南シナ海─警戒監視のための自衛隊派遣をどう見るか

南シナ海─。警戒監視のための
自衛隊派遣をどう見るか

2015.12.22(火)18:00〜

岩波セミナールーム

主催/自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会(略称:自衛隊を活かす会)

「自衛隊を活かす会」2015.12.22シンポ 南シナ海─。警戒監視のための<br>自衛隊派遣をどう見るか

司会/「自衛隊を活かす会」事務局 皆さんこんばんは。年末のお忙しい時期に沢山お集まり頂きまして、ありがとうございます。現在、自衛隊を活かす会は幾つかの方向で仕事を進めておりまして、その一つの柱が今回のシンポと関わりますが、新安保法制に基づいて発動が予想される問題について検証していこうということで、今日が第1回で南シナ海問題を取り上げ、第2回は2016年1月30日に札幌で南スーダン派遣問題をやろうとしております。この2つのテーマについて、国会の最中に陸幕の内部文書が暴露されたと言われていましたが、その内部文書の中で南シナ海と南スーダンに関連する部分は抜き出して、本日の資料としてお配りしています。とりあえずこの2つのテーマを取り上げて、その後もIS(イスラミックステート)の問題や、いろいろと予想されることがありますので、それに応じてやっていきたいと思っております。

 同時に戦場に自衛隊員が派遣されるという下で、その法的な地位が非常に不安定だという問題があります。この問題については海外の事例の研究ですとか、日本でどうしたら良いのかという問題を考えるようなものを準備して、皆様にご案内出来るようにしたいと思っております。

 これまでいろいろな方々をお招きしましたが、今日は南シナ海問題ということで、自衛隊を活かす会のシンポジウムでは初めての方々を3人お招きして、それぞれのお立場からこの問題をどう見るのかということを最初は20分ずつご報告を頂いて、その後、議論をしていきたいと思っております。

 最初に報告して頂きますのは元海将で情報本部長の太田文雄さんです。よろしくお願いいたします。


太田文雄 元海将・情報本部長

ゲストのご発言
太田 文雄

元海将・情報本部長

 非常にタイムリーなトピックだと思います。というのは、5日前のジャパンタイムズはオーストラリアが監視活動、監視飛行を南シナ海でやったという報道で、「move could focus attention on Japan」(日本に焦点があたっている)と報道されていました。

 シドニー・モーニング・ヘラルドの12月19日の報道では、オーストラリア空軍のP-3が監視活動で入ったと報じています。オーストラリアのペイン国防大臣が南シナ海での哨戒飛行を停止する予定はないということを言っています。

 このペイン国防大臣は、かつてアメリカのCSIS(Center for Strategic and International Studies:戦略国際問題研究所)のシンポジウムで、南シナ海にはオーストラリアの国益が存在しているということを表明しています。

 どういうことかと言いますと、中国が最近開発した新しい弾道ミサイルは、中国本土に置いた場合にはオーストラリアを射程に収めることはできない。ところが今、中国が作っている人工島に弾道ミサイルを配備すれば、ほぼオーストラリア全域をカバーできるからだと私は推測しています。

 日本はどうかというと、私はオーストラリア以上の国益があるのではないかと思います。一つは我が国の重要な海上交通路だということです。中東から運ばれる油やエネルギーの約8割がこの南シナ海を通ってきます。そこに中国が今、作っている人工島群と、まだ人工島にはなっていませんが、中国がフィリピンから奪ったスカボロー礁がある。ナトゥナ諸島――これはインドネシアが領有している島ですが――、これについては後で触れさせて頂きます。

 そういった背景から、オーストラリアでは、日本はアメリカが行う南シナ海における「航行の自由作戦(Freedom Of Navigation OPerations:FONOPs)に参加するのか」というレポートが出ていますし、10月下旬には「なぜ日本は南シナ海に巻き込まれるということに対して拒否するのか」という報道も出ています。

 それで本題に移りたいのですが、今日のシンポジウムの案内チラシには「新安保法制の予想される発動事例の検証」ということで、哨戒機のP-3と思われる絵が書いてありますね。ところが新安保法制、平和安全法制に寄らなくても、現時点においても防衛省設置法の第4条18項に基づく調査研究という項目で、南シナ海のサーベイランス(surveillance:監視)を行うことは可能です。現に、今年(2015年)6月にはフィリピンのパラワン島付近で、海上自衛隊のP-3がフィリピンと共同訓練をやっています。現時点でもやることは出来るということです。

 それでは新安保法制で何が可能になったのかということですが、これを平時、重要事態、そして存立危機事態の三つに分けて考えてみたいと思います。

 平時における米軍等の部隊の武器等防護のための武器使用が可能となった。これは自衛隊法第95条になります。ただし、この米軍等の部隊に関しては「我が国の防衛に従事している」という条件が必要です。したがって、南シナ海で航行の自由作戦を行っている米軍を武器等防護のために武器を使用するということは、この条項を使っては難しいのでないかなというのが平時における可能項目です。

 二番目の重要事態。これはかつての周辺事態法の周辺事態です。これに関して、米軍等に対する後方支援が出来るようになりました。ところがこの行使の条件として「放置しておくと我が国の安全保障に及ぶ」という条件が必要です。後で触れますが、それをどのように解釈するかという問題があると思います。

 最後に、存立危機事態に関しての防衛出動。これは、いわゆる新三要件「我が国の存立が脅かされ、国民の生命自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」ことで、この存立危機事態を使って、防衛出動でこれに対処するということは、非常にハードルが高いのではないかと思っています。

 もう一つ時期的な問題として、法の執行は本年(2015年)の9月30日から半年後ですから、2016年3月末以降という条件があります。

 さて、重要事態の「放置すると我が国に及ぶ」ということをどのように解釈するか。一つには先ほども言いましたように、重要な海上交通路が通っているところに、例えば人工島に戦闘機や軍艦が配備されると我が国の海上交通路が脅かされて、我が国の安全保障に影響を与えるという解釈があろうかと思います。

 もう一つ、南シナ海の問題は、南シナ海だけではなく東シナ海にも及ぶというところが重要なポイントだと思います。なぜかというと、中国が1992年に制定した領海法、この範囲はいわゆる南シナ海のNine-dotted Line(九段線)内のみならず、東シナ海の尖閣列島も含むほぼ全域に中国の主権が及ぶとしていますので、南シナ海における中国の領有権を見過ごすということは、即、東シナ海にも波及すると考えなければいけないと思います。

 今、中国には7つの軍管区があります。習近平が軍を30万人削減するということで、おそらく4〜5位の軍管区になるだろうということで、中国のネット上に出てきている図によれば、明らかに南シナ海のほぼ全域のみならず東シナ海をも自分達の主権が及ぶということにしています。もちろん台湾も一つの中国ということで、おそらく台湾の基隆(キールン)だろうと思うのですが、そこに東海艦隊の司令部を作ろう。北は北海艦隊の司令部であるところの青島(チンタオ)ですね。南は弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の母港がある海南島の三亜(サンア)に、それぞれ海軍司令部を配置するというような構想がある。

 のみならず、中国の海洋進出計画――これは人民解放軍内部の国防方針ですけれども――、1982年から2000年までを「再建期」として沿岸海域の完全な防衛態勢を整備する。

 そして、2010年までを「躍進前期」として、先ほど言いました第一列島線(日本から台湾、フィリピン、ボルネオに至るライン)内の制海を確保する。

 次に「躍進後期」として、2010年から2020年までに第二列島線内、すなわち小笠原からグアムまでの海域の制海権を確保するのと、空母を建造する。そういったことから、おそらく沖ノ鳥島なんかも中国は日本の排他的経済水域を認めないという立場ですが、それはこの布石だろうと思います。

 それから2020年〜2040年までの間に「完成期」として、米海軍による太平洋、インド洋の独占的支配を阻止し、2040年には米海軍と対等な海軍建設を行うというのが、人民解放軍内部の国防方針です。

 それを裏付けるような形で、尖閣諸島だけではなく、中国は沖縄に関しても主権の問題を言い始めています。環球時報の――中国共産党中央委員会の機関紙である人民日報の国際版です――、2012年9月の記事を訳しますと、「2006年3月4日に琉球で――沖縄ですね――、住民投票が行われたところ、75%が独立を要求し、中国との自主的往来の回復を要求。残りの25%が日本への帰属を求め、独立を要求しなかったが自治に賛成」と、環球時報のネットに出ています。

 ところがですね、2006年3月4日に沖縄で住民投票をやったという事実は全くない。これは真っ赤な嘘。この記事が出た後、2013年5月に人民日報では「沖縄の主権に関しては未解決だ」中国も文句を言う権利があるのだというような社説が出ています。

 環球時報の記事は『孫子の兵法』用間篇第十三にある「死間」(偽情報の流布)、いわゆるディスインフォメーションですね。ニセ情報の流布ということの一例だろうと思います。

 私がなぜ『孫子の兵法』を言ったかというと、実は去年(2014年)の9月3日、習近平が抗日戦勝記念日を制定した時に、人民解放軍に対して「孫子の兵法を学べ」と訓示しているのです。

 中国は、この『孫子の兵法』に基づいてやっているなということが分かるのは、例えば、謀攻篇第三に「自分が相手よりも5倍の兵力ならば、すなわちこれを攻めよ」「自分が相手よりも倍の兵力だったら、相手を分散させよ」というのがあります。後に説明しますが、ベトナムの法執行部隊――日本でいう海上保安庁ですね――、の兵力は、中国のだいたい5分の1です。そうすると自分が相手の5倍ですから、これに対して攻撃をするということで、2014年にはベトナム公船へ中国海警が体当たりをしました。

 もう一つ虚実篇第六に、「兵の形は水に象(かたど)る」「水の形は高きを避けて低きに赴く。兵の形は実を避けて、虚を撃つ」と。すなわち、強い相手を避けて、弱い相手に入り込んでくる。

 即ち東シナ海に関しては、日米安保があって日本も自衛隊を持っている。それに対し、南シナ海ではベトナムにしてもフィリピンにしても海軍小国です。そういったところにまず攻勢をかける、ということが言えるのではないか。

 今年(2015年)、アメリカ海軍情報局が出版した「人民解放軍海軍」の中で、法執行部隊――すなわち海上保安庁――の、保有船の比較があります。中国は205隻、日本が78隻、ベトナムが55隻、したがって、ベトナムと中国を比べると約5倍ですね。日本は大型船が多いということで大体2倍ですから「倍ならば、これを分かち」ということで、父島、母島あたりで密輸サンゴの違法操業を中国の国旗を掲げながらやって、海上保安庁の兵力を分散させるという戦略に出ているのではなかろうか。

 さらに航空自衛隊の兵力を見ますと、「ミリタリー・バランス」からの引用ですが、2011年から2012年までの間に、航空自衛隊がまるまる出来上がってしまってしまうくらい増勢されているということです。第4世代戦闘機10個の飛行隊を作ってしまった。10個飛行隊というのは、航空自衛隊が保有している第4世代の戦闘機の数と同じです。

 現在の時点で、第4世代戦闘機――F15とかですね――、そういった戦闘機の日中比は、日本が300に対して、中国は731、約2倍です。しかし、10年後、20年後にどうなるか。中国が今までの調子で二桁の軍備費を増強し続ければ、2015年の現時点において、日本の防衛費は中国国防費の大体3分の1〜4分の1ですが、これが2020年になりますと、6〜8倍に開くということですね。2020年くらいに中国の軍事力は日本の約5倍になってくるので「5倍ならすなわち、これを攻める」可能性が出てくる。これに対してどうするのかということです。

 日本は社会保障費が膨らんでくる。財政赤字がある。その中で中国と競って軍拡をやっていくという余裕はおそらく経済的にないでしょう。そうすると、方策としては最大の軍事力を持った米国との同盟を強化する以外にないのではないか。しかし安保法制が出来る前の状態では、例えば米艦を中国の弾道ミサイルが攻撃する、あるいはグアム島に飛来する、共同作戦をやっている米艦に対して潜水艦が攻撃をした場合、海上自衛隊の艦はそれを探知し、反撃出来る能力があるにも関わらず、集団的自衛権の行使ができませんから反撃出来ない。こうしたことを改善して同盟を強化しようというのが今回の安保法制の最大の眼目ではないか、要するに日米安保体制を強化するというのが目的であろうと思います。したがって安保法制に関しては、限定的ではありますが集団的自衛権を行使出来るようになったというのが大きな進歩だと私は思っています。

 最後に、日米同盟の強化以外にどういう方策があるかと言えば、他の海洋諸国と連携して中国を孤立に追い込むということがあります。中国の人工島の造成と軍事化に歯止めをかける数少ない方策の一つが、中国の国際的孤立です。

