝敗を分けると考えたわけです。

 サラエボ事件が起こり、戦争が勃発した頃は麦の刈り入れ期でした。刈り入れが始まると人が集まらなくなる恐れがあり、ロシアは半動員では間に合わないと考えて、焦って全動員をかけました。動員自体は戦争ではないのですが、ドイツは動員がかかった時点で、動員は戦争を意味すると言って、戦争に突入していきました。

 私たちが考えないといけないのは、尖閣への上陸が戦争を意味するのか、ということです。何をすべきかということを平和な時からよく考えておく必要があります。

 尖閣のことについていえば、誰もあの島を守る、あるいは守るために核戦争までする気はないわけです。全面戦争をすることも誰も思っていない。ただ、お互いに「絶対に譲らない」と言い合っている。でも、大きな戦争にはおそらくならないだろうとみんな思っている。「上陸」あたりから「全面戦争」までのどこかで戦争は止まるとみんな思っているわけです。でも、実は自然には止まらないわけです。私が心配しているのはそのことです。

 国民である私たちも、どこまでやる気があるのかということをよく考えて、エスカレートさせない日中間のメカニズムを作っておかなければいけません。

 中国が自分たちから譲歩するということがないとするならば、「これ以上やったらもっとひどいことが待っているよ」というメッセージを発して抑止するわけですが、それは必ずしも自然には止まらないので、実はものすごく危険を含んでいるということです。

 簡単に「絶対に譲らない」とか「毅然とした態度」とか言っていれば、事が済むことではないわけです。火を扱うよう慎重に、あらゆる方法をとって、意思疎通を図る努力をするべきだと思っています。

 集団的自衛権については、今までは日本が直接攻められるときに日本は自衛権を行使すると言っていたのが、それが密接な関係にある国が攻められた時にもありうるのだということです。考えないといけないのは、一体どういう戦争であれば、日本人や日本が直接攻撃されていなくても、日本は戦うのかということです。

 直接的な言い方をすると、今までは日本人の生命が危ない時に「守る」と言っていたけれども、これからは日本人以外のどの命を救うのか、どの生命だったら殺すのかという判断をすることになります。そして、今は地域や世界が安定していないと日本の安定も平和もありえないので、どの紛争に介入すれば日本にとって、地域にとって、世界にとって安全が増えるのかということです。

 私たちの個人的なレベルの話を例に取りましょう。例えば、日曜日に地域のゴミ拾いに参加してくださいと言われれば、できれば「はい。やりましょう」と言いたいと思うのです。「やれません」とばかり言っているのは肩身が狭い。その気持ちというのは国際社会でもあると思いますが、それをすることが日本の安全にとって結局プラスだということがなければ、無駄に戦争しているということになります。

 2003年にイラクに出てくださいと言われた時、あれだけの情報網を持っているアメリカでも誤ったわけです。その時に、日本がどのように行動するのかということを、私たちは常に考えていなければいけないことになるということです。

 必ずしも参加しないということが世界にとって平和を守れるという保障はないわけです。しなければいけない戦争はあるかもしれない。大事なのはしなければいけない戦争とする必要がない戦争、あるいは参加したらかえってマイナスである戦争というものを、きちんと見分けることです。そのためには、日頃からそういうことを考えたり議論したりすることが大事です。

 あるいは全ての戦争には加担しないのだと決めたならば、日本人はそれを守って、いろいろな国から相手にされなかったり、アメリカから圧力をかけらたりしても、そういう国であるということを守っていかなければなりません。その代償はあるかもしれませんが、決めるのは私たち日本人です。今日、伊勢﨑先生が教えて下さったような世界の情勢について、詳しく考えて、ニュースを読んで、見て、ということをしていかないといけないと思います。


柳澤 ありがとうございました。終了時間が迫っておりますが、小原さん、もし20秒でお答え頂けるのだとすれば、沖縄の米軍基地は中国から見て何なんですか? これで最後にしたいと思います。


小原 先ほど植木先生の話にも繋がるのですが、中国は今は日米同盟を否定していません。軍事力というと戦争にずれていく話ばかりで、そこに偏ると認識が少し変わってしまうと思いますけれども、今、中国は沖縄の駐留米軍に対して、それを単純に非難することはしません。

 日本の右傾化軍国主義化ということも言いますけれども、突き詰めていくと結局、中国の主張は日本の歴史認識の問題に行き着きます。その主張と、実際の日本の安全保障やその軍事面とを混同すると議論を誤る可能性もあります。

 中国に抑止が効かず、中国が何らかの行動を起こすという可能性はありますけれども、日中間の安全保障については、中国が言う「屈辱の世紀」の意味も考えながら、議論しなければいけないだろうと思います。


柳澤 ありがとうございました。他にもたくさんご質問を頂いたんですが、終了の時間が参りました。後はそれぞれのご著書をお読み頂く中でお答えを見つけて頂けたらと思います。今日は本当にありがとうございました。

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