2017.9.30シンポジウム 沖縄から模索する日本の新しい安全保障

シンポジウム

沖縄から模索する
日本の新しい安全保障

2017.9.30(土)
13:45〜

沖縄県青年会館 2階大ホール

主催/自衛隊を活かす:
21世紀の憲法と防衛を考える会

2017.9.30シンポジウム 沖縄から模索する日本の新しい安全保障

司会/松竹伸幸 自衛隊を活かす会事務局長 皆さんこんにちは。突然選挙になって気忙しい折に「自衛隊を活かす会」のシンポジウムに足をお運び頂きまして本当にありがとうございます。只今からシンポジウム「沖縄から模索する日本の新しい安全保障」を開始致します。私は本日の司会を務めます「自衛隊を活かす会」事務局長の松竹と申します。ご協力よろしくお願い致します。

 「自衛隊を活かす会」は、2014年6月に自衛隊を否定するのではなく、しかし、国防軍や集団的自衛権に走るのでもなく、現行憲法の下で生まれた自衛隊にどんな可能性があるのかを探り、活かしていこうというコンセプトで発足致しまして、今日が14回目のシンポジウムになります。シンポジウムは大体東京で開催しておりますが、北部方面隊が南スーダンに行きそうだとなった時には札幌で開催したこともありましたし、大阪でも開催したこともありました。

 次のことを考えた時、どうしても沖縄で開催する必要があるのではないかと考えました。それは沖縄を巡る議論が日本の安全保障の中で大変大きな重い位置を占めているということもあります。

 私も時々沖縄に来て講演をすることがありますが、沖縄で自衛隊について話すということは大変難しくて重たいことで、やはり戦前の記憶があります。今回、シンポジウムをやりますと宣言して3ヶ月ほど前にこちらをまわったのですが、「自衛隊を活かす会」というネーミングで沖縄でやるんですか?ということを言われたりも致しました。しかしだからこそ、今の沖縄の基地を巡る現状を打開するためにも、基地撤去という問題と同時に沖縄の人は本土の人よりもよほど安全保障のことはよく考えて議論しているんだよ、ということを全国に発信していく必要があるのではないかと思いまして、開催をすることに致しました。

 そして今日、いろいろな方々のご協力を得て開催する運びとなりました。今から3時間ほど、みっちりと議論をすることになります。よろしくお願いします。

 はじめにご来賓の挨拶ということで、選挙になって本当にお忙しい中ご参加頂きました。糸数慶子参議院議員よりご挨拶をよろしくお願い致します。


糸数 慶子 参議院議員

来賓挨拶 糸数 慶子 参議院議員

 はいたい、ぐすーよー・ちゅー・うがなびら。うちなんちゅの皆さんでございましたらこのご挨拶は普通に聞いて頂けると思いますけれども、県外の方もいらっしゃいますよね。皆さまこんにちは、と沖縄の言葉でご挨拶をさせて頂きました。只今ご紹介ございました参議院議員「沖縄の風」糸数慶子と申します。伊波洋一さんと一緒に昨年から国会の中で2人会派「沖縄の風」として頑張っております。本日は第14回の自衛隊を活かす会「沖縄から模索する日本の新しい安全保障」ということで、時節柄大変忙しい中を沢山の人達にご参加頂きまして、大変嬉しく思います。

 本当に思いもかけないところでございましたが、9月29日に衆議院が解散となりました。総選挙突入でございます。安倍首相が国難と言っていますよね。国難選挙、国難突破とか言っておりますけれども、私の立場としては安倍首相こそ国難ではないかと思っております。

 例えば、北朝鮮のミサイルの問題では情勢がかなり緊迫している状況にありますが、日本は国連まで行って、外務大臣が北朝鮮に対して「対話よりも圧力を」と言っています。まさにトランプ大統領と一緒になって、安倍政権は危険を煽り立てて戦争への道に進もうとしているようにしか見えません。とても稚拙な発言ではないかと思いますし、外交努力をせずにそのように煽り立てることには、怒りが本当にこみ上げてきます。

 振り返ってみますと皆さんもご存知の通り、第2次安倍政権になってから秘密保護法、安保法制——私たちは戦争法と言っておりますが——、共謀罪、防衛費の増額という現状でございます。

 私は参議院の法務委員会に所属しておりますので、法案に関してはしっかり議論をした上で、委員会の中できちんと採決をするというのが筋であろうと思いましたけれども、共謀罪法案については、委員会の審議中にも関わらず、本会議でいきなり中間報告がなされ、成立したという状況にまだ怒りが収まりません。

 沖縄におきましては、辺野古に米軍の基地を作るために、「土人」発言に象徴されるように機動隊が市民に暴言を吐いたり、反対運動の市民に多くのけが人が出たり、不当逮捕されたりしている状況です。今、オスプレイが石垣空港に緊急着陸し、止まっています。シリアでもオーストラリアでも事故が起こり、死者を出しました。このような欠陥機を国民の頭上で飛行させ、事故原因も分からないうちに飛行再開を政府が容認してしまいました。沖縄がどのような立場でこれからの政治に関わっていくのか、今回の総選挙はとても大事な選挙だと思っております。

 安倍政権は憲法違反の「集団的自衛権の行使」を閣議決定で容認し、他国のために自衛隊を危険な任務につけることを可能としました。自衛隊員の命を何と思っているのでしょうか。本日はパネリストや報告者の方々からいろいろな意見が出てくると思いますが、日本の新しい安全保障について、それが人権や命を第一に考えるものであって欲しいと思います。

 今、日本の平和を語るのであれば、日本の平和だけではなく、世界の平和も語っていかなければいけないと思っています。沖縄の新聞を読んでいますと毎日のように沖縄戦の体験をされた方々の証言や発言が出ています。それを見ていると本当に戦争は終わったのかと思うほどです。これは本土とは少し立場が違うかもしれませんが、やはり戦後70年余、常に沖縄戦について考えてきた沖縄県民にとって、米軍基地があるが故にいろいろな形で県民の命と暮らしが脅かされ、平和への思いがどの地域より強くあると思います。しかし、これはアジア近隣諸国といがみ合っていては実現しないと思います。

 北朝鮮問題をはじめ、様々な領土問題があるなかで、せめて沖縄からでも、これからアジアの国々と友好的に関係を結んでいかなければならない。これは、かつての琉球王国のあり方にも通じることです。今、沖縄で日本の安保のあり方について議論を行っていくということは非常に意義深いことだと思います。これからの議論に大いに期待を致しまして、貴重な時間の中でご挨拶をさせて頂きましたことに心から感謝を申し上げます。


司会 糸数さんありがとうございました。糸数さんはすぐに退室されて選挙の真っ只中に飛び込んでいかれます。本当にありがとうございました。只今から3人の方のご報告に移って行きたいと思います。最初のご報告は「沖縄の風」で糸数さんとともに活動しておられます参議院議員の伊波洋一さんです。よろしくお願い致します。


伊波 洋一 参議院議員

報告 伊波 洋一 参議院議員

(1)辺野古新基地建設と南西諸島への陸上自衛隊基地建設の背景——米軍戦略から見える狙い

(2)外交防衛委員会の質疑で分かったこと

 皆さんこんにちは。ご紹介頂きました伊波洋一です。昨日から沖縄各地で総選挙の取り組みが行われていて私も昨日3カ所を回ってきたのですが、今日はこれまで松竹さんと一緒にシンポジウムの準備をしてまいりましたので、是非皆さんと有意義な時間を過ごさせて頂きたいと思います。

 今、沖縄においては辺野古の新基地建設問題もありますが、宮古島、石垣島への新たな自衛隊基地建設の問題——与那国はもう出来上がってしまいましたが——、が現実に起こっている中、私たちが自衛隊基地の建設問題についてもしっかり見据えることがとても大事だろうと思って参加をしております。私もそうですが、「自衛隊を活かす会」という名前自体に大変な違和感、戦前や戦後の厳しい沖縄を生きた多くの人々にとってアレルギーみたいな抵抗感を受けると思うのですが、それはやむを得ないことだと思います。戦後72年が過ぎましたが、沖縄戦という歴史的な体験をした沖縄にとっては、軍隊が人々を守らないことを骨身に染みて知っているからです。沖縄戦の2、3年前から日本軍が沖縄各地に駐屯して戦争準備のために住民を動員して日本軍の飛行場や地下壕を掘って陣地を造り、いざ戦争に突入した後は、住民を戦場に追い出して12万余人の沖縄住民が戦死したからです。さらに、沖縄の厳しい状況がその時点で終わったわけではなくて、今度は米軍が占領下で住民の土地を取り上げて広大な米軍基地を各地で建設し、異民族支配の米軍統治の下に置かれました。今も占領下で建設された米軍基地はそのまま継続しており、日常的に人々のことを考えずに米軍のヘリは飛ぶ、オスプレイは飛ぶ、という様々なことが起こっておりますので、沖縄の多くの人々に「自衛隊を活かす」という言葉には、さらに自衛隊もかというような抵抗感があるものと思います。私が、今回のシンポジウムの開催に関わってきましたのは、今回の主催者が沖縄の私たちの思いとは決して反対ではないということを沖縄の皆様に知ってもらうことは大事ではないかと思ったからです。

 私は現在、参議院外交防衛委員会におりまして委員会では外務大臣や防衛大臣に対して沖縄の基地問題を中心に質疑をしてきました。そのことを含めて報告したいと思います。今日は、辺野古の問題というより自衛隊問題として、宮古島、石垣島など先島(さきしま)への自衛隊基地建設と有事部隊配備の問題について皆様と一緒に考えて行きたいと思います。

 今日のシンポに参加するようになった経緯としては、2011年7月、9月、11月の3回、京都、神戸、札幌で柳澤協二さんと対論という形で講演をしたことがあります。これの講演は「対論・普天間基地はなくせる」(かもがわ出版)として本にもなったのですが、その時の問題意識が今日のテーマでもあるのです。

 ご存じのように柳澤さんは小泉、安倍、福田、麻生の4内閣の官房副長官補として安全保障政策と危機管理の担当アドバイザーとして内閣官房におられました。退任された後、当時は民主党政権でしたが、安全保障問題についてお話をするようになりまして、私も公職を離れておりましたので、司会の松竹さんが段取りして対論をすることになったのでした。私は小さいころから沖縄戦の事を大人たちから聞かされ、日常的に米軍基地が県民生活を圧迫する沖縄の中で育ち、社会人になって労働組合や市民運動を取りくみ、県議会議員や宜野湾市長として沖縄から米軍基地をなくす立場で活動して来たので、防衛官僚としてひたすら歩んでこられた柳澤さんとの対論では、最初は警戒もしましたが、3回もお話をしますとお互いを少しづつ理解するようになり、何を考えているかということも分かるようになって、話が噛み合ってきたわけです。その延長で、今では様々な機会にシンポジウムなどでも御一緒させて頂いております。

 柳澤さんは「新外交イニシアティブ」でアメリカとの関係も含めて沖縄の問題に取り組むことにも活躍されておられますし、代表を務めておられる「自衛隊を活かす会」が2015年5月18日に「変貌する安全保障環境における『専守防衛』と自衛隊の役割」という提言を出されておられますが、私の理解では、この提言は憲法9条の精神に基づく安全保障政策をどう実現するかということなのです。柳澤さんは、常々、我が国では「憲法9条」によって自衛隊は制約を受けており「専守防衛」が国是とされてきたが、「憲法9条」に基づく安全保障論は構築されていないことが、問題だと指摘されていました。

 提言では憲法9条の精神に基づく安全保障政策の議論がほとんどされてこなかったのが日本の安全保障政策ではないかという指摘をされ、現実の安全保障政策はアメリカの要求に沿って、対米追従の中で取り組まれてきた。政治家から注文が来ても安全保障政策の議論自体は憲法9条に縛られていて、9条の中でいかにアメリカの要求に応えていくかということが行われてきた。だから暴走も暴発もしないまま、憲法9条を守って安全保障をやってきたという自負もあるということなのです。

 そういう中で、憲法前文と9条の平和主義の立場に立ってこそ、日本国民の命を守ることができるという立場で論を張ろうということで、この「自衛隊を活かす会」が出来上がっているということを受け止める思いで、私は、今日のシンポにも参加しています。