 そのためには、冒頭に示しましたように、オーストラリアがP-3を哨戒飛行させた、フィリピンやベトナムは当然のことながら、中国の行動に対して反対を唱えている。加えてフィリピンが提訴したハーグにおける常設仲裁裁判所の裁定、これは来年(2016年)の春になりますが、その裁定はおそらく中国に対しては不利なものになるでしょう。九段線という南シナ海のほぼ全域を中国の領海としてみていることに関しては、NOという裁定になるのではないかというのが、かなりの国際法学者の予測です。

 それから最近あった話ですけれども、シンガポールはアメリカ海軍の哨戒機P-8を受け入れる、マレーシアも受け入れ表明をしました。インドネシアは先ほど示しましたナトゥナ諸島の領有権に関して、今はインドネシアの主権を認めていますけれども、中国が領有権を主張した場合には国際司法裁判所に提訴をするというようなことを最近言い始めました。来年(2016年)1月に行われる予定の台湾の総統選では、中国と距離を置く蔡英文民主進歩党主席の勝利が確実でしょう。

 それで日本はどうするかということですが、やはり航行の自由というのは大切な海上交通路が通っていますので、我が国自身の問題です。これに対しては、日本の積極的な関与による米国支援、例えば海賊対処でアデン湾に艦艇やP-3を派遣していますので、その行きや帰りに米海軍と一緒に航行の自由作戦をやるというのも一つの方策だろうし、あるいはフィリピンやベトナムは海上保安庁の船をほとんど持っていませんから、そういった国々への能力構築や共同訓練をして能力を高めていく。それから、今月行われたインドのモディ首相との共同声明のように一方的な現状変更に対しては反対するという共同声明を同じ価値観の国々と出していく。

 こういった多角的な方策によって中国を孤立させる。やはり中国はメンツの国ですから、非常に国際的な世論を気にしています。100%保証はできませんけれども、中国の国際的孤立が人工島の造成や軍事化の歯止めとなる可能性があるのではないかと思っています。


司会 ありがとうございました。続きまして、現在、津上工作室代表で、以前、通産省で北東アジア課長をしておられた津上さんにお願い致します。


津上俊哉 元通産省北東アジア課長、津上工作室代表

ゲストのご発言
津上 俊哉

元通産省北東アジア課長、津上工作室代表

 私はこの問題については専門家ではないのですが、ブログに思いつきのことを書いたら、多分、主催の方の目にもとまって、喋れということになったのかなと思っております。私は中国の専門家でございますので、この問題についても中国が何を言っているかとか、そういうようなことをみる機会がやっぱり多いわけです。

 日本と中国とで言い分が違うというのは当たり前のことですが、日本が他の国とも言い分や見方が違ったり、ということになると、不安を覚えるわけです。その観点で言うと、今の日本の対中世論や対中論調というのは、往々にして他の国の世論や論調とずれることがあるような気がしています。実は、南シナ海問題も他の国と一致しているように見えて、実はあちこちがずれているのではないか、という不安を感じている部分があります。

 ベトナムが南シナ海で埋め立てや飛行場の建設をやってきたという証拠の衛星写真があります。中国がこういう衛星写真を「他の国だってやっているじゃないか」と言って出すんだったらそれは非常によくわかるんですが、これが出ているホームページは、CSIS(戦略国際問題研究所)という、先ほどもちょっと名前が出てきましたが、アーミテージさん、マイケル・グリーンさん、ジョセフ・ナイさん、ジョン、ハムレさんという、ジャパン・ハンドラーズと呼ばれる御歴々のシンクタンクのホームページにこれが出ているわけです。

 私はこれを見て、何故よりにもよってCSISが「中国の肩を持つ」みたいな写真を載せているのかと理解に苦しんで、少し勉強をはじめたんです。その結果、分かったことというのは、例えば日本の論調は「中国の無法な、違法な行為に対して、アメリカが強く糾弾している」ということが書いてあるわけですが、それは多分にマスコミの創作による部分が多い。話はそんなに簡単ではなさそうだということでした。

 例えば、今年(2015年)のシャングリラの会合(IISSアジア安全保障会議)の時に、アメリカのカーター国防長官が中国を非常に強く批判したということになっているんですが、中国の代表団は逆に「去年のヘーゲル前国防長官に比べるとずっと受け入れやすかった」というコメントを残しているんですね。あれ?何と言ったのかと思って、国防総省のホームページでスクリプト(演説原稿)を探してみると、「全ての関係国は埋め立てとか何だとかの現状変更をやめろ」という言い方をしていて、「中国がやめろ」とは言っていないんです。同時に、CSISのホームページには、ベトナムも同じことやってきたよねと。ベトナムは確か2011年から埋め立てを始めたというような中身だったと思いますが、そのようなことが載っているわけです。

 アメリカが送っているメッセージというのは、すごく微妙な「お前だけが悪いと言うつもりはないけれども…」というニュアンスが漂っている感じがしなくはない。

 調べてみると、現に南シナ海というのは埋め立てや構築物の建築などというのは、関係国は全部やってきているんです。そういう意味で言うと、「手の汚れていない」国は一つもいない。だから、CSISの中に出ている論文を見ても、この地域でこういう問題について、新しく規範やルールを作るとしたら、何がみんなが最終的にギリギリ折り合えるところになるんだろうか、ということについての考察をしたペーパーがあって、この地域では多分、「ステータス・クオ」(Satus quo:現状維持)ですらルールにはならない。強いて言うと「強制的な」――コエルション(Coercion)と言いますが――、力づくで現状を変更するのだけはやめようね、というぐらいしかルールになるものはないんじゃないかみたいなことが書いてあるわけです。やはりこの問題は日本で捉えられているよりもはるかに微妙で複雑な経緯があるのではないのかという感じがしました。

 ただ同時に、中国の埋め立てにより、滑走路はほとんど出来上がっちゃいましたという話なんですが、中国がやっていることも相当無茶苦茶だというのも事実です。

 アメリカはじめ関係国がにわかに憂慮を深めたのはこの2〜3年の間です。それまでおとなしかった中国が堰を切ったように無茶苦茶、埋め立てとか何かに力を入れだした。過去、関係国が20〜30年やってきた総量を上回るぐらいの工事を2〜3年の間にエイッ!とやっちゃった。「いくらなんでもやりすぎだろう、お前」という気持ちがあると思うんですね。これは程度の問題だけれども、いくら何でも度を過ぎたというのが一つです。

 もう一つが、この滑走路を軍事利用されて、周辺国の航空機や何かを蹴ちらすみたいな、それこそ防空識別圏を設定してというようなことをやりはじめると、本当に地域の軍事バランスが全然変わってしまうけれども、「中国はやりかねないよね」という感覚というのがあってのことだろうと思います。

 そういう意味ではどちら側にも言い分があり、よくないところもある、そういう話なのかなあという気がします。

 日本の報道のちょっと変だなと思う部分を言うと、これは日本の報道だけではなく世界中に流れたCNNの報道ですが、5月に「埋め立てしたところなんか領土、領海だと認めないぞ」という示威行動として、CNNのTVクルーを乗せた米偵察機P-8ポセイドンが上空を飛んだ、というような報道がされたわけですが、よくよく調べてみると、領海12海里には全然近寄っていないんです。その領海の外側を回っただけでした。その後、太平洋艦隊の司令官も同じことをやっていますが、その時も同じでした。

 この程度であれば、先ほど太田さんからもご紹介がありましたが、6月にフィリピンとの共同訓練という名目で、自衛隊は安保法制成立の前から、既に似たようなことをP-3Cでもうやっているわけです。最近はオーストラリアも同じ事をやったということなんですが、アメリカというのは強硬なことをやっているようで、実はすごく気を使いながらやっているという印象がありました。

 9〜10月に「フリーダム・オブ・ナビゲーション」(航行自由)とか何だとかの話があったんですが、9月に中国海軍がアラスカで12海里の米国領海の内側に入ったというニュースを聞いて、私は「何で?」と信じられない思いがしました。

 その後、米軍の側は、なかなかホワイトハウスの許可が下りず、中国が12海里と主張しているところに入る・入らないというオペレーションがいよいよ認可を得るらしいということになって、消息筋みたいな話ですが1〜2週間内には行くぞ、というような予告を米軍の関係者がしているという…。普通、そんなに「行く行く」と予告したりしないだろうと思いまして、ひょっとしたらこれは「近々行くけど、先にまずお前がやれ」と、米中間で談合でもしているんじゃないかと疑ったことがあります。

 ちょうどその頃、アメリカ議会関係者とか、CRS(アメリカ議会図書館の議会調査局)の方々が日本に来られることがあって、「まさかそういうことじゃないですよね?」と聞きましたら、「そんなことはない」。ただ、アラスカで領海に入られた時、アメリカはすごく静かだったんです。「それはなぜだったんでしょうか」と聞くと、「我々は人民解放軍の挑発だと思った。領海に入られたアメリカが激昂したときに『あなたは他人の領海に入っても良いが、私が他人の領海に入るのはダメ、なのはなぜか』と、ダブルスタンダードを突くために中国は挑発をしてきたんだろうと我々は解釈して、その挑発には乗らないということで沈黙を守った。その結果として、人民解放軍は碁や将棋で言う『ハメ手』を仕掛けたが、見破られてかえって損をしたというようなことになったのではないか」と言っていました。

 ただ、オバマ政権が航行の自由作戦を許可するかしないかを議論すればするほど12海里というところが浮き彫りになって、先ほど話に出た環球時報でも、「こっちが宣伝もしないのに『12海里、12海里』と言って頂いて、我々の権利が浮き彫りになったようで有難いことだ」と皮肉を飛ばしていましたが、大体こういうものは、「Just Do It」でやればいいのであって、「それをやったらどうだろう、中国を刺激するんじゃないか」って散々議論したので、かえって損をしてしまったと、オバマ政権のやり方を批判する声もすごく強いということも議会関係者の方達は言っていました。

 他方で、南シナ海の問題に限らずですが、今の中国に対してワシントンなどではすごく見方が厳しくなっている。この1年間ぐらいですごく態度が硬化してきていると。やはり中国と一緒にやるのは難しいんじゃないかという悲観論も強まっているということが言われていて、中国に対するアメリカの姿勢がこれから強硬になっていくだろうということをよく聞くわけです。そういう面は確かにあるんだろうと思いますが、アメリカの対中政策というのは、そういう政治とか安保の人たちだけで決めているわけではありません。「最低5つぐらいの勢力が押し合いへし合いして、結果的にアメリカの対中政策というのが出てくる」という性格のものなので、国務省や国防省だとか、ワシントンだとかの、特にタカ派の人たちがすごく見方を厳しくしているのは事実だけれども、それだけで政策が決まるほどアメリカの政策は簡単でcoherentな(首尾一貫した)ものではないという話も聞きました。僕もそうなんだろうなと思います。

 次に、これが私に喋れという本体のところだと思うんですが、九段線というのはもともとは十一段線でありまして、十一段線というのは台湾に逃れた国民党が言い出したものです。戦前の国民党は「自分たちは帝国主義、侵略の被害者だ」というルサンチマン(被害者意識)がすごく強かった人たちです。その人たちが一方では「モンゴルも含めて全部中国の領土だ」と主張したのもルサンチマンのなせる業なのでしょう。その「海」編が十一段線ということだったわけです。

 中華人民共和国が、国民党の領土・領海主張を引き継ぐ時にどういう経緯があったのか、私はまだ詳しく勉強したことはありません。「なんとなく引き継いだ」んじゃないかなという気もします。いずれにせよ自分たちから「十一段線はちょっと言い過ぎなのでトーンダウンします」とは言いにくいだろうなという気がします。結果的には国民党が目一杯で主張したものを誰も修正することなく今日まで引き継がれているというのが実態ではないかなという気がしています。

 十一段線もそれに由来する九段線も、国際法上は何の根拠もないけれど、今や中国では誰もそれに疑問を挟むことができない存在になってしまっているのでしょう。この南シナ海問題というのは、中国からみると「中国が正しい」と思っている人は中国人の99.9%ぐらいを占めるのだろうなと思います。中国国内で、「俺たちも南シナ海では強硬にやりすぎだよな」と言っている人はほとんどいないと思います。それぐらい中国人にとっては「中国の立場は正しいんだ」ということで一致団結していると言って良いと思うんです。

 私は以前から、習近平という指導者は、今はとにかく内政に山ほど問題があって、その難局を乗り切ることが彼に託された最大の課題なので、その課題をさらに難しくするような対外的な揉め事というのは、出来れば避けたいというのが本来の彼の気持ちだろうと思っています。じゃあ南シナ海でも、もうちょっとトーンダウンして波風が立たないようにすればいいようなものですが、そうすると今度は国内が収まらなくなる。だから譲歩はできないが、他方でアメリカと事を構えるということもいかないので、非常に困っていると思います。その中で、とりあえずはStatus quo(現状維持)、滑走路も完成したので、とりあえずはそれで留め置く現状維持という格好で、いまの国際的批判をやり過ごそうとしている感じではないかと思います。

 アメリカ海軍のミサイル駆逐艦ラッセンが中国の領海に入ったわけですが、「あれはカッコだけだから、やらせておけばいい」というような公式論評を流して、努めて平静を装って、国民に問題視されないように…とにかくlow-key(控えめ)に世論管理を一生懸命にやっているという感じでした。

 ただ、人から聞いた話ですけれども、軍の他に国家海洋局という組織がありますが、ここは「失われた領土、奪われた領土のルサンチマンの塊」のようなところがあって、中国が奪われた領土・領海をどうやって取り返していくかという「ロードマップ」をずっとノートに書き溜めるように画策してきたような役所なんだそうです。「そういう眼でこの30年間を見ると、国家海洋局がそのロードマップを一歩、また一歩と実現してきたプロセスなんだ」と、この分野を専門に研究している人から聞いたことがあります。

 我々も参照出来るような彼らの文献を見ていると、やはりこの先には、例えば「南沙市」みたいな行政区画を設営するとか、――西沙諸島では三沙市(さんさし)を設定しましたが――、東シナ海と同様の防空識別圏を宣言するとか、そういう形でさらに支配を強めていくというロードマップの残りがまだ書いてあって、その機会を窺っているという状況らしい。だから、放っておけば、何かの機会にまた次の行動に出るというのは十分ありうることなんだろうと思います。

 ただ他方で、最近、中国の経済成長がちょっとおかしくなってきています。私は――これが本職なんですが――、中国が15〜20年後まで高成長が続くなんていうことはありえないということをずっと主張してきた人間です。名目GDPの2%という国防予算――グラフを書くとほぼ真っ平らの線になるんですが――を、今後、中国はどうするのか。

 予算全体が伸びなくなってくる中で、国防や海警だとかの予算も今までみたいな伸びも見えないというときに「我慢して2%の中でやれ」とするのか、それとも「アメリカの国防予算はGDP比で4%ぐらいあるんだから、中国だって4%使っていいはずだ」と、軍への資源配分を増やしていく方向に行くのか、中国には選択肢があるわけです。

 どっちに行くのか非常に注目されるところですが、先月の5中全会(中国共産党中央委員会第5回全体会議)で、2016年からの5カ年計画を審議したというニュースがありました。その5カ年計画の文書では、軍のくだりに今まで見たことがないようなことが書いてあるんです。その一つは「小康社会の全面達成」です。小康社会とは要するに13億人の国民がみんなそこそこの、日本流に言うと健康で文化的な最低限度の生活が送れるということなんですが、「小康社会の全面達成の進展と相一致させつつ、国防、軍隊建設を全面的に推進する」という書き方をしたんです。この「小康社会の全面達成の進展と相一致させて」というのは何なんだと。まだ中国の人に聞くチャンスが無く過ぎているんですが、この「全面小康達成」について、経済の方で何が言われているかというと、2020年まで平均7%成長して2010年の2倍のGDPに持っていくというのが「全面小康達成」の数値目標として定まっているんです。5中全会ではもう一つの目標として、国内から貧困人口と言われる人たちをなくすという目標も「全面小康達成」の表現としてありました。

 そういうものと「一致させて」というのは、読みようによっては経済成長とペースを合わせてやってもらうんだよという申し渡しを軍に対してしたみたいなところが意味としてあるのかもしれないんですね。GDP2%を4%へ向けて上げていくという道はとらないということなのかもしれない。

 実際問題として何で2%でピタッと止めているかというと、国内の資源配分を変えないということです。プロラタ(比例配分)にするということです。それだったらみんな文句は言わない。けれども誰かを増やして誰かを減らすということになると、当然文句は出るわけです。国防予算を増やすためには社会保障を削らなければいけないし、貧困人口をなくすということも控えなければいけないし、いろんなことを我慢しなければいけなくなるんですが、それに対して中国国民の方も相当強い危機感を持っているということです。

 人民解放軍の30万人の削減というのがニュースになりましたが、習近平の演説を見ていると、演説の時間のかなり早い段階で――ウケ狙いではないけれども――、「30万人削減します!」みたいなことを言って拍手が入ったような感じなんです。やはり中国国内には「軍隊ってちょっとどうなの」という冷ややかな意見も実は相当あるんだろうと思います。

 GDP2%を4%に持って行くというのは非常に難しいし反対も強いし、おそらく政府首脳もそうしたくない、しかし、強硬派の人たちは何かのチャンスがあったら、「外国からこんなことをされて黙っていていいのか」と世論を煽って、予算の増額を仕掛けにいくというような狙いがあるんだろうと思います。

 中国の担当部局はDNAのように失われた領土、領海を取り戻していくということを固く心に誓った存在だということを忘れてはなりません。この人たちはリソース(目的達成のために必要な要素)があれば多分やるだろう。ずっとチャンスを狙っていて、チャンスが来た時には機を逃さずに掴む人たちですから、放っておくとやるんだろうという気がします。そうすると、やらせないというのがすごく大事なことで、例えば、中国が予算を増やすきっかけに使われるような「挑発」を我々の側はしない、そういう隙を作らないということが大事ではないかと思っています。

 最後に、日本は南シナ海でどうすればいいのかということですが、私は専門家ではないものですから通り一遍のことしか知恵として出てきません。

 ただ私は、アメリカの「南シナ海のエアパトロールをやってね」という期待の表明について、米軍はどこまで本気で真剣にこの問題を考えた上でそう言っているのかということに少し不信感を持っています。ブログに書いたのもその話です。

 私は中国と付き合っているうちに、「自分が中国だったらどういうことを考え、何をするか」を考える癖がついたんです。そこで、南シナ海の問題で、中国が「日本の行動は絶対に許し難い、何としても止めさせたい」と思ったら何を仕掛けてくるかを考えてみると、私はやはり「日米の側が中国にやられて一番嫌なことをやる」のが一番効くんだろうと思うんです。

 つまり、南シナ海ではなく東シナ海でまた「日中一触触発」のような緊張が高まるとか、日本が埋立(護岸強化)した南鳥島で領海に侵入しまくるとか、日本の領海で中国との武力衝突が起きるかもしれないという事態を突きつけていくことが一番嫌がられて、一番効果的なことだと中国人は考えるのではないかと思うわけです。

 米軍は自らの負担を軽くしたいから日本に「南シナ海のパトロールをやってね」と言っている訳ですが、それがきっかけで日中が軍事衝突したら負担軽減どころか一番困るわけです。もし中国が「日本にそんなことをやらせるんだったら、東シナ海で日中の武力衝突も辞さずだ」という態度をとったら、アメリカは日本に対して「それでもいいから頑張って南シナ海のパトロールを続けてくれ」とは言わないのではないか、「パトロールはもういいわ」と言い出しかねないんじゃないか、どこまで本気で真剣にこの問題を考えた上で日本にパトロールを求めているのか…「少し不信感を持っている」というのはそういうことです。

 だとすると、その程度の話で自衛隊員の命を危険に晒すなんていうのは馬鹿馬鹿しい話なのではないかという気もしてくるわけです。

 それから、同じ(パトロール)行動でも、アメリカがやるとき、オーストラリアやベトナムがやるとき、日本がやるときと、やる相手によって中国の反応は変わってくると思うんです。ある意味、日本というのは一番、中国が過激に反応する一番弱いアキレス腱です。アメリカにやられたのなら文句があっても黙っているけれども、同じ事を日本がやったらぜったい許さない――そういう過去の歴史や何かがありますよね――、日本は南シナ海で何もしないわけにはいかないとは思いますが、そういう観点から見ると、単独行動はやっぱり止めた方が良いと思います。

 そういう意味で、フィリピン海軍との共同訓練の名目で、実は海自が哨戒機のP-3Cを既に飛ばしていることに私は不安を感じます。日米共同というのも出来れば避けて頂きたい。私が一番良いなと思うのは、同盟国みんなのマルチ対応です。オーストラリアもベトナムもアメリカも日本もみんな参加してやります――「みんなで渡れば何とか」のような――、そういう形で味方を増やして、大勢で協調してやっているという姿にすればするほど中国は手を出しにくくなるという気がしますので、ぜひみんなでやれるという仕組みを考えてもらいたいと思います。

 自衛隊OBのある方が書いていた話の引用ですが、南シナ海でマレーシア航空の飛行機が失踪して、どこに行ったかさっぱり掴めないという事件がありましたよね。南シナ海は状況監視――何が起きているか調べるとか、モニターするとか――、のインフラがほとんど整っていない地域らしいんです。専門用語で「海空領域認識」と言うらしいですが、そういうものを共同で構築していくための援助なども、みんなで一緒にやるという取り組みの一つとしてやったらいいと思います。

 さらに言えば、日本というのは、特に今はそこまでのことをする器量ではないかもしれないけれども、そういう取り組みに中国も「アンタも入りなよ」と取り込んでいく努力をすることがあればもっと良いと思います。

 中国が南シナ海をおさえたいというのは、失われた領土、領海という連中の感情以外に、シーレーン、エネルギー輸送の安全を確保しないといけないという思いがあるからで、それを建前にしているわけです。だったら、「みんなでやろうじゃないか。おたくが作った滑走路も使わせてもらってさ…」みたいな形で、中国を取り込むという努力をして、――実際に上手くいくかどうか分からないけれども――、中国にシーレーン防衛だとか何だとかという口実を言わせないようにしていく。そういう形で中国を取り込む努力というのも、誰かがしないといけないのかなと思います。


司会 ありがとうございました。中国がどう考えているかということを論じて頂きましたが、東南アジアの方はどう考えているかということも考えなければいけないので、その点を共同通信編集委員の石山さんにお願いしたいと思います。


石山永一郞 共同通信編集委員

ゲストのご発言
石山 永一郞

共同通信編集委員

 私は共同通信でマニラ支局とアメリカのワシントン支局にいました。一番の専門領域はフィリピンを中心とした東南アジアだと思っております。

 その立場からすると、今の南シナ海をめぐる主流の報道には違和感を持っておりまして、社内でもいろいろ議論をしていますし、主流と違う記事を書いたりしてきておりますが、私は南シナ海の安全保障というのは、中国とASEAN(東南アジア諸国連合)が、2002年に合意して署名した「南シナ海行動宣言」をより実行性を高めて、紛争回避の具体性をもたせていくしかないと思っています。

 私が行った取材を一つ話しますと、3年前にフィリピン海軍の輸送船に乗って、南シナ海でフィリピンが実行支配している島に行ってまいりました。

 私が1番重要だと思うのが、この地図です。

 一部、日本人にある誤解なのかなと思うのは、南シナ海の島をよく分からないが中国が片っ端から奪って、特に南沙諸島を中心に圧倒的に中国が次々と島を埋め立てている――埋め立てていること自体は確かなんですけれども――、他の国が実行支配しているものを奪っているというような印象を受けられるかもしれませんが、実態は、中国が持っているのはこの赤い点の島――島とも言えない暗礁――、それだけです。

 フィリピン、ベトナム、マレーシア、台湾で、こういった実行支配の住み分けが現在できている状態です。これは2002年の「南シナ海行動宣言」以降、この住み分けは崩れていません。唯一、スカボロー礁の問題はあるんですが、南沙諸島とは別の海域にあるものです。中国は南シナ海、特に南沙諸島の支配に関しては、フィリピンやベトナムと比べて、実行支配において大きく出遅れていたんです。

 戦前、戦中はどうだったかというと、日本が南シナ海を南沙諸島も含めて実行支配していました。軍事基地も置いていました。日本がこの地域を放棄すると――サンフランシスコ講和条約ではっきり明記されています――、そこに力の空白が生まれたんです。1950年代〜1960年代当時の中国はまだまだ内政で大変な時期でしたので、この時期にいち早く実効支配に乗り出した国の一つがフィリピンです。フィリピンが一番実効支配を進めたのは、マルコス独裁政権の時代です。

 フィリピンはパグアサ島という島を持っているんですが、南沙諸島の島で2つだけ井戸水が出る島が、台湾が持っている大平島と、フィリピンが持っているパグアサ島、この2つだけが地下水も出るちゃんとした島と言える島です。この他、フィリピンが持っているところは満潮時も砂地が出ているとか、そういうところなんです。

 ベトナムも結構いいところを持っています。台湾が一番大きい大平島を持っています。マレーシアもそこそこいいところをとって、完全に出遅れた中国は、もう暗礁しかなかったというような状況です。