 今、安倍政権は事ある毎にアメリカという虎の威を借る形で中国と対峙するようになっていますが、やはりも我が国独自の外交を大事にするようなものにしないといけないのではないかという立場で提言は書かれていると思いますし、そういう趣旨で私も受け止めています。

 本題の宮古島、石垣島への自衛隊基地建設と有事部隊配備の問題について入らせて下さい。

陸自 上陸作戦専門部隊発足へ 米と共同訓練

 これは「陸自 上陸作戦専門部隊発足へ 米と共同訓練」という自衛隊がアメリカで上陸訓練をしているという今年(2017年)2月26日のNHKニュースですが、このようなニュースが沖縄ではよく報道されます。これは沖縄への上陸作戦のことを言っているのです。沖縄の島々を対象としている離島奪還訓練は、沖縄の島々が戦場になっていることを前提として自衛隊の有事部隊が島々を奪還する訓練です。私が知る限り年に十何回も行われていて、日本の防衛訓練の日常になっています。南西諸島の防衛強化というニュースも日常化しています。はっきり言えば日中戦争の準備です。これが当然の日本の防衛・安全保障として受け止められています。果たして、日中戦争は避けられないのか、戦争以外に手立てはないのか、という問題意識で、私は今日のシンポに参加をしておりまして、外交防衛委員会でもそういうことを議論させて頂いております。

自衛隊が島嶼防衛をアピールするために作ったビデオ

 これは今から3年半前の2014年3月に自衛隊が島嶼防衛をアピールするために作ったビデオです。この丸いところは南西諸島の先島諸島です。先島諸島で何かあったら北海道や全国のあちこちから島嶼部防衛にどのように駆けつけるか。沖縄離島の道路は全部アスファルトで塗装されていますので、タイヤ付きの戦車なども開発しておりまして、どのように移動するかを含めて、陸上自衛隊の部隊をいかに配備するかということも8分間ほどのビデオの中でしっかりと出てきます。こういったものが日常的に出されているわけです。

自衛隊と米海兵隊の共同図上演習

 これは、2016年11月30日、うるま市のキャンプ・コートニーにある在日米海兵隊司令部で行われた自衛隊と米海兵隊の共同図上演習です。在日米海兵隊司令部がTwitterに投稿したのですが、翌々日ぐらいには投稿は削除されています。指揮者が踏んでいる地図は宮古島と伊良部島です。写真の上の方にあるのは石垣島と西表島です。右側にいるのは海兵隊、向こう側の上部にいるのは陸上自衛隊の方々です。私たちの沖縄では図上演習だけでなく、周辺の島々でもこういう離島奪還訓練が日常的に行われているようになりました。

 私は宜野湾市に住んでおりますが、普天間飛行場のヘリ部隊やオスプレイ部隊がよく夜間遅くに、機体の一部を蛍光させて戻ってきます。沖縄本島や近くの近海で夜間の演習・訓練しているのです。従来は沖縄から離れた遠いところに行って、例えばフィリピンや韓国などに行って演習や訓練をしていましたが、今は沖縄周辺での演習や訓練が日常化しています。その一つのパターンとして、離島奪還訓練があります。

南西諸島での離島奪還訓練

 南西諸島での離島奪還訓練は2011年11月に奄美大島への地対艦ミサイル配備訓練から始まっています。3万人規模の自衛隊の大きな実動訓練としてやるわけですが、大分県の日出生台演習場に仮想の島を作って、実際の島の中のようにして離島奪還訓練をやっています。

沖縄本島と宮古島へ地対艦ミサイル部隊を配備した離島奪還実動訓練

 これは2013年11月に初めて沖縄でやった離島奪還訓練です。沖大東島の奪還訓練という形でやっています。沖縄本島と宮古島へ地対艦ミサイル部隊を配備した実動訓練です。

地対艦ミサイル部隊

 那覇にも地対艦ミサイル部隊が配備されました。これは那覇空港の隣にある自衛隊基地の横の広場で行われているところです。同様な地対艦ミサイル部隊が宮古島にも行ったわけですが、これが今、日常化されようとしています。

自衛隊基地建設計画

 そして、自衛隊基地を石垣、宮古、奄美に新たに建設して、地対艦ミサイル部隊や地対空ミサイル部隊、有事即応部隊等を配備する計画が進行しています。奄美の陸上部隊が550名、宮古島や石垣島へも各800名配備する、などということが2014年に報じられ、今では、具体的に自衛隊基地建設計画が着々と進んでいます。

自衛隊基地建設

 先ほどのタイヤ付きの戦車がこれらの島々に配備されるようになるわけです。与那国の工事は2014年に着手され、今ではもう出来上がって監視部隊が配置されています。石垣はまだしっかりしていませんが、宮古島はもう場所も決まって、作られようとしています。沖縄の私たちの周辺では、現実に島々での自衛隊基地建設が進行しています。

強襲揚陸艦の導入検討

 今年8月の内閣改造で防衛大臣に返り咲いた小野寺五典氏は、2014年7月防衛大臣の時にアメリカに行って、強襲揚陸艦を買うことを検討すると発言しました。オスプレイも17機を買う約束をして、今ではもう配備されようとしています。水陸両用車も52両購入します。何のためかというと、南西諸島へ離島奪還に行くためとのことです。その時に南西諸島はどうなっているかというと、敵軍に占領されて戦場になっているわけです。そういうことが私たちの問題にされないままにどんどん進んでます。これが今の現実です。日米安保というのは米軍が日本を守るはずだったのに、守れていないではないかということです。今、日米安保はどうなっているのでしょうか。

 在日米軍再編の共同文書「日米同盟:未来のための変革と再編」(2005年10月29日)では「日本は、弾道ミサイル攻撃やゲリラ、特殊部隊による攻撃、島嶼部への侵略といった、新たな脅威や多様な事態への対処を含めて、自らを防衛し、周辺事態に対応する」とされ、南西諸島は日本が守りなさいということになっているのです。アメリカとしては日本の島嶼への侵略などを阻止する立場ではないという戦略で動いています。

南西諸島有事の際にはオスプレイで機動展開

 これは読売新聞の2015年7月20日の記事ですが、南西諸島有事の際にはオスプレイで機動展開して長崎県佐世保の相浦駐屯地から尖閣諸島(石垣島)や南西諸島へ行くとされる水陸機動団が3,000名で来年3月に発足するわけです。こういうことが着々と進んでいます。安倍政権になって急に進みました。安倍政権の考え方は、米軍、アメリカとともに日米同盟を強化して、アメリカの代わりに真 っ先に戦争での役割を果たすような状況になっていると思います。

第一列島線を日本が防衛

 2017年9月17日付の沖縄タイムス、「第一列島線」(南西諸島や台湾を結ぶ線)を日本が防衛するという記事です。どうして日本が防衛するのか?なぜかというと、米中有事の際には南西諸島や日本列島の近くにいるとアメリカの空母が中国の対空母ミサイルでやられる、あるいは弾道ミサイルが飛んで来るので、グアムより東に撤退するのです。そういうことが議論されたことを、元陸上幕僚長の岩田清文さんが話したということが報じられているわけです。

 今、朝日新聞が「安保考」というシリーズを掲載していて数日前には柳澤さんも発言されておられるのですけれども、2017年8月23日に掲載された元自衛艦隊司令官の香田洋二さんのお話を読みますと、いかに憲法9条に基づいて自衛隊が自らを統制しているかが書かれているのです。でも、私が思うのは、現実には政治が憲法9条を捻じ曲げてその自衛隊を動かしてしまうということです。

 米艦防護の話では、安倍首相は目の前で米艦がやられる時に防護しなければ直ちに日米安保は終わるのだと言うわけです。でも、香田さんは自衛隊の行動を判断するのは自衛隊であり、憲法9条と関連の法律に則って、自分たちが判断する。だから目の前で米軍がやられたところで日本の戦争でなければ、私たちはそれを防護しないという説明をされています。果たして、従属国家のような我が国でそうすることができるでしょうか。

 実際には、政治の力というものはそういう憲法9条の論理ではなくて、アーミテージが言ったように「ちゃんと血を流せ」というような圧力なのです。アメリカの対日要求としてアーミテージ・ナイレポートがあって、それに沿って要望を実現するために日本政府は取り組んできており、アメリカの要求のほとんどが実現しています。実現していないのは憲法9条をなくす改憲だけです。私はその流れの中で、アメリカの要求で沖縄が再び戦場になるということへの懸念を持っています。

 朝日新聞の「安保考」の中で記者は、元自衛艦隊司令官の香田洋二さんに「米軍を見捨てる形になったら、日米安保が吹っ飛ぶのではありませんか?」という質問をしているのですが、香田さんは、日本の自衛隊は憲法に沿った行動をするのだと答えておられます。

 でも、現実の今の日本の政治状況や私たちの雰囲気はそうではなくなっています。日米同盟の強化というのは、そんななまっちょろい話ではないのだと。要するに日米安保や日米同盟が大事であるならば、何があっても自衛隊がアメリカを守らなければいけないのだという議論を政治はしてくるのです。それに対して、日本自身が持つべき憲法9条に基づく安全保障の政策やあり方は作られていないということです。

参議院・外交防衛委員会の質疑や質問主意書で明らかになったこと

 参議院の外交防衛委員会で質問主意書を含めて議論したことを話します。昨年以来、宮古島への自衛隊の部隊配備などの議論を委員会でやってきました。宮古島には戦争を前提として地対艦ミサイル部隊を配備する。それが航空機で攻撃されるというので地対空ミサイル部隊も配備する。敵国の陸上部隊が上陸してくるかもしれないから、自衛隊の有事即応陸上部隊も配備する。その上で、島々が敵国に占領されることを前提にして「島嶼奪還訓練」を頻繁に行い、そのために水陸機動団を来年3月までには創設する。そしてオスプレイ17機、水陸両用車52両、タイヤ付機動戦車なども備えることになっています。今、こういう議論があります。そのような議論では宮古島や石垣島を戦場にしてしまうのではないかということです。ミサイルを撃つために部隊を配備するわけですから、撃つ時はどのように撃つのかということを外交防衛委員会で質疑しました。

ミサイル部隊配置完了後の予想

 ミサイルは撃った途端にどこから撃ったということが敵に察知されます。そうすると撃ったら場所を変えて逃げなければいけない。基地はあっても基地で撃ち続けるわけではないわけです。ミサイルは市街地からは離れて撃つけれども、市街地以外に住居は沢山あるわけです当然、射撃場所は状況に応じて変わってくる。だからどこへでも部隊が廻っていくということになるわけです。

部隊が隠れるための掩体

 部隊が隠れるための掩体(えんたい)も作るわけです。掩体を作るのに部隊を配備するのかという質問をすると、配置しないけれども、当然、九州の施設部隊を送るということです。現実に訓練をしているわけです。この訓練は沖縄ではしていませんが、いろいろなところでやっています。想定はされているわけですが、沖縄の私たちにはリアル感がないわけです。自衛隊を配備すれば地域振興になるのではないかと思って、奄美大島では誘致運動をやっているわけですから…。

装備を目立たなくする偽装網

 装備を目立たなくする偽装網というものもあって、こういう演習は時々沖縄でも、那覇でも見えるわけです。そういうことをやっているのが現実です。

国民保護法との関連

 そして、住民はどう守られるのかという問いに対しては、国民保護法という法律があります。皆さんご存知ないと思いますが、実は国民保護法には国の予算がないのです。実際は何もやっていないのです。この点について質疑を行いました。戦争を本当にやるとしたら戦争準備のためにかつて沖縄では72年前にあちこちで防空壕を作ったりしたわけです。しかし、今はそういう状況ではない。でも自治体が国民保護法に基づいて避難パターンは作りますということです。ミサイルが来たらどうするか。北朝鮮のミサイルもそうですが、コンクリート造りの堅牢な施設に避難してくださいと言って逃げているわけです。

 結局、自衛隊が配備されて戦争が起こる、その準備はどうなっているか、実は誰も何も知らないのです。そういう意味で、私たちの視点をしっかりさせていくことはとても大事だろうと思います。