 1988年には南シナ海海戦(西沙諸島の戦い)がベトナムと中国の間で起きていて、船が沈められてベトナム兵が100名近く死亡するという海戦も起きています。それによって、中国はかろうじて7、8つの島を現状で押さえている。それも島ではなくて暗礁です。そこを広げているということです。

 ですから中国の人工島というのは、実効支配の住み分けが2002年以来崩れていない中で、その自分たちの持っているところを広げていると。つまり、中国が実効支配した場所というのは、そのままでは人が住めないようなところなんです。

 人工島の埋め立てについて、フィリピンなどは「南シナ海行動宣言」の趣旨に反すると言っているわけですが、「南シナ海行動宣言」の文章を読むと、大事なのは1番目の信頼構築を目指すというところと、3番目の平和的手段で解決するということ。もう一つ大事なのは、4番目の占有されていない島や岩礁上への居住などの行為を控え、領有権争いを紛糾、拡大させる行動を自制するということです。

 中国は、まだどこも取っていない浅瀬を新たに取って人工島を造っているわけではない。既に実行支配していたところを広げているという状況です。

 ですから私の認識としては、確かに中国の海洋戦略や軍事基地化は脅威ですが、中国はギリギリまだ「南シナ海行動宣言」の枠内に留まっていると思います。日本やアメリカも含めて、この地域で挑発的な軍事行動をすることは、少なくとも2002年以降、ギリギリ紛争回避がされてきたこの地域の微妙なバランスを崩しかねないのではないかという危惧を持っています。

 先ほど津上さんがおっしゃったことにも関連しますが、例えば具体的に言うと、フィリピンのパグアサ島という島、南沙諸島で2番目に大きい島があります。中国の人工島とは全然違う大きさが元々あるし、島内にある1,400メートルの長さの滑走路は1970年代には出来ていました。フィリピン政府にお金が無いので草ぼうぼうですが、今でも輸送機のC130は着陸できます。

 実効支配の現状を変更していないということに関しては――先ほどベトナムの滑走路の話がありましたが――、フィリピンの場合はハードな軍事パワーではなくて、パグアサ島に民間人を政策的移民として送り込んでいます。そのだんだん数が増えて、今は100人くらい民間人がいて、軍人が30人ぐらいです。ちゃんと町長選も行われて、軍事派と非軍事派が争って、今は非軍事派の町長が勝って2選をしているところです。2016年5月にも選挙があるんですが、選挙のたびにフィリピン軍の軍人が船でたくさん乗り付けて投票すると。それにこの地域をエコツーリズム開発をしたいという平和派――と言いますか――、民間人町長は対抗しているというような状況です。

 その意味で、実効支配の枠はどこの国も変えているんです。ですから、将来的な解決方法としては、現在の住み分けを認めるしかないんじゃないかと思いますが、その現在の住み分けで一番損だと思っているのが中国であるということです。

 パグアサ島のような良い島は中国が実行支配しているところにはありませんので、人工島を他の国が支配しているところに手を伸ばさない範囲で広げて、中国がある程度、モノを作ってそこで落ち着けば、中国とASEANの間で長年、話し合いはされているが動きが進んでいない、「南シナ海行動宣言」をより具体性をもたせて罰則も含めて規約を作ろうじゃないかという話し合いが進展することもあるのかな、と私は思っています。

 一番申し上げたいことは、日本にとって少なくとも南シナ海の問題というのは、先ほど太田さんの話にもありましたけれども、存立危機事態――日本国民の生命、財産、幸福が根底から覆される事態と定義されています――、からは遥かに遠い状況だと思います。

 もし日本に存立危機という事態が過去にあったとすれば、70年前の戦争末期、サイパン陥落後の日本の状況、もう一つは、あえて言えば、5年前の東日本大震災後の福島第一原発の事故――あの時は東日本全滅という危機でさえあったんですが――、そういう定義とは全く遠い状況です。まだまだ中国と東南アジア諸国連合との間で平和的解決の道筋はいくらでもあるし、むしろ日本はその仲介役として何らかの貢献をすべきではないか、外交的なチャンネルを使っていろいろな道筋作りの方策があるんではないかという期待を私はしております。

 もう一言だけ、フィリピンの状況に付け加えますと、フィリピンは手ぶらに近い、軍備も船も何もない中で20年以上、この実効支配を崩さずにきているので、なかなかしたたかな外交戦術をとっている国だと思います。アメリカとフィリピンは相互防衛条約があるので、フィリピン人もアメリカ軍のイージス艦が示威行動をしたことは一応評価しておりますが、本気でこの地域で紛争を起こして欲しくないと思っているからこそ、アメリカにも支援を求めるわけです。

 今の状況では、この地域で中国が現在実効支配している以外の島を軍事的に占領したとなれば、これはもう武力衝突です。ベトナムと中国はかつて海戦もやっていますし、ASEANと中国が全面対立するという事態になります。中国はそれも分かっていてその事態の大きさも分かっているからこそ、他の島には手を出さないという自制がかなり働いている状況だと考えて事態を見ています。

 ということで、日本の貢献は自衛隊の派遣ではなくて、解決への当事国ではないからこそ出来る、領有権問題解決への道筋作りへの協力ではないかと思っております。


司会 ありがとうございました。報告の最後に、自衛隊を活かす会の呼びかけ人であります加藤朗の方からお願いします。


加藤朗 桜美林大学教授

報告
加藤 朗

桜美林大学教授、同国際学研究所長、元防衛研究所、「自衛隊を活かす会」呼びかけ人

 桜美林大学の加藤でございます。私からはもう少し細かな、私の専門の安全保障に引き付けて、お話をしていきたいと思います。

 私は中国の研究者ではないんですが、今日発表をするということで、いろんな本を読んでおりましたら懐かしい名前が出てきました。ルシアン・パイというアメリカの中国研究者です。この人が昔、中国とは「国民国家のふりをしている文明」だと書いて、これがある意味、私が描く中国像とよく似ているし、現在の中国の行動様式もこうした自己認識があって行っているのではないかという気がしています。

 国民国家という概念と、帝国という概念は、同じ国家だから同じだと思われるかもしれませんが、全く違う概念です。国民国家というのは、西洋国際秩序、17世紀に西洋に誕生した国際社会の仕組みです。その考え方というのは主権対等、つまり国家は対等であることです。であるが故に、国家は併存しているということです。

 そして、これらの国家と国家の関係はいわゆる万国公法、あえて万国公法と言いましたのは、明治時代に万国公法と訳されていた時代の国際法と、現在の国際法とはやはり大きく違うからです。昔はある程度、ジャングルの法則をなんとか抑えようという最低限のルールが万国公法だったんです。

 もう一つ重要なのが、国境線の概念です。帝国には国境線の概念はありません。そのことが非常に大きな問題になっていると思います。国境線が引かれてはじめて主権という至高の権利が国家に与えられ、なおかつ内政不干渉の原則が打ち立てられたんです。だから、国境の概念がない限り、内政不干渉や主権の概念などは成り立ちません。ですから国境の概念が非常に重要なんです。

 ローマ帝国をはじめとして文明が政治共同体になった時に帝国という国家になります。中国もローマ帝国と同じ帝国です。中国は華夷秩序という国際システムを取っておりました。ペリーが日本に来航するまでアジアにおける国際秩序は中国を中心とした華夷秩序でした。これを打ち破ったのが日清戦争です。日本は日清戦争で中国の国際秩序を打ち破ったが故に、アジアにおける覇権を握ることができたんです。

 華夷秩序というのは、冊封・朝貢に基づき国家は階層化しているイメージ、そして国境の概念ではなく辺境の概念です。辺境つまりフロンティアとして、明確に東経何度何分という国境線を引くことができない。ある領域を持って、この地域はどうやら我々の辺境すなわち境界地域だということです。だから辺境にはお互いに重なり合う部分があるわけです。他方、実効支配領域として版図があります。この歴史的版図が中国の人たちの中国なんだろうと思います。

 中国のアイデンティティーというのは、漢民族ナショナリズムです。最近、習近平体制になってから漢民族ナショナリズムということが言われます。ナショナリズムの概念は、実は国民国家の概念です。国民国家ができてはじめてナショナリズムという概念が出てきています。漢民族が中国を歴史上ずっと統一してきたわけではありませんので、漢民族の概念というのは、昔から続く華夷秩序の帝国と、国民国家の概念が2つ合わさったのが現在の漢民族ナショナリズムではないだろうかということです。そして、漢民族ナショナリズムをある意味で深く裏から支えているのが、反日ナショナリズムだろうと思います。

 ワン・ジョンという元々は中国の学者で、現在はアメリカで教鞭を取っている学者が書いた『中国の歴史認識はどう作られたのか』(東洋経済新報社)を読んでいて本当に驚いたのは、「多くの中国人にとって、恥辱の一世紀の最大の屈辱は日本――かつての中国の朝貢国であり従属国――、に対する敗戦だ」という一文です。

 私たち日本人は中国の朝貢国であったり、従属国であった覚えはないのですが、中国の人にとって、こういう思いを抱いているのかと改めて認識させられました。ある中国人に言わせれば、中国のテレビは朝から晩まで反日ドラマをやっている――300チャンネルぐらいあるのにどこをひねっても同じように反日――、ということです。我々が考える対中認識と、彼らが考える対日認識との間に大きなギャップが生まれているという懸念を持っています。

 次に、中国にとっての南シナ海ということをお話ししたいと思います。九段線議論という話ですが、まず地図を見てください。

1939年の当時の中華民国の地図
「境界研究」No.1(2010)川島真「近現代中国における国境の記憶」より引用
中華民国の「十一段線」

 この地図は「境界研究」No.1(2010)で、川島真先生という東大の先生が書かれた「近現代中国における国境の記憶」という論文に掲載された、国境がどのように記憶されているかということを示した1939年の当時の中華民国の地図です。面白いのは「中華國恥圖」、「恥」の図なんですね。この地図では、点線が現在の国境、十一段線だと思います。台湾が外れていますし、おそらく1939年当時の中国の国境線という意味です。分かりやすいのは、太い線がかつての国境とされていることです。正確に言うと版図という概念ですね。この辺りまで実は中国だったんだということです。

 中国という国名そのものも近代の発明ですから、どのように認識されていたのかというのはちょっと私も分かりませんが、いずれにせよ、この太い線を見ますと、琉球列島は全部入っています。この地図がどれほどの影響力を持った地図なのかということは、私は専門家ではないのでここでは断定できませんが――ひょっとしたら怪しげな地図なのかもしれませんし――、でも川島先生がそんな怪しげな地図を論文に引用されることはないだろうと思いますし、実際に出版されている地図ですので、そこそこ流通したんだろうとは思います。

 九段線議論は、結局帝国概念に基づいていて、とにかく歴史が優先します。ですから法的地位が非常に曖昧だということです。中国の領海の概念や島嶼の帰属の概念は、あくまでも帝国概念の延長線上にあり、なぜそれが中国の領域、領海なのかということについては、歴史が優先するということです。そしてその法的地位は曖昧だということです。

 南シナ海については、1つは島嶼に関する議論です。九段線というのは島が帰属しているという意味でのライン、九段線の内側海域に所在する島嶼は中国に帰属するということです。これは「伝統的疆界線概念」(伝統的境界線概念)と「歴史的権原(けんげん)による凝固」です。「歴史的権原による凝固」というのは、歴史的にずっとそこで何らかの支配がされていることが明らかであれば、その段階で領有が固まってしまう、領有が認められるという議論を出してきているようです。

 もう1つが、海域に関する議論として、海疆(海の境界)としての九段線ということです。九段線の内側海域は「海防」、そこは中国が管轄しているという、管轄の概念に基づく「歴史的水域」、つまり内水であり中国に帰属するという概念です。この論理は尖閣でも使われています。なぜ尖閣が中国側の島なのかということは、元々はその範囲まで中国側が「海防」の範囲として管轄していた、その根拠は様々な歴史的文書に書かれているではないかという話です。つまり、必ずしも国際法の議論に基づいているわけではないということです。

 中国の研究者李国強さんは、「海洋法条約以外の根拠により『中国が主権には至らない優先的な権利を行使出来る海域』の限界を示す線」が九段線であると言っています。「『九段線』は長期にわたって存在し、中国人民の頭に染み込んでいる。この線を無視して南シナ海問題を議論することは中国人民にとって受け入れられない。…要するに、歴史的な感情を考慮する限り、中国人は現代国際法を用いて『九段線』を解釈することを受け入れないが、他方で現代国際法は歴史的な経緯のあるこの線を適切に説明することができない」(李国強「中国と周辺国家の海上国境問題」『境界研究』No.1(2010))ということです。

 学術雑誌に掲載された論文ですので、扇動家がこういうことを言っているということではないとは思いますが、この意見がどれほど一般の人たちの意見を代弁しているのか、それは私はわかりません。しかし、少なくとも中国側の研究者の中に、このようなイメージを持っている人がいるということは気に留めておいてもいいのかなという気がしております。