エアシーバトル構想、オフショアコントロール戦略

 私は、外交防衛委員会において、エアシーバトル構想やオフショアコントロール戦略というアメリカの戦略についても議論をしてきました。今度新設される水陸機動団の相浦駐屯地司令になった中澤剛1等陸佐は、陸戦研究26年2月号に論文を書いているのですが、九州から沖縄にかけて自衛隊を展開して上陸してきた敵を攻撃する戦闘をしている場合に、敵国からはミサイルが我が国の自衛隊部隊へ飛んでくる。しかし、アメリカはそのミサイルの元を攻撃しないということになっていると書かれています。そうすると自衛隊は、敵からやられっぱなしになるということです。離島防衛や離島奪還作戦を巡っては、そのような問題提起も自衛隊の側からあるということです。

 参議院の外交防衛委員会でも議論をしてきました。日米同盟が一体化して、いざという時に何が起こるかというと、まさに敵国との戦争ですけれども、その戦争が起こる場所は、南西諸島や九州地域であると想定されているのです。つまり、日本の国土が戦場になって日米同盟を守る戦略の中に私たちが居続けていいのかという問いがここにあります。

 今、日米安保がどうなっているかというと、日米安保条約は日本を守るものではない。むしろ、日米安保条約があることによって日本が戦場になる仕組みが出来上がりつつある。もし戦争が起こった場合、その場所はどこかというと最優先的には南西諸島であるということです。そういうことを私たちが問う必要があります。

 次に、南西諸島への陸上自衛隊基地建設の背景として、米軍戦略からみえる狙いを考えてみたいと思います。

南西諸島での戦争準備

 今、何が起こっているのか。辺野古の新基地建設、高江のヘリパッド建設、伊江島へのオスプレイやF35戦闘機の訓練施設建設や辺野古新基地建設や高江のヘリパッド建設などの沖縄米軍基地の強化、離島への新たな自衛隊基地建設。これらとアメリカの対中国戦略をみると、南西諸島での戦争準備が進んでいるということです。

オフショア・コントロール戦略

 南西諸島を中国への盾にする戦場にして、米中戦争や核戦争にエスカレートさせないとする「オフショア・コントロール戦略」があり、それがまさに南西諸島で現実に起こっていることとピッタリ合うわけです。

日米再編合意の共同文書「日米同盟:未来のための変革と再編」

 これは2005年の「日米同盟:未来のための変革と再編」という日米再編合意の共同文書です。共同文書でどうなっているかというと、「日本は、弾道ミサイル攻撃やゲリラ、特殊部隊による攻撃、島嶼部への侵略等の新たな脅威や多様な事態への対処を含めて自らを防衛し、周辺事態に対応する」と書かれており、南西諸島などの島嶼防衛は日本の責任であるとしています。ですから、自衛隊は水陸機動団を作り、オスプレイを17機と水陸両用車を52両を米国から購入するわけです。

海上自衛隊幹部学校 「海幹校戦略研究」

 このような安全保障というものは一体何なのかということですが、海上自衛隊幹部学校が2011年5月に「海幹校戦略研究」という戦略論文誌を創刊しました。この戦略論文誌には「エア・シーバトル」や「アメリカ流非対称戦争」、「オフショア・コントロール」など、様々なテーマで論文が掲載されています。

海上自衛隊幹部学校 「海幹校戦略研究」

 主な論文を読みますと、1997年12月に米国連邦議会が作った米国防委員会が2010年から2020年の間に(つまり今です)、中国のミサイルが沖縄や在日米軍基地に届くようになって、前方展開基地は一挙に無力化されるようになる。それに対応するためにアメリカは従来とは違う遠距離戦略を作らなければいけないということを提言しています。つまり中国から遠いところから攻撃できるようにするのです。グアムがまさにその場所です。グアムには戦略爆撃機やミサイルが配備され、米空母も停泊できるようになり、攻撃原潜が入るようになりました。グアムへの米本土から戦力の移転は現実に進んでいます。

 日本の米軍基地のような前方展開基地はミサイルの標的になっても、メリットであるようにしなければいけないから、中国に勝たなければいけない。勝つための戦略がエア・シーバトル構想でした。

エア・シーバトルを策定した戦略評価センターの上級研究員へのインタビュー記事

 これは2011年4月15日に沖縄タイムスが報じたものです。エア・シーバトルを策定した戦略評価センターの上級研究員へのインタビュー記事では、エア・シーバトル戦略について、日本列島を戦場にして中国と戦うと書いてあるのです。中国の先制攻撃で日本はやられるけれども、北海道から部隊を入れて、徐々に日本を取り返して、沖縄まで来たら沖縄から中国との戦闘を開始する。そのためにはあと一つ滑走路が必要だとしており、これが基本的には辺野古新基地だったのです。

 2009年8月の鳩山政権発足から1ヶ月も経たない2009年10月13日にキャンベル国務次官補を団長とする米国務省と米国防総省の訪日団が来日して、辺野古新基地建設に反対していた鳩山政権の防衛官僚や外務省の官僚たちと話し合っています。何を言ったかというと、いざという時に中国と戦争するためには、那覇と嘉手納の滑走路では足りないので、もう一つ必要であり、辺野古建設はそのためなのだと説明しています。鳩山政権が辺野古に反対したので、説明に来たのです。辺野古は普天間の代替基地といっても、その目的はジェット戦闘機を繰り出すような戦闘部隊の場所としてアメリカは想定しているわけです。

2009年10月15日付ルース駐日大使の長文の訪日団報告公電

 詳細は2009年10月15日付のルース駐日大使の長文の訪日団報告公電に書かれています。この公電はウィキリークスが暴露して明らかにしたもので、朝日新聞が特集して、2011年5月4日に報じました。

エア・シーバトル戦略の見直し

 アメリカは、中国に打ち勝つ「エア・シーバトル」を2010年頃から見直すようになりました。アフガニスタン戦争やイラク戦争などの対テロ戦争による戦費が大きくなっていったことと、2008年に起こったリーマン・ショックにより米国経済だけでなく世界経済が停滞し、アメリカの財政赤字を増大させ、軍事費の削減を余儀なくされたからです。

 さらに、同時期の中国が2桁の経済成長を持続してGDPが急速に大きくなったことです。1995年に日本の10分の1だったGDPは、今では日本の2倍を超えました。そういう中でアメリカでは中国と戦争をしたら米本土の都市が核ミサイルで攻撃をされて米中核戦争になるかもしれない、米中全面戦争になるかもしれないという懸念が拡がるようになりました。米中全面戦争にエスカレートしかねない中国内部まで攻撃する「エアシー・バトル戦略」ではなく、そうならないための戦争戦略を取ろうということに転換していったのです。

アメリカ流非対称戦争

 中国本土を攻撃する「エア・シーバトル」ではない戦争として、海上自衛隊幹部学校の戦略論文誌に紹介されている論文に「アメリカ流非対称戦争」があります。論文の狙いは、宮古島や石垣島などを戦場にして、そこで米中戦争を食い止めようとするものです。

海幹校戦略研究(2012年5月号)論文「アメリカ流非対称戦争」

 2012年5月号の海幹校戦略研究に掲載された論文の「アメリカ流非対称戦争」(トシ・ヨシハラ/ジェームズ・R・ホームズ)に何と書いてあるかというと、「アメリカ流非対称戦争」論文は、琉球列島での戦闘で米国政府の適度な目標達成に有効である。重要な理由は、戦争を米中全面戦争や核戦争にエスカレートとさせない制限戦争を行うためだ。中国に対しては「(米軍の)展開兵力の種別や量について、核の閾値以下に留めることが肝要になる」としています。つまり、米中はそれぞれの領土を攻撃しないことが想定されているのです。

オフショア・コントロール

 オフショア・コントロールでは、米軍は第2列島線(グアム)まで後退して、第1列島線(南西諸島)は日本の自衛隊が守るとしています。つまり、第1列島線では、中国と日本が戦争をするのです。オフショア・コントロールの目的は、中国に勝つことではなく、中国が「敵に教訓を与えた」と宣言して戦争を終わらすことを狙いとしているとしています。想定されているのは、台湾が独立するのを阻止するための中国の戦争ですが、日本が台湾防衛のために南西諸島を中国への盾にすることにより、日本が攻撃されるわけです。中国に取って、台湾の確保が目的ですから、台湾も攻撃されるるわけですが、日本が南西諸島に地対艦ミサイル基地を配置することで中国の攻撃目標をつくりだし、中国に攻撃させて「敵に教訓を与えた」と宣言して引き返させて、戦争を終わらすというものなのです。

海上自衛隊幹部学校のコラム

 結局、日本にとっての現在の日米安保というのは、中国に対しては日本列島を盾として戦場にしてアメリカが戦争をすることにならざるを得ないということです。米中は、核戦争にエスカレートさせないため、互いに相手国を攻撃しないことになっているからです。その戦略説明で「経済的な現実として、グローバルな繁栄は、中国の繁栄に多く依存する」と書いてある論文が海上自衛隊幹部学校のコラムでも紹介されているわけです。私は、日米同盟のために日本国土を戦場にすることが、本当に日本の安全保障なのかと、参議院の外交防衛委員会で問うているわけです。

論文「米国のアジア太平洋戦略と我が国防衛」

 論文「米国のアジア太平洋戦略と我が国防衛」(陸戦研究26年2月号)でも、水陸機動団が駐屯する相浦駐屯地司令の中澤剛1等陸佐は、九州から南西諸島に展開する自衛隊部隊に対して中国から弾道ミサイルや巡航ミサイルによる攻撃が繰り返されることに対して、米軍が打撃しないとするのは、従来の日米同盟の役割を「盾」と「矛」になぞらえてきたことにも矛盾し、日米同盟の信頼性を揺るがすことになりかねないと指摘して、そうであるならば日本が敵基地攻撃能力を持つべきではないか、と提起しています。

前防衛大臣の小野寺委員がアメリカは日本を守らないのではないかとを質問

 でも、それはアメリカの思う壺です。日本が敵基地攻撃能力を持てば、中国と日本の戦争になってそこで終わるわけです。今年1月の予算委員会でも、前防衛大臣の小野寺委員がアメリカは日本を守らないのではないかということを質問しているのです。だから、敵基地攻撃ミサイルを導入すべきではないかと提起しました。現在、小野寺氏は防衛大臣になっています。

 中国についての日米安保の現状は、日米同盟のために日本が戦場を引き受けざるを得ないところにまで追い詰められているということです。私たちの安全保障は、誰を守るための安全保障なのかということを問わなければならないと思っています。

中国の名目GDPが20年で15.5倍に成長

 背景には中国の名目GDPが20年で15.5倍に成長していることがあるわけですが、日中間には平和友好条約が締結されていることを大事にしなければならないと思います。

中国の名目GDPが20年で15.5倍に成長

 来年は日中平和友好条約を締結して40周年になります。1978年8月12日に締結した「日中平和友好条約」は、第一条で、《1.両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする。 2.両締約国は、前記の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する。》 と明確にしており、「すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する」としています。

 2008年5月7日の「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明では《1.双方は、日中関係が両国のいずれにとっても最も重要な二国間関係の一つであり、今や日中両国が、アジア太平洋地域及び世界の平和、安定、発展に対し大きな影響力を有し、厳粛な責任を負っているとの認識で一致した。また、双方は、長期にわたる平和及び友好のための協力が日中両国にとって唯一の選択であるとの認識で一致した。双方は、「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、また、日中両国の平和共存、世代友好、互恵協力、共同発展という崇高な目標を実現していくことを決意した。》 と合意しています。ですから、日本と中国は、アメリカのための戦争をする必要はまったくないのです。

2017.9.28 日中国交正常化45周年のパーティー

 一昨日9月28日には中国大使館主催の日中国交正常化45周年のパーティーが開かれ、会派「沖縄の風」の私も、糸数慶子参議院議員も招かれました。安倍首相も河野外相も来ていました。今、安倍政権は少しずつ変わりつつあるような感じもします。北朝鮮の核ミサイル問題もありますから、その解決に向けては中国とも協力関係を構築しなくてはならないはずです。日中国交正常化45周年のパーティーでは、安倍首相も訪中します、習主席もぜひ日本に来て下さいというスピーチがありました。そういう日中友好の流れの中で、先島での自衛隊の基地建設という目的は何なのかを問い続けていく、そしてそれを止めさせていきたいと思っています。

 今日は防衛に関して専門の方もいらっしゃいますので、それぞれのお立場からのお話を聞かせて頂いて、外交防衛委員会等に反映させていきたいと思ってまいりましたので、よろしくお願いします。ありがとうございました。

補足・シンポを校正中の10月31日の朝日新聞は、沖縄の海兵隊のグアム等への国外移転後に沖縄のキャンプ・ハンセンなど海兵隊主要基地に陸上自衛隊の「水陸機動団」を配備する計画であると報じた。まさに、日米安保と日米同盟は、中国に対して南西諸島と日本列島をアメリカの盾として戦場化するための仕掛けとなりつつある。後半の議論のように、日米同盟への依存ではなく、日本が独自に中国や近隣諸国と話し合って相互に信頼関係を醸成して多国間安全保障を実現して日本国土の戦場化から脱却するようにしなければならない。》


司会 ありがとうございました。続きまして報告して頂きます渡邊隆さんは元陸将、東北方面総監で日本の最初のカンボジアPKOで隊長も務められました。よろしくお願い致します。


渡邊 隆 元陸将・東北方面総監

報告 渡邊 隆 元陸将・東北方面総監

 渡邊でございます。よろしくお願い致します。私は40年近く自衛官として勤務をして、既に退官して今は普通の人ですけれども、出身は北海道なんです。北海道で生まれた私が自衛官になったのは何よりも国を守ること=故郷を守ることだったからです。ご存知のように北海道は大変厳しい土地ですので、北国生まれの私にとっての沖縄というのはまさに憧れの地でありました。

 防衛省、自衛隊勤務の40年近くのうち、前半部分は冷戦時代の真っ只中で、アメリカと対立していたソ連から北日本をどうやって守るかということを日夜ずっと考えておりました。自分が自衛官でいる間は、そのような状況が絶対に変わらないだろうなと思っていたのですが、ある日突然、ソ連がなくなってしまいました。ソ連の軍隊はあるので脅威がなくなったわけではないのですが、ソ連という国そのものが無くなってしまった。その後はポスト冷戦と言いますが、冷戦を終えて、ポスト冷戦からさらに9.11以後の対テロ戦争など、いろいろな形で世界が動く中で、自衛官人生を終えて、今は週に1回ですが、とある大学で安全保障を教える立場にあります。今日は、沖縄について防衛省や自衛隊、あるいは日本がどのような戦略でどう戦おうとしているのかということを語るつもりはございません。そういうことを真剣に考えていた時もありましたが、自衛隊の行政罰には時効がございませんので、私が当時、職務上知り得た秘密を今でも喋るわけにはいかないということをご了解頂きたいと思います。

 今日はこれまでと現在、そしてこれからというスパンで、日本における南西諸島とその中心にある沖縄の戦略的価値がどのように変わってきたのかということを焦点に、お話を申し上げたいと思います。

 最初に、現在はどのような形で国際社会が構成されているかということについてです。今、世界には190ヵ国ぐらいありますが、その中で力を持って地域や世界をリードしていけることのできる国はそう多くはございません。数十ヵ国だと思います。

 中でも常任理事国である5ヵ国(米、露、英、仏、中)が大国と言われています。大国と言われる条件はいろいろあるのですが、安全保障の観点から独断的に申し上げれば、核を持っている国であるということ。常任理事国の米、露、英、仏、中は全て核保有国です。強大な海軍力を持っていること。軍隊ではなく、強大な海軍力です。中でも空母を有していることがポイントです。

陸海空軍の兵力の序列

 これは各国が持っている陸海空軍の兵力の序列です。左側は陸上兵力、いわゆる陸軍です。真ん中が海上兵力、いわゆる海軍、右側が航空兵力、いわゆる空軍です。赤い●で表示してあるのが常任理事国の5大国ですが、5大国はそんなに大きな陸上兵力を持っておりません。一番右側の空軍力には5大国全部は入っておりますが、上位の方で固まっているかというとそうでもありません。真ん中の海軍力はインドが中に入っておりますけれども、常任理事国が全て上位を占めています。

各国がどれくらいの軍事費を使っているか

 各国がどれくらいの軍事費を使っているかという図です。サウジアラビアという超お金持ちのアラブの国を除けば、軍事費を使っているのは全て常任理事国です。非常にわがままで自分本位な国々ですけれども、我儘を言うだけの実力とお金を使っているというのが現実です。

核保有の現状

 これは核保有の現状を示しています。当初は常任理事国5大国だけが核を持っている形で推移してきました。これは核拡散防止条約と言って、日本もこの条約に加盟しています。

 今は常任理事国以外にも核を持っている国はございますし、北朝鮮も既に核保有国と定義づけられていますが、常任理事国が保有する核の数は世界の核の9割以上です。その中でも全体の9割以上をアメリカとロシアが持っているのが核保有の現状です。

世界の空母

 先ほど、超大国の条件の1つは海軍力と申し上げましたが、ポイントは空母です。世界の空母の全てを一枚の紙に表すと、一番左端のアメリカの空母の数が圧倒的に多いというのがお分かりいただけると思います。アメリカ、フランス、イギリス、ロシア、中国の全てが空母を保有しています。

 右上のインド、真ん中のイタリア、ブラジルも持っておりますし、韓国やオーストラリアも持っています。タイも小さな空母ですが持っています。いわゆる海洋国家といわれる国はこういう形なんです。日本も海洋国家ですから、ヘリコプターが発着できる全通甲板を持つ船を日本は4隻持っています。日本の自衛隊は護衛艦と言っていますが、世界は空母だと言っています。中国も空母だと言っています。定義が曖昧なので、空母ではない、空母だ、と言い合ってもしょうがないわけですが。

 ロシアはどうか。ロシアは空母を持っていますが、ロシアも空母と言っておりません。なぜかというと、トルコのボスポラス海峡という小さな海峡を通るのは巡洋艦以下ということを決める条約(モントルー条約)に加盟してしまったからです。そこを通る船を空母というわけにはいかないのですね。そういういろいろな裏事情があるわけです。

ひゅうが、いずも

 何を空母と呼ぶかは別にして、このような船を日本は持っております。「ひゅうが」というのが下側で、上側の「いずも」が自衛隊の持っている一番大きな船です。

いずも ジョージ・ワシントン

 「いずも」をアメリカの空母と比べて見ましょう。上はアメリカの原子力空母「ジョージ・ワシントン」という現役の空母です。空母「ジョージ・ワシントン」がインド洋に向かって動くときに、日本の「いずも」が護衛をしました。これが米艦防護の最初のケースだと報道されましたが、空母が空母を護衛するというのは大変おかしな話です。

 その役割はともかくとして、空母「ジョージ・ワシントン」と遜色のないくらい非常に大きな船を日本は持っているということは知っておくべきでしょうし、今年3月に就役した「かが」という船も——旧海軍にも「加賀」という空母がありましたが——、「いずも」と同じ大きさの船と聞いています。

世界の潜水艦

 潜水艦について、日本は原子力潜水艦を持っておりませんので小さな船です。世界に展開する主要な潜水艦のうち、アメリカとロシアのものをピックアップしておりますが、著しく大きな潜水艦は全てSLBMという核ミサイルを内蔵することのできる潜水艦です。

 北朝鮮が潜水艦型のミサイルを開発したと言われていますが、多分それは一番真ん中にある小さな潜水艦ぐらいのサイズですから、ここからミサイルを撃つというのは技術的にも非常に小型化しなければいけないという意味で、とても難しいのではないかと言われています。

地理的な関係

 最初にこのような前置きをしてから沖縄を見て頂きたいと思うのですが、地球のそれぞれの国の人々が絶対に変えられない要因は何かと言われれば、地理的な関係です。どんなに頑張っても日本をハワイに持っていくことはできません。地理的な配置の中でそれぞれの国が生きているということになります。ユーラシア大陸から日本を見ると皆さんがご覧になっているような形で見えます。これは冷戦時代には非常に鮮明でした。

ユーラシア大陸から見た東・南アジア

 ユーラシア大陸から東南アジアの方に振って見るとこのような図になります。この付近はロシアのウラジオストックであれ中国であれ、太平洋の外海に出ようとすると、樺太から日本列島、南西諸島、台湾、フィリピンに至る列島の中のどこかを通ってでなければいけない。という地理的な関係にあるということになります。

ロシアの地政学的宿命

 冷戦時代は極めて明快だったと申し上げましたが、ロシアはユーラシア大陸で最も大きく、ヨーロッパからアジアにまたがる国で非常に長い海岸線を持っています。それにも関わらず、ロシアには安全保障上の港が3つしかありません。そして、3つの港は全てそのまま外海に出ることができない、出口を全て塞がれている地理的環境にあります。私などはロシアの地政学的宿命と言っておりますが、冷戦時代にソ連を封じ込めようとする政策の一つとして、日本は3つの海峡を封鎖する3海峡封鎖という非常に強い立場の封じ込め政策の一環を担っていたのは事実です。

中国が外界に出るための4つのルート

 中国もロシアと同じように外海に出るためには何らかの形でどこかを通過しなければいけないという制限は持っていますが、ロシアほどではないということになります。

拡大する中国 陸路か海路か?

 現在、中国が南シナ海を中心に南へ人工島を作ったり、飛行場を作ったり、レーダーサイトを作っているのは、地図で見るとどの方向に出ようとしているかがよく分かりますし、中国の一帯一路という戦略の陸のルートと海のルートを見る限り、陸よりも海の方が非常に容易だということがわかります。実際に中国は自分の国以外で中国の商船や軍艦に燃料や水を補給したりするための他の国に対する働きかけを上図の△のところで行なっています。アメリカは△を繋ぐ線を「真珠の首飾り」と言っています。

 いずれにせよ、このような地理的、地政学的な環境を度外視しては、戦略も対応もできないというところからスタートするのが妥当だろうと思います。

中国の船がどれだけの数、どれだけの場所を通過したか

 これは防衛白書にあるデータですが、中国の船がどれだけの数、どれだけの場所を通過したかということを説明している図です。黄色の一番太い矢印を見る限り、青島(チンタオ)にある北海艦隊や上海の近くにある東海艦隊が一番多く通過するのは、東シナ海の南西諸島の沖縄本島と宮古島の間と宮古島と石垣島の間が一番多いというのが実態です。

日本の排他的経済水域

 日本は小さな島国ですが、排他的経済水域を加えると実は世界でも非常に広いエリアを持つ国です。このエリアが最近、埋蔵資源などで注目を集めていることは皆さんご存知だろうと思います。

領土と排他的経済水域の比較

 上グラフの茶色の部分がその国そのものの領土、青い部分がその国が持っている海域の領域です。日本は茶色の領土の部分は僅かですが、海域は非常に大きい。中国は逆ですね。領土の部分は非常に大きな国ですが、意外と海の部分は少ないということになります。

排他的経済水域の比較

 海の部分だけを取り出すと、実は日本は世界に6番目に広い国です。

日本近海のメタンハイドレート分布

 日本は資源小国でエネルギーの95%を海外から輸入している国ですが、メタンハイドレートという公害の非常に少ない新たな資源が日本の周辺海域に多数あるらしいということで、中京地区の沖合いで産出試験がなされています。だいぶ先の将来になりますが、もしかすると日本はエネルギーを輸出する国になってしまうのかもしれないということすら予想されています。このような雰囲気の中で、南西諸島の地政学的あるいは戦略的な特質に変化があるのかないのかというのが本日の私のテーマとなります。

絶対国防圏

 これは第二次世界大戦当時の日本の地図です。これからの話をするのになぜ昔の例を出すのかということですが、日本が占領した地域はピンクと赤で、赤い線は最大のところです。青い点線の部分は当時、絶対国防圏と日本が呼称した、これだけは絶対に守るんだという宣言をした部分です。

 なぜ日本はこんな線を宣言したかということになりますが、サイパンやマリアナ諸島を持っておかないと、ここを軸としてアメリカのB−29が飛来してしまうからですね。サイパンを取られるとちょうど東京がB−29の行動半径に入って、空襲の射程圏内、爆撃圏内に入ってしまう。これより外にアメリカの爆撃機を入らせてはいけないというのが一番大きな原因なのではなかったかと思います。