 もう1つ、九段線の戦略的イメージということで、私の同僚の佐藤考一という桜美林大学の教員が、やはり同じ雑誌で、中国にとっての九段線のイメージは「戦略的辺疆」、戦略的な辺境に当たるんだと書いています。そして同時に、ここは「柔らかい国境線」なんだというイメージ、さらに「中国の国境の南端を示す、南に引かれた万里の長城」であると、これはあくまでもイメージということです。こういうイメージを持っているとすれば、先ほど津上さんがおっしゃったようなこともなんとなく納得がいく気がしております。

 一方で、アメリカにとっての南シナ海ということですが、先ほどの津上さんの話にもありましたように、私たちはこの航行の自由作戦、FON Operation(Freedom of Navigation Operation)を間違って高く評価しているのではないかという気がしております。FONそのものは、1979年に始められた、あくまでも航行の自由を守るためのアメリカの政策の一環なんです。下記の文書はアメリカ国務省のホームページから引っ張ってきたものです。

Freedom of Navigation (FON) Program. U.S. policy since 1983 provides that the United States will exercise and assert its navigation and overflight rights and freedoms on a worldwide basis in a manner that is consistent with the balance of interests reflected in the Law of the Sea (LOS) Convention. The United States will not, however, acquiesce in unilateral acts of other states designed to restrict the rights and freedoms of the international community in navigation and overflight and other related high seas uses. The FON Program since 1979 has highlighted the navigation provisions of the LOS Convention to further the recognition of the vital national need to protect maritime rights throughout the world. The FON Program operates on a triple track, involving not only diplomatic representations and operational assertions by U.S. military units, but also bilateral and multilateral consultations with other governments in an effort to promote maritime stability and consistency with international law, stressing the need for and obligation of all States to adhere to the customary international law rules and practices reflected in the LOS Convention.(HP:US Department of State)

 FON Operation は、最初に①外交…外交的に抗議をする。次に、②軍事…海空部隊によって示威行動を起こす。その後、③2国間なり多国間で協議をするということです。今のところ、①、②ぐらいのFON Operationが行なわれているだけのことです。これ以上の意味をくみ取ることは、ある種、邪推になるのではないかと思っています。FON Operationの意味というのは航行の自由であって、決して領土問題への対処ではありません。アメリカは一切、他国の領土問題には対処しません。だから今回、中国はアメリカの航行の自由作戦を黙認したんだろうと思います。

 もう一つは、南シナ海の軍事化への直接的な対抗では無いということです。アメリカからは、中国の軍事化、軍事基地化に厳しく反対だという声はあまり聞こえてきていません。あくまでもアメリカにとってこの問題は航行の自由の問題であって、軍事よりも法なんだということです。ましてアメリカは、南シナ海を軍事衝突の場とすることは考えていないだろうと思います。今後もアメリカは領海であれ領空であれ、とにかく航行の自由を守るんだという意思表示はずっとしていくだろうと思います。ただそれが、日本が期待しているように、中国に対する軍事的なメッセージだと考えるのは、ちょっとアメリカに期待しすぎではないかという気がしております。

 日本にとって南シナ海はどういう意味を持つのかということですが、先ほども言いましたように、中国の側からすると論理的には歴史を根拠とする領有権の主張ですので、尖閣問題に直ちに波及する可能性があります。

 日米関係としての南シナ海問題ということでは、あくまでも航行の自由という問題であって、果たして対中国の封じ込めという形でアメリカと協力出来るのかということをいささか疑問に思っております。アメリカが航行の自由で言っているのは、あくまでもグローバル・コモンズの問題です。世界的な公共財を守るという視点で南シナ海問題が扱われているんです。アメリカは例えば宇宙、サイバー空間、そして海洋というものはグローバル・コモンズである、アメリカはこのグローバル・コモンズを守ると言っているわけです。

 南シナ海の問題も基本的にはグローバル・コモンズの問題として取り使われるべき問題だろうと思いますが、日本は尖閣防衛の取引として、グローバル・コモンズにも参加するから、尖閣も同じようにグローバル・コモンズの中で守ってよねという話になるのか、それとも尖閣は違うよとしてアメリカ側から拒否されるのか、それは分かりません。

 それから、先ほどからフィリピン、ベトナム島の南シナ海の周辺国と協力すべきだということで、つまり対中同盟としての南シナ海問題ですが、アメリカが本当に対中同盟として認識するのか。ここで日米の間で認識のズレが出てくると大きな問題になってきます。対中同盟――中国を脅威とするのではなくて――、正に協調的な安全保障ということで、中国も取り込む形でみんなでグローバル・コモンズを守るんだという形にするのか、そのイメージの差が、南シナ海の安全保障の問題を大きく左右していくんだろうと思います。

 最後に、日本の戦略をお話しして終わりたいと思います。

 日本にとって米中関係の将来というのは、日本の将来を大きく左右致します。つまり、中国の軍事・経済大国化とアメリカの相対的衰退化です。これはあくまでも相対的な衰退です。終戦直後には世界のGDPの50%をアメリカが持っていたわけですから、それを考えればアメリカは戦後一貫してずっと衰退していることは確かなんですが、そういう意味での相対的低下というよりも、逆に中国の相対的な国力の増大ということが大きな問題になってきているわけです。

 国際政治ではこういう覇権の後退期には戦争が起こるというのが歴史の常だと言われているんですが、日本の場合は米中が野合するのが一番問題なんです。つまり共同覇権です。お互いにもう戦争はできないし、しない。核兵器を持っている同士は戦争なんかできないんだから、ここはお互いに協力しあってと米中が野合する――同盟を形成するとは言いません――、米中がお互いの問題について協力しあうという状況が生まれた時、つまりは第2のニクソン・ショックが起こった時が一番問題なんです。

 1971年7月に突然、ニクソンが訪中を発表して、佐藤栄作首相には発表の5分前にアメリカから電話がきて、吃驚仰天しました。外務省でいわれる、ある日突然米中が結託するいわゆる「朝海の悪夢」です。これには、同盟というのは信頼を裏切ることもある、その程度の関係なのだという話と、もう一つは当時の沖縄と繊維産業との交換で、日本は繊維の輸出を抑えるからと言いながら、佐藤栄作首相がなかなかそれをしなかったものだから、ニクソン大統領が頭にきて意趣返しをしたんだという意見もあります。

 それはともかく、朝海というのは戦後直後ぐらいにワシントンに駐在した駐米日本大使の名前ですが、この人が昔から言っていたのは、米中が野合すること、ある日、朝起きたら突然、アメリカと中国が手を結んでいた、これこそが日本にとっての最大の脅威だと。これを「朝海の悪夢」、「Asakai’s Nightmare」と言うんです。

 2013年6月に習近平さんがカリフォルニアに行ってオバマ大統領と会談した時、ちょうど私はワシントンにいました。第2の「朝海の悪夢」になるのではないかと思っておりました。筋金入りの親米派で、お亡くなりになった岡崎久彦氏が本気になって、これは第2の朝海になるぞということをブログでお書きになって、吃驚した覚えがあります。

 万一そんなことになれば、日本はアメリカと中国の間に挟まって、もう二進も三進もいかなくなるというのが私の懸念です。そうなった時は、日米同盟は破綻するということです。そうならないように、上手く米中間をコントロールすることが日本の戦略として必要なんだろうと思います。

 今後、米中が対立していった場合は、単純に考えれば、太田さんがおっしゃったように日米同盟を強化していくということになるんでしょうけれども、どう考えてもそんなに単純に米中が対立するとは思えないんです。

 やはり、米中を野合させないけれども、対立もさせないという微妙なバランスを、日本の外交がどのようにとっていけるかということが問題だと思います。日本の戦略として、日米同盟の巻き込み戦略つまり尖閣問題が起こったら、とにかくアメリカを巻き込むんだという、おそらく安倍さんの戦略の一つはこれなんだろうと思っています。

 逆に、日本は巻き込まれないようにする戦略も取っていかないといけないと思います。南シナ海に対して、米軍が自衛隊の派遣を要請したら、それでなくても艦艇も飛行機も足らない時にそんなところに出してどうするんだと言ってなるべく断ることが必要と思います。

 ちなみに、安倍さんが南シナ海も含めたアジアに対してどのような戦略をとろうとしているのかを示唆する出来事がありました。数日前ですけれども、インドとの協定を結んでいるんです。事実上の準軍事同盟をインドと結んでしまったということです。オーストラリアとも同じような協定を結んで、準軍事同盟化しています。2012年12月に安倍さんが「デモクラティック・セキュリティ・ダイヤモンド」構想というのを打ち上げて、インド、オーストラリア、アメリカ(ハワイ)、日本を結ぶダイヤモンド形を形成して、その地域の平和と安定を守っていくんだと言っています。南シナ海問題も、安倍政権はこの構想の観点から考えているのかな、ということを少し考えています。

 南シナ海問題とは若干外れますけれども、平和大国戦略の復活を目指せというのが一貫した私の主張です。私たちの国は、もう二度と経済大国にもなれないし、技術大国にもなれません。これからずっと中国の後塵を拝していくことだけは確かです。技術大国になれないというのはほぼ決定的です。現在日本にあるスーパーコンピューターは40台ぐらいです。中国は100台を超えています。アメリカは200台です。これからも中国はスーパーコンピューターを増やし続けます。日本にはおそらくそれほどの余力はありません。つまり、10倍の速さ、10倍の規模で中国が発展している。もちろん、そう単純にはいかないにしても、いずれにせよ将来日本が経済力で中国を抜く日は来ないだろうと思います。

 日本が中国に勝ることが出来るとするならば、それはたった一つしかありません。世界正義――この場合、憲法9条ですけれども――、に基づく平和大国への再興、復活を世界にアピールすること以外に、日本が中国に対してある意味での影響力、政治的優位、あるいは倫理的優位といったものを維持し、そして取り返すことはできないだろうと思っています。


司会 第2部の討論ですが、柳澤が司会をしながら皆さんで議論していく、会場の方からも質問やご意見等があれば出していただくという形にしたいと思います。


柳澤協二 元内閣官房副長官補

第2部 討論
柳澤 協二

元内閣官房副長官補、国際地政学研究所理事長、「自衛隊を活かす会」代表

 4人の方々にはそれぞれの視点で、私的には非常に刺激的なお話をいただけたと思います。時間も限られていますので、私からコメントというより、どなたかにお答えいただくような形の質問半分、コメント半分のような形で一言申し上げます。そして、伊勢崎賢治さんからも同じような趣旨でお話しいただいて、一回りした後で、会場にお渡ししたいと思っています。

 それぞれ伺っておりますが、私は特に防衛の専門家でいらっしゃる太田さんに――4人の方の中ではお一人、発表時間を厳守して頂いたこともあって、仰り足りない部分もあるんじゃないかと思っておりまして――、私の考え方を申し述べて、専門家の観点からご意見を頂きたいと思っているのは、今日の南シナ海での米軍の作戦行動をどう見るかというときに、私が特徴的に思っているのは、最初だからそうなのかもしれないけれども、イージス艦ラッセン1隻が通って行ったというのは非常に抑制的な対応ではないか、つまりイージス艦そのものは敵地を攻撃する能力に長けているわけでもない船なので、そういう意味ではアメリカも「お前のところをやっつけに来たわけじゃないぞ」というメッセージを出しながらやっている感じがするわけです。

 一方で、ほぼ時を同じくして、フロリダ沖で中国海軍と米海軍が共同訓練をしている。そういう形の窓口は開いているぞということもやりながら、進めているということがあると思うんですね。つまり、ここで一気に本格的に衝突していく、脅して軍事的に相手に譲歩を迫るということよりも、先ほど津上さんのお話にもあったかもしれませんが、ちょっと事を荒立てて交渉の場に引きづり出すような、そういうフェイズで動いているのかなという感じがしているんです。

 一方で、航行の自由作戦が始まった当初は、日本国内でも同盟国として日本も同じようにいろんなパトロールをすべきだというような意見もあったように思うんですが、安倍総理は今のところそういうことはしないということを明確にされていると思います。今の段階でアメリカとの阿吽の呼吸というのは、そういうところにあるのかな、ということではないかと思っています。

 このままのトレンドで行って、将来――「5倍の兵力になれば攻める」というのは、むしろ私は、孫子はいきなり攻撃するというやり方に対して、それはよほどの兵力の優位がないとやれないということを戒めていると思っているんですが――、しからば、そこで日米同盟を強化してアメリカが存在すれば、その力関係はイーブンか、少なくともアメリカの方が上だという前提があると思うんです。

 中国もそう認識していると思うんですが、そうすると問題は当面の数のトレンドだけでなくて、いろいろな性能上の問題やソフトウエアの問題はあると思うんですが、結局、抑止戦略として完結するためには、アメリカが中国の武力による南シナ海の現状変更――東シナ海含めても結構なんですが――、それに対して本気で戦争をするという前提に立たないとこの抑止の考え方というのは成り立たない側面があるのかなという感じがします。

 そうなると数はどんどん中国が優位になってくる、そして戦術面での技量とか、技術的なところもやがて時間とともにキャッチアップしてくるということになると、そういう比較だけで見ていくとなかなか将来展望が、一体これが何年間続くのかというのがなかなか見えないところに悩ましいところがあるなという感じを持っています。

 そして、中国がCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)で、温暖化ガスの排出規制に自ら数値目標を持って入ってくるような姿勢をとっているとか、あるいはISILというか、シリアに関する国連決議が全会一致で可決されたとか、――もちろん武力行使容認ではないですけれども――、どうも私はアメリカと中国のようなグローバルな大国同士の話というのは――国際政治の専門家ではないので全然分かりませんが――、イージス艦ラッセンを出したという効果は結構そっちの方で実を結んでいる部分があるのではないか。つまり、一言で私の推測を言えば、習近平にしてみれば、「そこで妥協するのは厳しいから勘弁してもらいたいが、その代わり、オバマ政権の最後の花道になるようなテーマについては自分たちも出来るだけ協力するからさ」という、非常に単純に言えば、そういうディール(取引)が出来つつあるのではないか。

 この話の結末はどこになるのか。軍事使用させないとアメリカは言い続けている、中国も軍事使用はしないと言っても、どうやって信ぴょう性を持たせるんだということもあって――南シナ海問題の結末が見られるかどうかということとは別問題なんですが――、実は米中というのはそういう形でギブ・アンド・テイクの取引を既にやっているのではないかという…これは分かりません。私が勝手に言っているだけですから。

 ただ、そういう側面を見ていかないと、先ほど加藤さんが最後に言われた「朝海の悪夢」のような話にも繋がりかねない。中国も警戒を持って見なければいけないけれども、アメリカの姿勢というのも警戒を持って見ないといけない。大統領選挙を控えていますから、口ではどの候補も弱腰にはなれないんですね。キャンペーンの論戦を見ていても、今のところアメリカの焦点は中国よりもイスラム国に向いています。そういうことも含めて、アメリカだって中東と南シナ海で二正面作戦はやはり取れないと思っているんだと思うんです。今、大統領選挙を控えて強硬になっていく、その焦点はどっちかというと――中国が余計なことをすれば別ですが――、このままの状態で推移すれば、むしろ中東の方にアメリカの関心や優先度が上がるのかなという感じがしています。

 一言余計なことを言いますと、先ほどの太田さんの資料の中で、省略されておっしゃったんだと思うんですが、自衛隊による米艦防護について、自衛隊法95条の2で防護対象は日本の防衛に従事すると簡略化されてご説明されましたけれども、確か条文は、日本の防衛に資する活動に従事しているということで、読み方によっては共同訓練も対象になるように読めるということ、あるいはミサイル発射時の近海での情報収集活動なんかも入るということで、折角だから、今、航行の自由作戦を日米共同で自衛隊法95条の2を使ってやるというのは—法施行は来年(2016年)3月ですが――、よほどその後の展開についての政治的なコントロール、始めることはいいとしても拡大をどう防ぐかというメカニズムをしっかり作った後でないと、結構使い方は難しい、かえってまずい結果になりかねないなという危惧を持っております。


伊勢﨑賢治 東京外国語大学教授

討論 伊勢﨑 賢治

東京外国語大学教授、元国連平和維持軍武装解除部長、「自衛隊を活かす会」呼びかけ人

 陸の方の専門なんで、海の問題ではデカいことを言えないんですが、FON(航行の自由作戦)というのは何なのかということをアフガニスタンで一緒に働いた将軍レベルの米関係者に問い合わせてみたんです。彼らが言うのは、これはリーガル・インスツルメント、あくまでも法の執行メカニズムという捉え方なんです。

 何の法かというと、ご存知のようにアメリカは国際海洋法を批准していないんです。つまり、彼らによる慣習国際法の理解を実力行使するためにやっている作戦なんです。中国は国際海洋法に批准しています。それを厳密に守っているとは言えませんが。批准していないアメリカが、「俺が法」なんだということを顕示するために、こういうところに1979年から毎年繰り出しているのが、この航行の自由作戦と考えて下さい。

 南シナ海問題は中国の問題だけではないわけです。石山さんが言うように、フィリッピン、ベトナム等の占拠が入り乱れている。中国の進出は、どちらかというと後発です。こういうところにアメリカが航行の自由の実力行使をリーガル・インスツルメントとしてやってきた。すわっ軍事衝突か、という日本社会の反応は、少し水がさされるべきでしょう。

 もうひとつ。国際法の観点から考えるならば、こういう領土係争が即“戦争”に直結するか。エスカレートして直結する場合もありましたが、国連の誕生、つまり、「武力の行使」について、どんな超大国でも、個別的・集団的自衛権そして集団安全保障のどれかから言い訳を探さなければならなくなった、つまり、戦争を違法化しようとする人類の営みがやっとここまで到達したレジュームの中に我々はいる、もしくは、それをなんとか維持しようとするレジュームの中に我々はいることを根底に考えた場合、最初は“民事”を装う現代の領土係争において、日本、国際法的には敵国条項により「武力の行使」に関しては最も気をつけなければならいない我国が、どういう戦略を持つべきか、よく考える必要があります。

 我々はアメリカの陣営にいますから、なにがなんでも中国がおかしいと言えるかもしれませんが、国際法の根幹が国連憲章であるとすれば、その頂点に立つのは中国を含む戦勝五大国なわけですね。

 次に、津上さんと加藤さんの話に出てきましたが、いわゆるグローバル・コモンズ=集団安全保障という考え方、みんなでやろうという話ですね。

 それと柳澤さんも言われたように、地球レベルでの共通の課題や共通の敵――イスラム国がそうです――、そういうものに旧冷戦構造の枠を超えて、協力しなければならない仕組みがどんどん強化されつつある。これは地球温暖化の問題も含めて不可避的に起こっています。

 これは海洋作戦でも実は既に起こっております。それがソマリア沖です。最初はNATOと有志連合のテロ対策だったんです。ソマリアは破綻国家ですから沿岸警備出来るような行政力がない。そうすると違法操業が行われる。日本船は行っていないと思いますが、いろんな国の船があそこで違法操業をやるわけです。更に、危険なものの不法廃棄も。そうすると沿岸のソマリアの漁民だった人たちは大打撃。破綻国家でただでさえ貧しいのに。そうして海賊行為をするという流れです。それを操るのが内戦と破綻国家の原因をつくっている陸の軍閥たち。

 海賊の問題というのはアフリカの反対側のナイジェリア沖にもあります。なぜソマリアの方だけ国際海洋作戦が出来るのかというと、アルカイダ系とつるんでいるということになっているからなんです。それだけで国際社会は人類の敵とみなして、みんなで叩くというマインドセットが出来ちゃうわけです。これが現代のもう一つの側面です。ここには、日本の海上自衛隊が民主党政権の頃から派遣されています。紛争当事者国ではない第三国ジプチに軍事拠点まで持って陸自も配備されております。海洋作戦を維持するためにですね。これだけ大掛かりにやっている海洋作戦が想定する敵は何かというと、たかが海賊なんです。実態はかわいそうな漁民。自爆テロするわけじゃない、軽武装のチンケな敵。貧乏でどうしようもなくてやっているんです。だから、本当に軍事的にこの問題を解決したかったら、彼らを操っている陸にいる軍閥連中にクルーズミサイルを2、3発ぐらい撃ち込めば、それでお終いの話なんです。ただ、それはできない。この海洋作戦が始まってから、既に海賊の件数は激減して今では、ほとんど発生していません。もう必要ないんです。でも、これを維持する必要性がもう1つできたわけです。それがグローバル・コモンズです。なぜかというと、ここには中国も参加しているからなんです。

 つまり、みんなが参加しているからお互い牽制出来るわけですね。作戦が想定する敵は本当にチンケな敵だけれども、この作戦を維持することに別の意義がある。みんなで一つのことをやるという。まあ、ちょっとのんきな集団安全保障ですけど。

 将来、南シナ海もそうなるのではないでしょうか。インドネシアやマレーシアなども含めてイスラム教徒をいっぱい抱えている国がいっぱいあります。そういうところで一致して、グローバル・コモンズの観点から、共同、協調的安全保障みたいになる可能性が。

 そうだとしたら、日本は旧冷戦構造のマインドのまま――中国とロシアがあっちにいて、日本はアメリカと一緒にこっちでエイエイオーとやる――、のが我々の立ち位置なのか、それともそういうグローバル・コモンズの道をより促成させるように持っていくのが我々の道なのか、考える時だと思います。僕はもちろん、後者だと思っております。


柳澤 私のコメント的質問の中では太田さんをご指名させて頂きましたので、太田さんから順に皆さんに補足的なものを含めて頂戴出来ればと思います。

太田文雄 元海将・情報本部長

太田 フリーダムナビゲーションは確かに法の問題かも知れませんが領有権の問題も絡んでいます。フリーダムナビゲーションというのは実は今回初めてではない。1981年に地中海南部のシドラ湾というリビアが主張する領海に対してフリーダムナビゲーション作戦をやっています。この時は空母2隻が入って、リビアの戦闘機Su-22を2機撃ち落としています。1988年にはクリミア半島沖でフリーダムナビゲーション作戦を米海軍がやって、ロシア海軍の軍艦と衝突しています。その後に、お互いの領海内においての無害航行を認めようという形で合意ができたのが1989年です。

 アラスカ沖で中国の軍艦が米国の領海内を通っていったのは明らかに無害航行でした。アメリカは無害航行を国際法的に認めているので、何も言わなかった。しかし、中国は自分達の領海内に軍艦が入ることは許可しなければ認めないという立場ですから、そこが違います。

 今回のイージス艦の航行は抑制的だったというのはその通りです。私はあの後、ラッセンの艦長と話したことがあるんです。後ろに中国海軍の船がピタッとついていたでしょう。国際VHFチャンネルでコミュニケーション出来るんです。中国が「お前何をやっているんだ」と言ってくるんですよ。ちょうど10月の下旬でしたから、アメリカは「ハロウィンの準備で、今、ピザとチキンウイングを作ってるよ」、そんな会話をやっているんです。そうしたら、中国の軍艦の艦長が「私はアメリカのどこどこに行ったことがあって、家族はどこどこにいる」、そんな話になって、そしてラッセンが領海を出て行く時には、「See You Again」(また会いましょう)って。

 馴れ合いと言えばそうかもしれないですが、あまり緊張感を高めようという気はない。ただ、もしラッセンに何らかの軍事的な攻撃なり何なりがあったら、その南には米空母機動部隊が控えていたのです。何かあったらそこから叩くということです。柔らかく話すが大きな棍棒を持って(Speak softly and carry a big stick)というセオドア・ルーズベルト大統領の言葉を地でやっているのです。

 その近くには海上自衛隊の護衛艦「ふゆづき」もいたんです。だから「ふゆづき」が日本に帰ってくる途中に中国の12海里以内を通過しようと思えば出来た。しかし、敢えてやっていない。

 私は最初、シンガポールに配備されているLittoral Combat Shipという沿岸戦闘艦が出て行くんじゃないかという気がしたんですが、結局イージス艦ラッセン1隻が行きました。イージス艦には、対地巡航ミサイルであるトマホークも搭載していますから、対地攻撃能力も長けています。

 米中が馴れ合いになっているのではないかというのは、南シナ海では明らかに対立ですが、その他のイシュー、先ほどありました環境問題(COP21)や対IS、大量破壊兵器の拡散問題、特に北朝鮮の核兵器保有の問題、これらに関しては協力しなくてはいけないという立場があります。それで大規模な戦争というような意図はないのではないか。しかし私は定期的に米国に行って有識者と意見交換をしていますが、ここ数年で米国の対中認識は厳しい方向に急速に変化しつつあり、米中が「野合する悪夢」というシナリオは見通しうる将来考えにくい。米国にとっては南シナ海問題以外にも中国のサイバー攻撃や二次大戦後米国が構築した秩序への挑戦という問題があります。