 B−29に随伴するP−51ムスタングと言われる戦闘機ですが、爆撃機単独ですと敵の戦闘機にやられてしまうかもしれないので、通常、これを排除するために戦闘機の護衛をつけます。ただ、戦闘機は足が短い。爆撃機の護衛ができるようになるのは、硫黄島を取らなければいけない。硫黄島で日米が激戦を戦ったのは、この辺の事情もあります。

沖縄をとられると日本全土のほとんどがB−29の爆撃範囲になる

 沖縄に移って見てみましょう。沖縄をとられると日本全土のほとんどがB−29の爆撃範囲になります。ムスタングP−51の行動半径はちょうど沖縄から東京までですから、すなわち沖縄を取られるとB−29は東京までムスタングの護衛をつけて、絶対に安全な状況で爆撃できるようになります。それだけが原因ではありませんが。地理的な関係に軍事的な技術の要素を加えるとこのように読めてしまうということです。

 翻ってこれを今の中国に適用してみましょう。中国のアジア戦略の変化です。

第1、第2列島線

 中国はなぜ第1、第2列島線というものを作っているのか。1983年に劉華清(りゅうかせい)提督、中国では珍しい海軍の提督が中央軍事委員会副主席になって、新たな海洋戦略を作ったのです。中央軍事委員会の主席は当時、鄧小平、No1ですね。ですから、安全保障では劉華清提督はNo2です。

中国の近海防御戦略(1983)

 1983年に劉華清が出した新たな海洋戦略は、2010年までに第1列島線の内側から、2030年までに第2列島線の内側から、アメリカ海軍の——アメリカ軍ではありません——、アメリカ海軍の制空・制海権をそぎ落として、2040年までに第2列島線を超えて、大西洋で西太平洋で米軍と肩を並べる大海軍を建設作るというものでした。

 中国という国は時間をかけて1歩1歩その政策を進めてまいります。折しも、経済的に非常に中国は豊かになって、一方で加速をしつつも、この近海防御戦略は2〜3年遅れているのではないかとも言われています。なぜならば、2017年現在、本来ならば2010年までに第1列島線の内側は完全に中国の海になっていなければなりません。実際にそうなっているという人もいますが、そのような提言が出されているのだということです。

中国の防衛戦略

 アメリカの空母がF-35という最新の戦闘機を載せて動く場合、図中の黒い丸の範囲になります。中国を囲む赤い線の一番内側は600キロのラインで、そこから外側に2,000キロのライン、3,300キロのラインです。600キロのラインが現在、中国が地上からミサイルを発射してアメリカの船に当たる地対艦ミサイルのほぼ限界です。ですからアメリカの空母が第1列島線の内側に入ると中国の海岸線がアメリカの空母の圏内に入るということになります。なぜ中国が2010年までに第1列島線の外側のエリアにアメリカの空母を追い出すかということは、まさに彼らにとっての喫緊の国を防御するための最大の戦略なわけです。

中国のミサイルの射程

 ミサイルはどんどん発達してきました。昔であれば爆撃機の行動半径だけを考えていればよかったのですが、今は空中で給油を受けられるので、爆撃機は物理的には無限に飛んでいることができます。中に乗っている人間は限定されますので、そんなことはないわけですが、永遠に飛んでいられるぐらいの環境になってきています。ですから、爆撃機は検討の対象にはなりません。今の検討の対象はミサイルです。上図のDFというのは大陸間弾道弾のことです。赤の線で書かれている、0キロ〜500キロぐらいの間が戦術的な戦域で運用するミサイルということになります。

中国の巡航ミサイル YJ−18

 中国は最近、YJ−18という画期的なミサイルを開発しました。射程は220〜540キロ、先ほど図の一番内側の円に届くようなミサイルです。画期的なのは巡航ミサイルですから、非常に遅い速度で長く飛んでいきます。目標を補足してあたる寸前にあっという間にマッハ2.2まで加速して、レーダーに捕らえられても対応が取れないぐらいの高速で目標に向かって飛んでいきます。このミサイルが第1列島線の内側に絶対に米軍を入れないための中国の一つの手段と言いますか、秘策です。

エア・シーバトル オフショアコントロール

 こう考えると、中国の防御戦略が見えてきますし、これにどのように対応するかというアメリカの戦略がエア・シーバトルであり、オフショアコントロールだということになります。あくまでもエア・シーバトルが先にあるのではなくて、中国の防御戦略に対抗する手段、対抗策がエア・シーバトルであり、オフショアコントロールだと認識すべきではないかと思います。

沖縄を中心とした極東アジアの地理的関係

 沖縄を中心とした極東アジアの地理的関係でいうと、那覇から東京まで1,500キロですが、ちょうど朝鮮半島がこの範囲内に入るというになります。

日米安保条約第5条

 アメリカにとってみれば、平成26年4月25日のオバマ来日の際の日米共同声明にありますように、日米安保条約第5条は尖閣も含めて「日本の施政下にある全ての領土に適用される」ということです。つまり、安保条約5条は、日本が他の国に攻められた場合ということです。第6条は、日本は攻められていないけれども、極東地域でいろいろなことがアメリカにあった場合ということです。5条事態と6条事態を混同すると混乱しますので、アメリカは5条については明確に宣言をしておりますが、6条についてはあまり明確にしていません。

Between rocks and hard places

 「Between rocks and hard places」とありますが、rockは岩ですね。hard placesは空母のような機動的なものではなくて、動かない固いところ、島だとか岩だとかに展開するアメリカの部隊はこのような形で展開をされています。アメリカの資料なので、Chinese defencesと書いてありますが、中国は255,000人ぐらい、一方、アメリカは4万人、主としてグアムから沖縄にかけての海兵隊の数です。東アジア、極東アジアではこれぐらいの差があります。

米中のパワーバランスの東進イメージ

 パワーバランスというのは、お互いの力関係によって押したり引いたりということが流動的に起きます。アメリカのパワーは、遠くなればなるほどだんだん落ちていくというのはお分かりだと思います。逆に近くなればなるほどパワーは強くなる。これをアメリカと中国に当てはめると、昔は韓国がちょうど分岐点、均衡点でした。昔はバランスの釣り合うところが韓国であったのに、アメリカのパワーは最近どんどん落ちて、逆に中国のパワー、軍事力はどんどん上がっている、それによってバランスが釣り合う均衡点というはどんどん下がって、今は第1列島線を超えてグアムまで、つまり第2列島線の線まで下がっている。これがアメリカと中国のパワーバランスのイメージとして一番分かりやすい図ではないかという感じがします。

中国に対する各国の政策

 現在、南シナ海への進出を目指していろいろなことを画策をしている中国に対して、アメリカは封じ込め政策を一切行なっておりません。ただ、中国を取り囲むようにいろいろな国や地域に米軍を配置しています。これをオバマ大統領時代にはリバランス、アメリカの主要な兵力のバランスを取り直すと言うことですが、ヨーロッパにある兵力を太平洋方面に持っていくと説明されたことがありました。

沖縄の地理

 沖縄をもう一度確認してみると、このような形になります。中国の観点で見るならば、主としてアメリカの軍事関係者が沖縄は近すぎるのではないかと言っているのは間違いのないところだと思います。

 したがって、沖縄の米軍基地は力のバランスや戦略的な優位性、あるいはオフショアコントロールという中国に対する対抗手段を取るために、グアムまで下がるのだというのは考えられないことではございませんが、これを明確に宣言したことはありません。アメリカの政策、軍事戦略として明確に宣言はされていませんが、そのように考えるのは極めて妥当だろうと思います。

 ただし、それは中国に対してだけです。現在の主要な、喫緊の課題はどこかと言われれば、実際にアメリカが対応しているのは38度線、北朝鮮ですから、北朝鮮が最近、核開発やミサイル開発を含めて非常に挑戦的な活動を高めていることを考えれば、北朝鮮に対してしっかりと手を尽くすというのは非常に重要なことなのだろうと思います。

 アメリカの陸軍と空軍は明確に北朝鮮に対する対応を取っています。韓国にはアメリカ陸軍の第8軍という非常に大きな組織、4つ星の大将が指揮する組織を韓国に常駐させて、有事になれば韓国軍を含めてアメリカの大将が指揮するという戦時統制権まで一時期は持って、北朝鮮の侵攻に備えようとしています。アメリカ空軍は第5空軍がこのエリアを統括しています。第5空軍の司令部は横田にあります。在日米軍司令官はこの第5空軍司令官が兼務しており、第5空軍司令官は韓国まで自らのエリアとしています。北朝鮮の脅威に対して直接的にしっかりと守っているというのがお分かりになると思います。

 ポイントはアメリカ海軍です。海軍は船を主体とした機動部隊ですので、北朝鮮に一番近い沖縄の第3海兵遠征軍(3MEF)の司令部が今、グアムに移ろうとしています。グアムとの兼ね合いの中で動きがあるというのは事実で、その中に沖縄もあり、キャンプ・シュワブもあるということになります。

オフショア・バランシング戦略

 今、我々が考えるべきは朝鮮半島をどうするかということであり、この先10年、20年、30年の間に、もっとしっかりと考えなければいけないような状態が極東アジアに起こるかもしれないということを念頭に置いて、日本の安全保障をしっかりと考えなければいけない時代なのではないかというのが結論です。沖縄についてはあまり触れませんでしたが、そのような環境なのだということを申し上げて私の話とします。ありがとうございました。

司会 ありがとうございました。最後に「自衛隊を活かす会」の代表をしております柳澤からお願い致します。


柳澤 協二 元内閣官房副長官補

報告 柳澤 協二 元内閣官房副長官補

 伊波議員、渡邊さん、ありがとうございました。伊波さんのお話は主として日米安保における双方の力関係、あるいは国益の観点からの分析をお話頂いたと思います。渡邊さんは、まさに戦うというということを前提に、軍事の観点からお話頂いたと思っておりますが、非常に難しいこの時期に難しいお立場で、遠慮がちにおっしゃっておられましたが、私は渡邊さんの元自衛官というお立場で、非常に踏み込んだご発言を頂いたと思っております。

 これは新聞に書いてもらうような話にはならないと思うのですが、渡邊さんのご指摘を都合よく理解するとすれば、アメリカの軍事のプロの間では沖縄に海兵隊がいることは中国に近すぎて危ないのではないかという声があるよということを非常にモデレートにおっしゃっているわけですね。

 中国との関係では、海軍のバランスの問題として今後の趨勢を見なければいけない。北朝鮮との関係では、アメリカが北朝鮮をテーマにいろいろ動いているわけですが、本質的には空軍によって北朝鮮を爆撃する拠点はどこかという話になってくるわけで、海兵隊がどこにいないといけないかというところについては非常にニュートラルな言い方をされていたと思います。

 そういう形で沖縄の問題には触れませんでしたがとおっしゃいましたが、裏返せば非常に大きなメッセージをお述べになっていたように思っております。

 さて、今朝の沖縄タイムスや琉球新報は選挙モードの中で、沖縄4区の候補のそれぞれの見解が掲載されていて、仲里候補は尊敬すべき沖縄らしい政治家だと私は思っておりますが、戦争を体験した我々として、戦争の手段であるような自衛隊も含めて、そういうものを沖縄に持ってくるのは絶対にダメだとおっしゃっている。西銘候補の方は、我々自身の沖縄の日常の平和と安全を守るために基地が必要だとおっしゃっているわけですね。そういうことで今、オスプレイが石垣に停まっているのかな、という皮肉も言いたくもなるのですが、しかし、その二つの議論は噛み合っていないのです。

 私は仲里候補の思いは非常によく分かるのですが、基地は現にある。それは何の意味もないのだろうか。一方、西銘候補のご主張……基地があることが本当に沖縄の住民の安全を守ることに繋がっていると言い切れるのだろうか、というところに疑問があるわけです。いずれにしても、その2つの議論を噛み合わせるためにはどこまで掘り下げたらいいのか、ということを考えてきたんです。今日のテーマである「沖縄から模索する日本の安全保障」というのも、基地に反対、賛成ではなく、護憲、改憲の立場でもなく、積もり積もった邪魔者をどかしていった時に、どこに議論のベースになる岩盤があるのだろうかということを考えていたのです。