 ただし、中国の南シナ海の問題は海底資源の問題があり、領有権の問題があって、それから海上交通路の管制というのがあるのですが、もう一つ大きいのは、永興島とスカボロー礁と現在埋め立て中の人工島群、この戦略的な三角形の中に、海南島の三亜というところにいる中国のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を搭載した潜水艦を入れて、ここを聖域にするという、ちょうど冷戦中にオホーツク海をソ連が聖域にした同じような形をとるのではないか。JL-2という潜水艦発射弾道ミサイルの射程は約8,000kmですから、ここからは米本土には届かない。そうすると、バシー海峡を抜けて、太平洋に出るところにスカボロー礁があるのです。したがって、ここの軍事化ということに踏み切った段階が、米国にとって一つのレッドラインではなかろうかなという気がしています。

 ちなみにスカボロー礁を中国が奪ったのは2〜3年前です。先ほどもありましたが、2002年に行動宣言があった。その中で「平和的手段」と言う行動宣言を、中国は破ったから「信頼構築」ができなくなり、単なる「宣言」ではなく強制力を持った「規範」にしようというのが昨今の動きです。

 もう一つ言いますと、永興島というのは1974年にベトナム戦争が終わって米軍がベトナムから撤退した、そのPower Vacuum、力の空白に乗っかって中国が取っちゃった。確かに中国はLate Comer、後から来たんです。1988年に南沙諸島を取った時は、ちょうどソ連がカムラン湾から撤退して、力の空白が出来た時です。ミスチーフ礁も1992年に米軍がフィリピンから撤退して、クラーク空軍基地とスービック海軍基地を撤退したその力の空白に出てくるわけです。そして同年に領海法を制定して南・東シナ海のほぼ全域を自国の主権が及ぶと宣言、数年前にはスカボロー礁をフィリピンから奪ってしまう。従って、南シナ海では「住み分けができている」ではなく、これまで力の空白に乗じ中国が力によって領土を拡張し「住み分けが崩れつつある」というのが私の認識です。今後も、中国は尖閣の領海に海保船を何回も侵入させているように隙あらば領土を拡張しようとしている。

 これが中国のビヘイビア(振舞い)ですから、私は加藤さんの言うように憲法9条をかざしてやるというのは力の信奉者である中国に対して通用しないと思っています。


石山永一郞 共同通信編集委員

石山 中国の九段線の主張というのはフィリピンのパラワン島の海岸ギリギリまできていますから、ちょっと無茶な主張だろうと私は思いますが、先ほどスカボローの話がありましたので私なりの見解を補足させて頂きますと、スカボローは南沙諸島の海域ではないんです。

 南シナ海問題というのは多国間では南沙諸島が一番大きな問題になっているわけですが、西沙諸島というのがあって、これは中国とベトナムとの争いです。スカボローに関しては中国とフィリピンとの争いです。その2国間に関して、確かに中国はベトナムから1974年に奪い、フィリピンに対しても実効支配をスカボローで強めています。ただ、スカボローの場合は、ここはウミガメがたくさん寄り付く暗礁で、べっ甲を取りに中国漁民が押し寄せるという場所で、フィリピン側はべっ甲にそれほどの需要がないので、中国側は非常に実効支配しようとしていますが、太田さんも言っているように人工島を作ったりという形での現状変更には至っていないと思っています。

 他のところをとっていないとしても、中国が人工島を造っているということは、この地域の島々を次々と奪っていく布石ではないかという意見もありますが、実際にそれをやるとすれば簡単に出来ることです。出来ることだけれども、それをやると特に南沙諸島の海域に関しては、ASEANと中国という枠組みの決定的な紛争になりますので、中国は今後も自制していくと私は基本的には考えています。

 中国が本当にとろうと思えば、フィリピンが実行支配している島には、兵隊が4人いるだけの島もありますから、とる気になれば3時間ぐらいでとれると思うんです。兵隊4人は昔は6ヶ月勤務だったんですが、頭がおかしくなっちゃうのがたくさん出て、海の中の小さな島に6ヶ月もいて、携帯も通じない、インターネットも通じなんです。中国の携帯電話を持っていくと通じるんですけれどもね。可哀想なんですよ。時々おかしくなって、3ヶ月過ぎた頃からやたら銃をぶっ放したりとかがあって、それで6ヶ月勤務から4ヶ月勤務にしたということです。

 アユンギン礁も同様です。アユンギン礁はアメリカの第2次大戦当時の輸送船を難破させてフィリピンが実行支配しているんです。実はこれが一番最後の実行支配で、先ほどの太田さんもおっしゃったミスチーフ礁、これは確かにかなり奥まったところを1995年に中国がとったんですね。その後にアユンギン礁をとったのが1999年なんですね。最後に実効支配したのはフィリピンなんです。フィリピンの米軍基地の撤退は1992年でした。その直後にミスチーフを中国がとったということで、やっぱり米軍基地がないとダメなんだという論者の意見を聞くんですが、これはその後にフィリピンがとっています。今でも4人で守っています。ここは一番悲惨ですね。かわいそうなところです。

 ですから、米軍基地の話とはちょっと違うんじゃないか。時代的にはベトナム戦争の直前、米軍がベトナムから撤退した1974年に中国は西沙諸島もとっています。ただし、私はまだこのフィリピンの1999年の実効支配を最後に、一応、南シナ海の行動宣言はギリギリ守られていると理解しています。

 資源の話を私の知る限りで言いますと、南シナ海における原油の埋蔵量は諸説あって、70億バレル〜100億バレルという説、中国の推計では1,000億バレル以上であるという推計もあるんですが、既に開発を進めているのはフィリピンで、マランパヤ海底ガス油田があります。ここはイギリスのロイヤル・ダッチ・シェルと、アメリカのシェブロンと、フィリピンの公共事業体の3社で開発をしていて、今や首都マニラの電力を全て賄う、国全体のエネルギー量の3分の1を賄うまでのガス田になっています。

 フィリピンはASEANの中ではエネルギー自給率は低い方ですが、それでも6割ぐらいです。日本に比べるとはるかに高い。海底油田は、この原油安の中ではなかなか難しいようで、一つエピソードとして紹介しますけれども、このマランパヤのガス田の南に油田があって、4,000万バレルの埋蔵量が確認されているんですが、シェブロンもロイヤル・ダッチ・シェルも採算が合わないと放棄している状況です。

 ただ、資源があるのはこの地域の東北半分、リードバンクというところと、マランパヤこの辺が一番あります。中国が持っているところはどこからも遠いんです。そういう現状もあり、資源と各国の実効支配という観点から見ても、一方的にフィリピンがやられているという状況ではないと理解しています。


津上俊哉 元通産省北東アジア課長、津上工作室代表

津上 一点、補足で申し上げると、私は中国経済についての専門家が本業ですが、中国の経済の将来をものすごく辛口に見ることで有名でして、3年ぐらい前から中国がアメリカのGDPを抜く日は永遠にこないということを唱えている人間なんです。

 そう考える理由というのは、この5〜6年間で日本を一気に抜き去った高成長というのは、実は公共事業をガンガン無茶苦茶やったので、人工的に成長率がかさ上げしてあっただけだと。今その反動が来て、ポストバブルの低迷期みたいなことになって、後遺症からどうやって脱却するかが大変な課題になっているという話とか、中期的には中国共産党、国有企業が大事という政党には本当の意味で中国を中長期的に成長させるような市場経済重視の戦略は取れないだろうという見通しだとか、それから悲しんですけれども、人口動態が少子高齢化で日本の本当に二の舞みたいな道をぴったりと追走して歩んでいるので、この国がアメリカのGDPを抜くというのは無理だと。アメリカのGDPの7〜8割ぐらいまでは達するかもしれないけれども、そこでピークアウトして結局アメリカは抜けないと、そういう未来像が私の中に非常に強くあるんです。

 アメリカの専門家なんかは、「そうなるかもしれないが、そうならない場合にも備えなければいけないんだ」と言うんですが、私はやはりどう考えても抜けないという気持ちが強いんです。そういう私の目から見ると、今の中国の軍備や国力の増長というのは、つかの間の繁栄みたいなところがあって、中国の歴代王朝がそうであったように王朝の創建から70〜80年、100年ぐらいの間は調子がいいんだけれども、それを過ぎると衰退の方に向かってしまうという、今の中共という王朝も、多分その歴史の定めから逃れることはできないだろうと思います。

 そうならない道というのは論理的にはあり得るんですけれども、それを中国共産党にやれというのは、私は例えで、「それは亀に向かって甲羅を脱げと言うようなもので、亀は甲羅を脱ぐと亀じゃなくなっちゃうんですよ」と言っているんですが、やっぱり無理なんだろうなと思います。そういう私のイメージからすると、後10年ぐらいをどうしのぐかというのが、東アジアの安全保障にとっての正念場だと思えるのです。

 一方でアメリカですが、アメリカが偉大な国だと思うのは、これだけアメリカの覇権に対して疑問が呈され、「アメリカの覇権はもう戻ってこない」なんて疑問を呈されていても、財政の持続可能性のためには数千億ドルの防衛予算を自ら削ることが出来るという国なんです。そういう国には未来があるだろうと思うんです。

 そういう意味で私は、向こう10年間を「無事之名馬」で過ごせば、東アジアにはまた次のステージが来るだろうと思っています。先ほどの話に戻すと、中国にはルサンチマンの塊のようになって「失われた領土・領海を取り戻す」ために、「力の真空」みたいなチャンスが来ないかと機を伺っていて、その機が来るとバクっとやっちゃうということを重ねている人たちがいるんですが、あの人たちに時節が巡っているのも向こう10年間だと。この10年間にあの地域でパワーバランスを決定的に変えてしまうような次の一手を打たせずに、時間切れに持ち込むみたいなゲームが出来ればいいのではないのかなと思うんですね。

 僕はそんな未来を描きながら、中国との間でディールをしていくということが大切なんじゃないかなと思っています。


加藤 津上さんに是非お伺いしたかったんですが、将来的に中国が日本よりも経済的に低くなるという可能性はあるんでしょうか。


津上 将来、中国の統一が失われて何カ国かに分裂してしまえば、というのはあるかもしれませんが、全体としてみると中国はグローバル国家なんです。日本はせいぜいリージョナル(地域的)な存在でミドルパワーですから、「三役と幕下が一緒になって相撲というわけにはいかないでしょう」みたいな、私にはそんなイメージがありますけれどもね。


加藤 私が懸念しているのは多くの日本人が、日本は依然としてアジアの大国であるというその過去の幻想にとり憑かれているのではないかということです。おそらく安倍さんの夢は日本はもう一度アジアの大国になることでしょう。アジアの大国になるというのは岸信介さんの夢だったんです。今お話を聞いて、経済大国として日本が中国を抜く日は多分もうないだろう、その覚悟を決めたら、私たちの国は大国ではなく、中級国家としての戦略以外に方策はないんです。みんなにその覚悟があるかどうかというところが今問われているんだろうと思うんです。

 軍事大国にはもちろんなれない、経済大国にも技術大国にもなれない、残ったものは一体なんだろうかと考えた時、私たちの文化、ソフトパワーだというみんなが言っているわけです。それこそ和食だ、寿司だ、天ぷらだって言うんですね。しかし、食事だけじゃないだろう、平和大国としてのイメージがあるだろう。

 私は非武装でこの国を守れと言っているわけではありませんし、自衛隊を活かす会は、非武装を主張しているわけでもありません。ただ単に自衛隊を海外に出すなと主張しているだけです。なるべくならば、海外でアメリカと協力してやることをどうやったら値切れるかという、なぜ値切るかと言えば、私たちの国はもはや大国として世界に飛躍していく力はもうないんだということをみんなが認識しなければいけない。その上で、日本の戦略というのは何かと考えた時に、私が考えたのは軍事的に力をつけることではなくて、ソフトパワーとしての平和を世界にアピールしていくことだろうということです。例えばカナダがPKOで世界に貢献する、ノルウェーやスウェーデは平和を調停するという形で世界に貢献してきているわけです。そういう生き方以外に日本が生き延びる道はないだろうというのが私の意見で、その時に憲法9条というのが役に立つのではないか、役に立つように努力すべきだというのが私の主張です。


津上 もう一度、中国を抜き返すというのは、私にも想像の埒外の話だという感じがします。サイズだけではなくて、例えばIT産業だとか、ネット産業だとか、最近でいうと金融の決済もネット化して「フィンテック」というのが流行り言葉になっていますが、そのような領域を見ていると、はっきり言って中国の方が先を行っていて、日本は中国のビジネスモデルをパクっている、日本の楽天やヤフーという会社は中国を追いかけているというのが現状です。

 そういうことをまず頭に置かなければいけないし、安倍さんは取り戻すとおっしゃったけれども、安倍さんになってから円安になったおかげで、世界から見た日本の経済サイズは3分の2に縮小しているんです。そのことも頭の中に入れないといけないということからいうと、加藤先生が仰った点というのは私にも響くものがあるのですが、ただ他方で、今日の本題から全然離れてしまいますけれども――そういう未来しか残っていないというと非常に悲しいものがあるので――、私は最近、1つの仮説をあたためています。日本はしばしば「課題先進国」と揶揄されてきた訳ですが、これからもう1つ、課題先進国の役割を担おうとしている。それは何かと言うと、「世界の人口は20億人もいれば十分だ」という新しい22世紀に向けて、その尖兵をかって出ているのが日本だというイメージなんです。