 結局立ちはだかったのは抑止力という岩盤の壁なんですね。これがどのくらい確実な岩盤なのかというところをしっかり確かめてみないといけない。つまり抑止力という、特にアメリカの軍事的抑止力に依存するという前提に立つ限りは、沖縄の基地は、沖縄以外の基地も含めて、無くならないのですね。そこの議論をしていかなければいけないのだろうと思っているわけです。今日は「沖縄から発信する安保戦略」という表題で、安保と沖縄を3つの論点で考えてみたいと思います。

1、安保と沖縄…3つの論点

(1)安保は政府の専権事項

 特に沖縄というところで考えると、辺野古の問題に関する政府の発信を見ていると、安保は政府の専権事項なのだと。つまり、地元の言い分を聞いていたら安全保障なんかできないよ、ということを言っているわけです。外交も政府の専権事項ですが、外交はいろいろソフトなやり方があるので自治体外交もあってもいいのかもしれませんが、自治体が勝手に軍隊を持って勝手に戦争をされては困るので、その意味で安保は政府の専権事項なんですね。

 政府の専権事項であるが故に、政府にしか決められないということは、「ここがおかしいのではないか」という地元の疑問に対しては、政府にしか答えられる人はいない、政府には疑問に答える義務があるということです。

 その答えに対して地元が納得しないうちに既成事実を作るということになれば、それは専権事項ではなくて、もはや独裁政権と同じになってしまうのではないかということです。その辺を、まずは我々が考えるポイントにしなければいけないだろうと思います。

(2)米軍基地は抑止力のため

 2点目は、先ほど申し上げた、アメリカ軍の基地が抑止力のために必要なんだということなんですが、伊波さんからもお話がありましたし、沖縄の特に戦争を体験された方には議論の余地なく染み付いた感覚があると思うのですが、抑止力というのはそこに力があって、その力を誇示して相手を恐れさせて手を出させなくさせるということですから、そこに力があるのだったら、相手がその気になったらまずそこをやっつけないと話にならないわけです。つまり、そこに軍事的な力があるということは、当然、その相手から攻撃される目標になるということとイコールなのですね。

 だから、その政策で相手を黙らせようとしたら、その力をどんどん強くしていかなければいけない、相手もそれでどんどん強くなるといういたちごっこの中で、何かの弾みでその抑止が破れた場合の被害というのはもっともっと大きくなっていくという、こういうリスクの上にあるということなんだろうと思います。

(3)沖縄の地理的優位性

 それから、渡邊さんもお話になりました沖縄の地理的優位性ということを政府は盛んに言うわけですが、しかし、地理的優位性というのは、何か目的があっての地理的優位性ということなので、その目的とは一体何なのか、ということを考えてみなければいけません。

 軍事的な常識として、沖縄にいることが優位であれば、敵にとってはそれが沖縄にいることが敵にとっての不利益なのだから、それは余計に緊張を高めるという効果もあるということですね。そういう物事には両面あるということなので、その両面をしっかりと考えた上で、何を沖縄は望んでいるのかを考える必要があるということです。

 もちろん、戦争なんて自分のところだけ安全で、日本がどうなってもいい、なんてことは誰も考えていないので、むしろ、前線にいるがゆえに、我が事の問題として考えられる立場にあるところから、この問題をトータルに考え、平和戦略というものをしっかりと発信していくということが可能になるのではないかと思っています。

2、抑止力とは何か

 そもそも抑止力ということを考えてみたいと思うのですが、今年(2017年)2月14日の衆議院予算委員会の答弁で、安倍総理は「北朝鮮がミサイルを発射した時に共同して防衛するのはアメリカしかいない」とおっしゃっています。それはそうです。アメリカのミサイル防衛システムを投入して、アメリカの指揮情報システムの中で機能するようになっています。だからその通りなのですが、続けて安倍総理は、「残念ながら撃ち漏らした場合、報復してくれるのもアメリカしかいない」とおっしゃるわけです。

 しかし、撃ち漏らしたということは、日本に着弾しているということなのですね。日本人は撃ち漏らしたのが核だったらとか、通常弾頭でも原発が狙われたとか、いろいろなことを考えてしまうわけですが、その時に「アメリカが報復してやっつけてくれたから、良かったね」では済まないだろうということなんです。それがまさに戦争のリアリティーなのです。

 「アメリカから潰されたくないから、あえて北朝鮮は手を出さないだろう」というのがアメリカの核の抑止力の論理ですが、「やられるのは覚悟の上でやってやろう」という相手の気持ちまで止めることはできないという意味で、そもそも抑止というのは相手任せの部分のある、100%完璧な戦略ではないということです。

 もう一つは、アメリカはその時に確実に報復するということなのですが、相手が「アメリカが報復するだろう」と思ったら止まるかもしれないが、「アメリカは報復しないんじゃないか」と思うかもしれない。そのために北朝鮮は、「報復するのなら、アメリカに届くICBMに核弾頭を積んで、アメリカの都市の一つを火の海にするよ、それでもいいんですか」という弱者の脅しをやろうとしているわけですね。

 そういう状況で、アメリカは本当に報復するかという、すごくアメリカとしても悩ましい課題が突きつけられるということです。非常に不確定な中で「多分こうなるよね」という最もらしさをみんなで合意したところで成り立っているのが抑止力というものの考え方ということだと思います。

 しからばそれで、我々の運命を全部委ねていいのだろうかということになるわけですが、そもそも抑止がなぜ必要なのでしょうか。それは、戦争になるかもしれない、相手が攻めてくるかもしれないような対立関係があるから、力づくで相手を止めるための抑止力が必要だということになる。そうなると相手だって止められたくないから、相手も力をつけてくる、という形でさらにお互いに軍拡をして、そして緊張が高まっていくというのが、物事の道理として、当然、他に考えようのない物事の筋道になっています。そうすると、軍事的に力はついた、しかし、国民は戦争の恐怖に怯えながら暮らす、という世界がくるのではないかということですね。いつまでたったって安心はできないわけですから。

 そうではなくて、本当に我々が望む平和とは何なのだろうか、ということを考えた時に、戦争がない、相手が攻めてこない状態が平和なのか、そうではなくて、平和というのはそもそも戦争の恐怖から解放された状態を平和というのであれば、むしろ力づくで戦争を抑える競争をしている状態ではなくて、そもそもそういうものがなくてもいいように、対立の根っこを断ち切っていくような政策というものが必要なのではないかということですね。

 人間同士でもそうですが、お互いの間に対立がある場合——対立があるのが常ですから——、相手をやっつけて完全に屈服させて黙らせて問題解決という方針が一つあるわけです。そうではなくて、相手の言い分も聞いてこちらも我慢するところは我慢して、半分ずつ言い分を聞く形でお互いに仲良く暮らせるようになって、これで安心だね、というやり方もあるわけですね。人間の人生の知恵として、どちらが本当に現実性をもって考えられるのかということが問われるのだろうということです。

 もう一つは、抑止の前提には脅威があります。北朝鮮は脅威だ、なぜなら北朝鮮は日本に届くミサイルを沢山持っている。核も積んでくるかもしれない、そういう能力が脅威だと言うわけです。しかし、そういう能力を持った国はアメリカを筆頭に世界中に沢山あるわけです。なぜそういう国に対して我々は恐怖感を持たないのか?それは、そういう国が日本を攻撃してくるなんて誰も思わないからですね。つまり、能力があるだけでは脅威ではないわけです。能力がある国が、日本に攻めてくる意志を持った時に、我々はそれを脅威だと認識するわけです。

 そして、現実に進んでいることは、能力を止めることはできないということです。アメリカは懸命に制裁をし、軍事的圧力をかけて脅すけれども、脅せば脅すほど相手も止まらなくなってくる、こういう状態が続いている。だから相手は能力は持っちゃうわけです。

 だからどうするか。使う意志を無くさせれば良いのです。これも抑止の中で考える1つの政策の選択肢なのだということですね。私はいずれ北朝鮮の問題はそのように舵が切られると思っています。ちなみに何が大変かというと、そんなことをここまで来て安倍さんが言えないですね。国内の世論が圧力を後押ししているわけですから。

 本当に無駄な戦争というのはどうやって起きるかと言えば、国内世論を煽って選挙に勝って、煽った世論を止められなくなっちゃって、戦争に行かざるを得なくなるということが現にある。だから、政治家が危機を煽るのが一番危ないと私は思います。ちょっと余分な話ですが。

3、米軍は何を守るのか?

(1)主権・生存の戦争と覇権の戦争

 基地の話ですが、米軍がいるから安心で安全なのか、米軍は何を守るのかということです。戦争というのは軍隊がやるわけではないのです。政治が決めて、こうしろということを受けて、自衛隊が動くわけですね。

 その背後にはもちろん国民の意思があるわけですが、そこで本当に何を守らなければいけないのか、そのためにどれだけの犠牲を払うのだろうか。それこそが、国民が考えなければならない基本的な問題です。

 尖閣が心配だと言いますが、尖閣が取られるということは何を守るということなのか、つまり日本の主権を守るということですね。あるいは、尖閣には誰も住んでいるわけではないので、ある意味でこれは、国民の命というより国の威信を守るということです。尖閣を取られて平気なようではどこまで取られるかわからないじゃないかというのは一般論としては正しい。しかし、守るべきは国の主権だということなんです。だからこれは死に物狂いで日本がやるしかないことなのです。それが、犠牲が大きすぎてやれないというのであれば、政治的に解決するしかないわけです。

 一方でアメリカは何を守りたいのか。アメリカは尖閣を守りたいかというと、そうではないのですね。アメリカは中国が勝手に東シナ海で尖閣を取れるような力関係になってしまってはアメリカが敷いている秩序が乱れる、それがアメリカは許せない。自分の秩序を守るというのが覇権国、あるいは大国であるアメリカの守るべきものなんですね。

 戦争というのは、国が一定の政治的な目的を達成するために起こすことなんです。そうすると、国として守ることは何かという言えば、それはその国の置かれた状況や国の大きさによって自ずと違いが出てくる。日本が守ろうとしているのは、日本の主権なのかもしれない。しかし、アメリカが守ろうとしているのは、アメリカの秩序、力関係の言葉で言えばアメリカの覇権を守ろうとしている。つまり、日本が備えて戦おうとしている戦争は主権の戦争であり、アメリカが備えているのは覇権の戦争ということになってくるのだろうと思います。そうすると、日米の発想は、物事の道理として必ず重なるとは限らないということになる。本当に考えていかなければいけないのはそこのところなのですね。

(2)尖閣=国の威信の対立

 尖閣の話を申し上げましたが、中国にとってもそこはお互い様なのです。国の威信がかかっているということは重大な話ですから、特に中国みたいな国にとっては共産党支配の威信がかかっているわけですから負けられない。日本だって負けられない。負けられなければどうするか。島を取る、取り返す、また取りに来る、また取り返す、その中で兵隊さんの屍がどんどん積み重ねられていくわけです。こういう戦争というのはどっちが損害に最後まで耐えられるかを競う戦争になります。

 しかし、そこまでいくと流石にお互い馬鹿馬鹿しいよね、ということにもなっていく。だからどこかで手打ちがあるのだろうと思うのですが、本当に勝とうとすれば、そこに来た兵隊さんではなくて、そこに来ようとしている本国の兵隊さんをやっつける必要があります。それが敵基地攻撃なのですが、そこまでやっちゃうと島の戦争ではなくなってしまって、お互いの国の生存をかけた本気の大戦争になってしまいますから、そこまでする気はないのだろうと。

 つまりそれが主権の戦争という、非妥協的であるけれども、政治目的が非常に限定された戦争、これがどういう意味を持っているのかということは私ももっと研究をしなければいけませんが、日本全土を灰にするような戦争にはならない、中国本土を灰にするような戦争としては想定されていない。そういう限定的、政治的な戦争をどうやって戦っていくのか。あるいは政治が管理するのかという、政治の役割が問われてくるということなんだろうと思います。

(3)米中は戦うか?