 今の製造業や経済の動きを見ていると、どう考えても人間は要らなくなってきている。下手をすると頭脳労働もロボットや人工知能に代替されるかもしれないという未来が待っている。ということになると、ひょっとすると、いま日本が歩んでいる少子高齢化というのは、全く新しい22世紀の人類社会の、言わば先行実験みたいなことになっているのかもしれない。

 それがもし成り立つのであれば、エコでロハス(健康と環境、持続可能な社会生活を心がける生活スタイル)だし、持続可能な人類の新しい未来が開けるという話なんですが、問題は1億2,000万人の人口が、急に4,000〜5,000万人とまでは言わなくても、半減すれば、これは経済も社会も国家も到底持たないです。崩壊しちゃう。そこをどうやって新しいステージに移行するかという、過渡期を乗り越えられるかどうかという、ものすごく大きな試練があるんだけれども、日本は「その実験をやってみて下さい」と言われているような状況にあるんじゃないかという気がするんですね。

 もし、ひーこら言いながらもこの実験を乗り切って22世紀の向こう岸にたどり着いたということになれば、これは人類社会への一つの大きな貢献なんです。そのようなことにどうもなりそうだということであれば、我々はそういう実験の尖兵として21世紀を歩んでいるんだという、そういう自負があってもいいのかなと。正にそれが日本が世界に示せる国際公共財になるのかもしれないと思っているんです。

 そういう点も含めて、後10年、21世紀をなんとか乗り切っていかなければいけないというのが今、我々が直面している課題だと思っています。


20151222シンポ討論 南シナ海─警戒監視のための自衛隊派遣をどう見るか|自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会

柳澤 ありがとうございました。ただ人口が半減していくのが我々の選択かどうかという問題はあるんですね。だから素直にモデルを追求するんだという、私は今聞いただけでは、そうはならないということは申し上げますが、しかしそこはだからもう割り切りなのかもしれないんですけれどもね。

 時間がだいぶ推してきましたが、残り10分しかありません。どうしてもという方、手短にお願いします。どうぞ。


会場からの質問① 元国連WFPの者です。太田さんに質問なんですが、海上ホットラインの動きがまた出てきて、太田さんの今日のお話だと、どちらかというと封じ込めのような形になるのですが、他の方が言われたように2国間なり多国間なりのエンゲージメントとか、コーポラティブ・セキュリティの創作というものが必要なんだろうと思うんです。

 火器管制レーダーを照射されたからこっちもやり返すというのは、ほとんどもう交戦状態だと思われるので、そういう時にもう少しエンゲージメントや取り込みとか、コーポラティブ・セキュリティの面からの海上自衛隊のご出身の立場としてお考えをお聞かせ頂けたらと思います。


太田 連絡メカニズムというのは確かに不在です。2008年ぐらいから構築しているんですが、なかなか上手くいかない。したがって、もし日本が警戒監視かなんかで出た場合に、中国海空軍とのコミュニケーションが取れるかという不安材料は確かにあるんです。ただし、CUESというのがあるんです。Code for Unplanned Encounters at Sea(洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準)と言って、不測事態にこういう行動をしましょうという取り決めは2014年4月の西太平洋海軍シンポジウムで――これは中国の青島で行ったんですが――、中国も採択してやっていますので、例えば、仮にファイアー・コントロール・レーダーを照射された時にはこういうようなコミュニケーションをやりましょうという、そういうところのコミュニケーションは確立されています。

 ただ、それが実行出来るかというのは非常に難しい話です。私は2001年4月1日にアメリカ海軍の電子偵察機EP-3が海南島に強制着陸された時に、アメリカの駐中国大使であったプリュアー前太平洋軍司令官と話をしたことがあるんですが、彼がいくら人民解放軍とか政府首脳に呼びかけようとして電話をしても、誰も責任を回避して電話に出ないというのが中国です。CUESが確立されたとしても、それが有効かどうかというのは分かりません。

 先ほどから中国を取り込んで一緒にやろうと言っていますが、人工島に例えば海上自衛隊の船とかが艦艇が使わせてくれと言っても「ハイそうですか」という中国のビヘイビア(振舞い)があるはずがないと私は思っています。ですから中国を取り込んで何か一緒にやろうなんていうのは、一つの幻想に過ぎないのではないかと思っています。コーポラティブ・セキュリティということを何回か言われましたが『コーポラティブ・セキュリティの概念』という本は1992年に米国の三人の著者によって書かれています。三人の著者の内、二名は国防長官経験者。一人は現国防長官のアシュトン・カーターで南シナ海問題に関して「航行の自由作戦を実施すべき」と5月のシャングリラ・ダイアログから提唱して来た張本人。もう一人はウイリアム・ペリーで1996年に中国が台湾総統選挙を妨害しようと台湾周辺海域に弾道ミサイルを打ち込んだ時、2隻の空母を派遣して中国の横暴を力で押さえ込んだ国防長官です。コーポラティブ・セキュリティとは協調しない相手に対しては力によって断固たる措置を取る、即ちBig Stickを背景にした概念で、ただ単にやわらかく対話(Speak Softly)することとは違います。ちなみに本が出版された1992年に私はペリー元国防長官が所長をしているスタンフォード大学の国際安全保障軍備管理研究所で、冷戦後のコーポラティブ・セキュリティを実践するため日米露の海軍大佐3名が集まって半年間共同研究をした時の日本メンバーでした。私は中国封じ込めなんて言っていませんし、またやろうとしても不可能です。それと「中国の後塵を拝するような中級国家日本」が、どのようにして「米中をコントロール」できるのか私には理解できません。

 それから石山さんが「フィリピンが領有していたミスチーフを中国が奪ったことと米軍基地撤退は関係ない」と言われましたが、私の発言は現在フィリピンの国家安全保障室に勤務している将官が「米軍基地を追い出してしまったために中国にミスチーフを奪われた。あの政治判断は誤りであった」と私に語ったことを根拠としています。スカボロー礁が南沙群島ではありませんが、中国が南シナ海行動宣言に違反して非平和的手段で奪い信頼構築ができなくなったことに間違いはありません。 日本は、PKO大国であるカナダや北欧のように近隣に脅威を与える国がない国々とは全く異なります。そうした国々と一緒に議論するのは適切ではないと思います。


会場からの質問② 泥(どろ)と申します。三等陸曹でした。 南シナ海とか南沙諸島の件では、封じ込めにしろ、取り込むというか協調にしろ、自衛隊が出て行った途端に、中国が一切の妥協が出来なくなるのではないかということを危惧します。

 もしも何らかの妥協を中国に求めるならば、むしろ日本は局外中立の立場で、安倍総理が言っておられるような「法治の海」にすると。その他の国の一つとして、そういうふうに関わって行った方がいいのではないかなという気がするのですが、いかがでしょうか。


加藤 どういう形で海上自衛隊の船が出ていくという、私も同じような危惧は抱いています。中国にとってみると、日本に対する感情というのは先ほど言いましたように、他の国とはおそらく違うんです。そうなると、どのような反応が来るのかというのは、かなり厳しい状況を覚悟せざるをえないのではないかという懸念はあります。太田さんはこの点についてどうお考えですか。


太田 自衛隊が出ることについては非常に慎重な判断を要するでしょう。それに現在の自衛隊の人員・予算規模で常続監視海域を南シナ海にまで広げるというのは、やや無理です。そして例えば自衛艦が南シナ海人工島の12海里の中に入った、それに対して例えば中国の軍艦が尖閣の12海里内を通るという反応というのはあるかもしれないと思います。

 そうしたら、私はですよ、米艦と一緒に尖閣の領海のところに行って、中国艦艇を追っ払えばいい。南シナ海で米軍と一緒に通行した、それと同じような日米同盟の強化ということをやれば良いと思います。中国は「実を避ける」国ですから軍事大国である米国やロシアを敵に回して直接武力対決することはしません。望ましいのは海洋国家群によるコアリッションの一環として日本も参加することでしょう。

 津上さんが言われたように、確かに後10年ぐらいでおそらくもう中国の国力は低下するというのは私も同感です。少子高齢化の問題とか、社会保障とか、いろんな問題があって、今までのようなリニア(直線的)のような進歩はできないと思うんです。後10年ぐらいというのが正念場というのも同感です。その間まで、日米同盟の強化によって抑止力を発揮すれば、その間に中国は国力が劣化して光明が見えてくると、私は思っています。


会場からの質問③ 10年ぐらいが正念場だというのは私も賛成なんですが、その10年間の間に、ちょっと心配なのは、中共は見せる戦争というを時々やると思うんです。中共自身の政権を維持するために、ベトナムにちょっかいを出してみたり、インドにちょっかいを出してみたりとか、見せる戦争をやると思うんですが、その見せる戦争を南シナ海、東シナ海でやらせないための工夫として何が出来るかということと、もう一つ、そういう偶発的な事態が起きた時に、今の時点だったら予防戦争として中国海軍を叩けるという自信が海上自衛隊にも米海軍にもあると思うんですが、そこのところに対して、そういう事態の深刻化を防ぐための国内というか、我々の側の工夫としては何かあるのかというところのご意見を伺いたいと思います。


会場からの質問④ 前提が間違っていたらご指摘頂きたいんですが、自衛隊の特に空と海に関しては、共同で日本の近海や周辺を頑張って防衛していると言われるのですが、事実上はアメリカ軍の指揮でやっているとよく言われると思うんです。

 ただ、先ほどのお話のように南シナ海で、オーストラリアとか、ベトナムとか、フィリピンとかと一緒に頑張るとなると、まさかアメリカ軍の付属としての自衛隊というわけにはいかないと思うので、日本も一つの独立国としての軍隊として扱われるというか、扱わざるをえない。それは日本の独立という観点からすると、そういう経験というのはとても良いことなのではないかと思って、僕の前提が間違えていたら申し訳ないんですけれども、太田先生にその辺をお伺いできたらなと思います。そういう良い側面があるのかないのかをお伺いできたら嬉しいです。


太田 最初の質問に関しては、予防戦争を我が方から仕掛けるという選択肢は取るべきではないし、既に日中の軍事バランスは中国側に有利になっています。従って中国が「今、戦えば勝てる」と思わせない抑止力を日米同盟強化によって持つ以外に、力の信奉者である中国を思いとどまらせる術はないと思います。後の質問に関しては、自衛隊は日本国の独立国家の主権の下に働いています。米軍の駒であるということは絶対にない。今までの海賊対処にしろなんにしても日本独自の政府の判断によってやっています。米軍がこうしようと言ったことに従ってやっているということは前提として間違っています。


柳澤 まとめて言います。そこだけは違うと言ったら他の方にお願いしたいのですが、今のウエポンシステム、特にミサイル防衛のようなものは同じシステムの中でないと運用できないという問題はあって、ただそれを最後にボタンを押すか押さないかという自由はあるわけです。そもそも、そこに海上自衛隊を参加させるかどうかというところで日本の国としての政治の意志が働く。ただ、それだけ政治も賢くならなければいけないということです。

 最初の方のご質問にもつながってくるわけですが、確かに力の均衡が破れて戦争になる…、私もずっと悩んでいるんですが、力の均衡が破れると戦争になるという理屈からすると、今どっちに戦争の動機があるかといえば、アメリカの方にあるんです。今のうちなら勝てるから。それは非常に合理的なんですね。

 ところが、やらないよねってみんなが思っている。それは一体なんなんだろうね、ということを考えないといけないということです。それは、いろんな仕組みとか制度とか、歴史の積み重ねもあります。

 そこは「そうなっちゃうかどうか」ではなくて、そういうことを国民の我々が選択するかどうかということが問われている。そういう時代に、そういうことを考えないといけないというのがこの会のテーマでもあります。問題意識は非常に大切だと私は思いますが、ともに考えていけたらと思います。

 無理やりまとめてしまって申し訳ありません。遅くまでお付き合い頂き、ありがとうございました。


司会/「自衛隊を活かす会」事務局 ありがとうございました。最初にも言いましたが、自衛隊を活かす会は今後、2016年1月は札幌企画、2月にはまだ発表しておりませんけれども、南スーダンの駆けつけ警護を北部方面隊ではなくて、東北方面隊の11月になりそうなので、仙台で企画を準備したりしています。

 これから東京ではなかなか企画が出来ないかもしれませんが、決まりましたらホームページ等ですぐにご紹介していきますので、引き続きご参加、ご協力をよろしくお願いいたします。今日は本当にどうもありがとうございました。

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