 しかし、そこでもやはりアメリカが出てくるのかもしれないということになると、アメリカと中国のどちらが第1列島線の中、第2列島線の中の西太平洋地域の覇権を持つかという覇権の戦争ということになるわけです。

 そのためにアメリカと中国は戦争をするのか?ということは、アメリカでも非常に大きな議論になっています。それが本当にどうなんだということ、その根っこを考えていかないと、日本と中国が仲が良いのか悪いのかとやっていても、この話は決着がつかないわけです。やはり、米中の関係の見通しというものを考えていかなければいけないのだろうと思います。

4 沖縄の地理的優位性とは何か?

(1)米中覇権の戦争における沖縄

 沖縄の地理的優位性の話も、渡邊さんのプレゼンは非常に説得力のある貴重なご意見だと思います。ただそれは、中国とアメリカが海洋支配を争う上においての地理的な優位性であり、重要性ということなのだろうと思います。沖縄、琉球列島は中国海軍が西太平洋に出てくるための出口なのですね。両側を塞げば太平洋に中国の北海艦隊や寧波にいる東海艦隊は出てこれないという関係にあるわけです。それだけではなくて、沖縄から発進した爆撃機は中国本土を爆撃できるという攻撃の拠点という意味もある。おそらくその軍事的にはその2つの意味で、沖縄の位置は非常に重要ということになるのですが、それは米中が戦争をするという前提に立った時の話なのですね。

 だから、その前提がどれほど道理にあったものかということを考えていかなければいけないということです。沖縄は中国に近すぎるのではないかという話もある。相手に近い方が攻撃の拠点としては便利に決まっている、しかし相手からも攻撃されるということになる。軍隊として考えるべきことは、こちらの距離をどう有利に使うか、近い方が良いという側面と、自分の部隊がそれだけ危険になる、そのどちらを優先するか。それはいつでもトレードオフの関係にあって、その中で沖縄が本当にベストではないよね、という感じが米軍の本音では出てきているということなのだと思います。

 昨年、翁長知事の承認取り消しの違法性の確認の訴訟を巡って、福岡高裁那覇支部が出した判決の判決理由に、北朝鮮のミサイルの射程外にあるから沖縄は地理的に良いというようなことが書いてあってびっくりしたのですが、それは間違いです。北朝鮮のミサイルは今やグアムにも届くわけですから、沖縄にも届くわけです。

 もう1つ言えば、1週間ぐらい前にペリー元国防長官がインタビューで言っておられたのは、抑止という観点から言うと沖縄は何も特別な位置にあるわけではないのだと。要は米軍が駆けつけられる状況にあるかということが抑止のポイントなのだという言い方をしています。これは全く常識的な話なのだろうと思います。

 地理的優位性という地理的な部隊の位置関係と抑止力の関係で言えば、日本人はアメリカが抑止してくれる、そうすると平和になる、と中間を全部すっ飛ばして物事を考える、日本の政治家には特にそういう傾向が強いのですが、アメリカの考える抑止力は、いざ戦争になったら絶対に勝つ、相手が手を出したらひどい目に遭わせるという、戦争をすることができる力を持っていて、戦争に勝つことの見通しやプランがあることが抑止力なのです。

(2)抑止力=戦争に勝つ力……勝つために失うものは?

 抑止力と戦争というのは同じコインの裏表なのですが、日本人の受け止めというのは「抑止力がある、だから戦争にならない、だから戦争のことを考えなくて良い」という感じで見ていると思います。

 では、その抑止力としての戦争に勝つ力は何か、何のためにあるのかということですが、当然、損害はありますから、何を失って何を守るのかということが問われます。アメリカにとっては、アメリカの秩序やアメリカの覇権というのが一番大きな目的で、そのために拠点となる日本を守っていかなければいけないというのがあって、その手段として、沖縄が軍事拠点としてあるということです。この発想からすると、沖縄そのものの安全はゼロと言うか、逆にマイナスの話にもなりかねません。要は沖縄は踏み石なんです。それで日本を守り、結果としてアメリカの秩序を守るという発想です。アメリカの抑止力に依存するということは、こういう発想にならざるを得ないということです。

 しかしそうは言っても中国の覇権の下に入るのは嫌だ、私も嫌だけれども、中国の覇権の下に入ったら具体的に何が困るのかということについては、いろいろな論文を読んだりしますと、中国の覇権を許してはならないからアメリカと一緒に力をつけていくしかないのだ、という結論になっていて、許してはならない中国の覇権については何が困るのかというところがスポッと抜けてしまっているのです。今や、そういうことまでちゃんと考えていかなければいけないのではないかと思います。

 覇権国同士の勢力争いは、どこかでバランスの良い棲み分けがいるのだろうと思います。先ほどの渡邊さんのお話にあった、均衡点がグアムに行ったという図——データの入れ方によって均衡点はずれるのですが——、が示唆するものは何かと言えば、グアムつまり第2列島線のあたりで、その内側の米中の相場観がどう形成されるかということが、米中の一番の関心事になっていることだと思います。

 米中の相場観が形成されて、中国も安心して海軍を出してきてもいいよ、という話になってくると、それは日本にとって許し難いと言ったって、何が許しがたいのですかということになる。そのこと自体はトレンドとして防ぎようがないものだろうという意味で、私は10年、20年先の日本を考えた時に、中国の支配って何をどう支配されるの、日本は何が許せないの、許せなければその部分をどうしたらいいの、ということを今まで議論をしていませんから、そういう観点の議論が是非必要だと思います。

 特に中国との関係では、沖縄の立場は古くから一番交流があるところですから、ある方が酒飲み話で、わしが若い頃は台湾から来た奴と福建省から来た奴とみんなで尖閣で酒盛りしていたんだみたいな本当か嘘か分からない話をされていたのを聞いたことがありますが、そういう歴史的な立場にいる沖縄からの発信はとても重要なのではないかと思います。

5 同盟の抑止力論は、現代に通用するか

(1)勃興する大国との衝突<ツキディデスの罠>

 そういうことを考えると、本当に抑止というのは今まで通り通用しているのかということです。アメリカではツキディデスの罠という、挑戦国として台頭してくるパワーと覇権国との間で戦争は不可避で避けられない宿命であるという議論があります。しかし一方で、今は経済依存を考えたらお互いに相手をやっつけるような戦争はできないという意見もアメリカの中にはあります。

 先ほど、無駄な戦争まで行ってしまうのは国民世論が背中を押す、それを政治が煽るという関係にあると言いましたが、米中の国民の間にはそんな敵意はない、だから今は戦争になるような心配は現実的にはない。戦争がエスカレートして核まで行くのかいかないのか、今や核はもう使えない、そうすると問題はどこで戦争が止まるのかということになります。要するにどこで戦争が止まるかが分からないと、アメリカも中国も怖くて戦争なんかできないわけです。

 そういう状況の中で、どこかで落とし所が出てくるのだろうと思っています。戦争ができない、できなかったらどうするか、妥協するしかないということです。良い悪い、好き嫌いではなく、物事の道理という話です。これから米中の妥協が進んで行くのだろうと思います。

 妥協を邪魔するものは「そんなことで妥協してしまったら、次の選挙で勝てない」という国民世論の力でしょう。妥協を後押しするのも国民世論の力、それを妨げるのも国民世論の力ということです。だから、国民という要素が、戦争を考える中でますます重要になってきているのだろうと思っています。

(2)同盟による「戦力の合算」は?

 同盟というものは基本的には2つ以上の国が戦力を合算して優位に立つという発想で成り立っていますが、合算するためには同じ方向を向いて同じ戦争を戦わなければいけません。しかし、先ほど申し上げたように、日本は主権の戦争を戦う、アメリカは覇権の戦争を戦うという合算できないズレがあるのではないかと思います。

 今はグローバル化の時代で多様な価値観が共存して、相互依存が進んで、戦争って非合理だという認識も非常に高まってきている中で、日米ともに本音では声には出せないけれども、自分のやりたくない戦争には巻き込まれたくないという部分があると思います。

 そこをどう考えるかは非常に大きな問題で、日本ではアメリカから見捨てられると困るという部分だけが突出しているのですが、実はそれはお互い様なのですね。そこを理性的に考えて、議論しなければいけないと思います。

6 沖縄から安保を発信する意義

 繰り返しになりますが、外交、防衛、それから税金(徴税)をどうするかは政府の責任で、政府以外のものが勝手にやってはいけないわけです。しかし、他のものがやってはいけないからこそ、政府はきちんと民意を汲んで、民意の方向に沿ってやらなければいけない。それが民主主義の成り立ちの一番の基本になるわけです。沖縄の基地反対の動きというのは沖縄だけのわがままではないということ。日本の民主主義を守っていけるかどうかという、そういう重さを持った問題なんだということを考えていかなければいけないだろうと思います。

 これから先の21世紀の平和のかたちを考えれば、力づくだけで物事を考えていいのか。そうではなく、和解という要素をもっと取り込んでいく——もちろん簡単なものではありませんが——、そして、沖縄はそういう意味での地理的な条件を持った地域なのではないかということです。

 戦争になれば、特に米中戦になれば必ず沖縄が標的になって一番被害を受けるわけですから、「政府の専権事項だからものを言うな」と言われるのはやはり不合理でしょう。被害者であるが故に発信するというのは、日本が唯一の被爆国であるが故に核廃絶を訴えることと同じぐらい、人類に対する歴史的な使命であると言っても良いぐらいの大きさのある、意義のあることなんだろうと私は思っています。

 今まで沖縄を使ってどう日本の安全を守るか、アメリカの戦争をどう上手くやるかという観点でしか考えてこられなかったものを、沖縄自身を無傷で置いておくためにはどのような戦略が必要なのかという対抗軸としてしっかりと考え抜いていけるかどうかが、これからの大きなテーマになっていくべきだろうと思っています。その問題提起を兼ねて今日のシンポをお聞き頂きたいと思った次第です。ご静聴ありがとうございました。


司会 ありがとうございました。3人のご報告を受け、5人で討論の時間を取りたいと思います。


柳澤 前置きは抜きで、先ほどからウズウズしている2人の「会」のメンバーからコメントを頂きたいと思います。まず伊勢﨑さんから。


伊勢﨑 賢治 東京外国語大学教授

報告 伊勢﨑 賢治 東京外国語大学教授

 先週ソウルに行っていまして、環太平洋空軍参謀総長等会議(PACC・Pacific Armies Chiefs Conference)という2年に1回、各国の陸軍のトップが集まる国際会議に呼ばれて行ってきました。日本政府に呼ばれたのではありません。アメリカ軍から直接きてくれと言われて行ってきました。

環太平洋空軍参謀総長等会議(PACC・Pacific Armies Chiefs Conference)

 今年の表題は非対称戦をどう国際部隊として戦うかということでした。非対称戦というのは対象戦ではありません。対象戦というのは国と国がやる戦争で、どっちかがどっちかをやっつけるわけですが、やっつけた後は、やっつけただけで戦争は終わりではなくて、民衆と残党を占領統治しなくてはいけません。残党との非対称戦はそこから始まるのです。200万人とも言われる兵士たちが一斉に投降するなんてことは考えられません。破れかぶれの抵抗に出る者たちが出るのは当たり前です。そういう占領統治が成功して初めて戦争が成功したと言えるのです。アメリカは、大戦後の日本以外は、ことごとく、ここで失敗しているのですね。アフガニスタン、イラクが良い例です。

 そこまで考えずに戦争という決断をしてはいけないのですが、でも占領統治についてはあまりメディアでは語られません。なぜかというと、占領統治をやるのは基本的に陸軍で地味な根気の要る作業だからです。空軍は爆弾を落とすだけですから。で、各国陸軍の参謀総長がアメリカの下に集まって、それを考える会議だったのです。

 アメリカ陸軍が、この時期、それも北朝鮮の国境から50キロしか離れていないソウルで、この会議を開く理由は、2つあったと思います。

 1つは、北朝鮮に対する好戦的な示威行為。占領統治のことまで考えているんだぞ、それも、アメリカ・韓国軍だけじゃなく国際部隊で、という。

 もう1つは、これは良心的な観測ですけど、占領統治という一番辛い仕事をしなければならない陸軍が、アメリカの大統領に、戦争のコストとリスクを勘案して戦争という政治決定をさせたいという。まあ、その両方があったと思います。

 僕は、2001年9.11同時多発テロを契機に始まった対テロ戦の戦場となったアフガニスタンで、タリバン政権を倒した後のアメリカの占領統治に深く関わったので、その時の教訓を話すために招聘を受けたのです。

環太平洋空軍参謀総長等会議(PACC・Pacific Armies Chiefs Conference)

 会議はこんな感じで32ヵ国が参加しました。全員が、陸軍の最高司令官たちです。主催は、アメリカ陸軍のロバート・ブラウン大将と、会議のホストの韓国陸軍のヨンボン中将です。もちろん日本の自衛隊陸幕長も参加しました。残念ながら、僕の講演の時だけ欠席したようですが。

 太平洋地域と銘打っていますが、イギリスもフランスも参加しており、数回前からは中国陸軍も呼ばれるようになっています。これは単純に良いことだと思います。こういう感じで、軍同士は信頼醸成をしているわけです。

 会議の内容については、僕には守秘義務はありませんので、いつかまとめて書きたいと思います。ブラウン大将や韓国のヨンボン中将との個人的なやり取りの中で、陸軍の本音を垣間見ることもできました。例えば、「斬首作戦」が行われたとして、それがその後の占領統治にどういう影響を及ぼすかとか、非常にセンシティブなものです。

JSA(Joint Security Area)共同警備地域

 今日はその話ではなくて、この写真。板門店です。32ヵ国の将軍と共に訪れました。いわゆるJSA(Joint Security Area)共同警備地域と言われるところです。韓国軍の兵士が北朝鮮の方を向いている写真です。韓国軍兵士の腕章には「国連」のマークがついています。そうです。これは「国連軍」なんです。

United Nations Command Military Armistice Commission(UNCMAC)

 国連の旗が立っているんです。United Nations Command Military Armistice Commission(UNCMAC)という「国連軍」のコマンドなんですね。先ほど渡邊さんが言われたように、この後方支援の本部は横田基地にあります。

 僕はもともと国連の人間ですから知識としては知っていたのですが、実際現地で肌で感じると、これは違うだろう!と。こんなの「国連」じゃない!

 この「国連軍」は、地球規模の共通の脅威のために行動を起こす主体に成長した現在の国連から、ある意味、匙を投げられている前世紀の“遺物”なのです。

 今の国連は、地球規模の課題に対して放っておけない、全加盟国でなんとかしようじゃないかということで国連憲章第7章を根拠に、世界に関わって世界の共通の利益のために戦うという…その1つがPKOです。これはそういう慣習ができる前の「国連」なんです。1953年ですから。そこから時間が止まっているんです。

United Nations Command Military Armistice Commission(UNCMAC)

 「共同警備地域」のこの建物は長細い建物で、半分が北朝鮮、こちら側が韓国になっています。停戦協定の協議が行われてきたのがこの建物です。窓から北朝鮮の兵士が監視しています。韓国の兵士をみると国連のバッチをつけているでしょう。

 なぜ、いまだに国連旗を戴いているのか。なぜアメリカが国連旗にこだわり続けるのか。

 日本には、2つの地位協定、日米地位協定と国連軍地位協定があります。なぜ“遺物”の地位協定が生存し続けるのか。

 それは、「北朝鮮と中国に対峙するのは、アメリカではなく“国連”」という休戦の構図をアメリカが維持したい。ただ、それだけなのです。一種の印象操作です。「共同警備地域」の責任者の米軍大佐も、ただその「広報」のために訓練されている。彼との立ち話の中で、その印象を強くしました。

 重要なのは、その休戦の構図に、開戦になれば最も大きな被害を受ける韓国が独立した当事者としていないことです。

 朝鮮半島の休戦協定とは何か。休戦というのはAとBが戦っていて、相撲の土俵で睨み合っている。AとBは戦えばお互いにぶつかり合い、どちらも被害を被る「開戦の被害」の当事者です。Aは北朝鮮。その後ろには中国がいます。片やBは誰か。

 「国連」の帽子をかぶったアメリカなのです。韓国はその「国連」の一部でしかありません。分かります? アメリカは「開戦の被害」の当事者ではないのに、です。

 開戦したら、もちろん北朝鮮は傷つく。韓国が一番傷つきます。38度線から50キロしか離れていないソウルは火の海になります。でも、韓国は独立した力士として土俵の上に乗っていないのです。仕切り線の向こうにはアメリカが力士としているのです。「開戦の被害」の当事者でもないのになぜ?と、それでは見栄えが悪いので「国連」を纏っている。

 非常にいびつな構造なのです。アメリカが何千キロも離れたところからしゃしゃり出てきて、当事者として全てを牛耳っているのです。

 もし、開戦したら傷つくもの同士、北朝鮮と韓国がそれぞれ独立した力士として土俵で睨み合う休戦の構造に変えれば、少なくとも北朝鮮は弾道ミサイルとか核開発をする動機が薄れます。だって単独の韓国が相手なら通常兵器で済むわけですから。なぜ北朝鮮が弾道ミサイル開発や核開発をしなければいけないのか。北朝鮮は、韓国ではなくアメリカを睨まなければならないからですよ。

 少なくとも、アメリカが中国のように、北朝鮮の後ろで応援団として土俵に足をかけつつも一旦外に出ている構造にすれば、休戦が和平に移行する可能性ができるのです。その時は、“本当の国連”が仲介者になって。アメリカが「偽装国連」で土俵に力士として上がっている限り、この構造が生まれない。

 一足飛びに、民族融和なんて考える必要はない。まず休戦を「通常戦力で殺しあえる」構造にすればいいのです。その第一歩は、国連旗をアメリカから取り戻すことです。

 朝鮮半島の「国連軍」の解消です。自動的に、日本の国連軍地位協定は失効します。朝鮮半島の緊張の地殻変動ですので、「日米地位協定」も沖縄にとって良い方向に変わるかもしれません。

 「国連軍」の解消を安全保障理事会で、どう動議するか。誰が発議するか。

 アメリカが自分でそれをやるわけがありません。日本の今の政権も無理でしょう。韓国の今の政権は少し望みがあるかもしれません。別に「アメリカに出て行け」と言うわけじゃないので。

  北朝鮮と国交のあるヨーロッパの第三国がやってもいいでしょう。

 北朝鮮への制裁だけに固執する米日両政府ですが、朝鮮半島の非核化のためには、「国連軍」の発展的解消と、休戦協定の構図の変換に取り組む時期に来ているのではないでしょうか。


加藤 朗 桜美林大学教授

報告 加藤 朗 桜美林大学教授

 私の方からは3点お話ししたいと思います。1点目はアメリカの核の傘の問題です。2番目は日本の現在の立ち位置の問題、3番目が米中関係と日米同盟ということです。

(1)アメリカの核の傘の問題

 今の北朝鮮がらみの話で、アメリカの核の傘が効くかどうか。万一、北朝鮮が日本に核攻撃を仕掛けてきた時、アメリカが日本に代わって北朝鮮に核兵器を打ち込んでくれるかということです。それがアメリカの核の傘、拡大抑止と言われていますが、少なくともこれまでの核に関わる様々な国際規範をみますと、アメリカが日本に代わって平壌に核兵器を撃ち込む可能性は極めて低い。つまり核の傘は効いていない、ということです。

 1996年7月8日に国際司法裁判所が核兵器の威嚇又は使用の合法性について勧告的意見を発表していますが、残念ながら、違法とも合法とも言えないという判断をしています。そうすると、自衛のためであっても核兵器の使用が違法とみなされる可能性がある。ましてや、アメリカにとって、日本に代わって平壌を核攻撃する、つまり、自国が攻撃されていない段階で、通常兵器ならともかく、平壌を核攻撃するなんていうことはまずできない。

 今年の7月には核兵器禁止条約ができました。核の使用については極めてハードルが上がっています。アメリカが核兵器の使用を日本に代わってするかということになると、限りなくそれはゼロに近い。アメリカの拡大抑止は効いていないと考えた方が良いと思います。

(2)日本の現在の立ち位置の問題

 日本の立ち位置ですが、私たちはいまだに大国幻想に囚われています。日本はもう間違いなく中級国家です。大国ではありません。中級国家というのは既存の秩序を維持する力のある国です。他方、大国というのは秩序を形成する力のある国です。

 戦後の日本には世界の秩序を形成する力はありませんでしたが、少なくとも東アジア地域における秩序の形成ができるだけの力を持っていました。でも今、その力は完全に中国に奪われています。さらに北朝鮮にも奪われようとしています。もはや日本には主体的に東アジア地域の状況を変えていく力はありません。中級国家として、せいぜいアメリカに協力して東アジア地域の現状を維持していくことしかできません。

(3)米中関係と日米同盟

 米中関係と日米同盟の関係ですが、戦後の日本にとっての悪夢というのは、それこそ米中間の和解なんです。これは外務省の朝海浩一郎駐米大使、ワシントンの初代駐米大使ですが、彼が日本にとって最悪の事態は何かというと、ある日突然、米中が和解することだと言うのです。実際にこれは起きました。1971年7月のニクソンショックです。突然、ニクソン大統領が中国を訪問すると言って世界がひっくり返りました。当時、佐藤首相はその発表の5分前にニクソン大統領から電話をもらったそうです。その後の米中関係の劇的な変化は日本の防衛政策に大きな変化を与えました。具体的には何かと言うと、中国がアメリカに頼んで日本の軍事大国化を抑え込む、つまり日米同盟は瓶の蓋になりました。それは、絶対に日本を軍事大国化させるなというキッシンジャーと周恩来の秘密の約束です。そういう流れの中で専守防衛という日本の安全保障政策も決まり、防衛費にGDP1%の枠もはめたということです。日本の安全保障政策は間違いなく米中関係の1つの従属変数で、米中関係によって日本の安全保障政策が変わって来ます。

 今、その視点から見ると、安倍ドクトリンというのは見捨てられの恐怖に基づいています。日本がアメリカから見捨てられて、もう二進も三進もいかなくなるという恐れこそが、安倍ドクトリンの本質なのだろうと思います。

 でも、柳澤さんが言うように、米中関係が和解した後、別に中国の支配に入ってもいいじゃないかという覚悟があれば、それはそれで問題ありません。米中間が和解してしまえば、おそらく戦争などということはもうありません。この地域には平和と秩序が長らく続くことになると思います。沖縄が戦争に巻き込まれることもありません。対立する関係がなくなって来ます。

 ただ、その時に作られた米中2国間による覇権体制が日本にどのような意味を持つのかということを考えなければいけない。その時にはおそらく朝鮮半島も統一されているでしょう。核付き統一ということになるのかもしれません。そうすると、日本が置かれた立場というのは一体どうなるだろうか。中級国家でさえなくなる可能性が出てくるということです。それでも我々が平和を望むのであれば、それはそれで1つの生き方だろうと思います。

 つまり全ては私たちの覚悟です。どのように覚悟するかです。屈服させられるか和解か、その次には屈服するなというもう1つの選択肢があります。以上です。


柳澤 それぞれに刺激的なコメントを頂いたと思います。特に誰に向けたというお話はなかったと思いますので、お二方のコメントに対する再コメントを伊波さん、渡邊さんから短時間で頂ければと思います。


伊波 私の問題意識は沖縄が戦争にもう1回巻き込まれるのではないかということを最も懸念しています。米軍再編の流れの中で、沖縄の海兵隊もグアムあるいはハワイ、オーストラリアや米本土に移される。そのために日本政府は今年度までに既に1,500億円支出しているのです。今、着々とグアムで施設が整備されています。そうすると海兵隊の家族も皆行くのです。全部いなくなってしまう。だから、アメリカが戦争をしやすくなると言えばしやすくなるという感じがとても強いのです。

 そこで一番大事なのは、先ほどの第1列島線、第2列島線の話の中でグアムまで引くのではないかという話がありましたが、でもまだアメリカは台湾、フィリピンという権益を何としても守りたいというのが、今の南西諸島への自衛隊配備というもので、ここで日本に戦争をさせて台湾を守りたいという雰囲気ではないかと思います。

 中国の核心的利益ということでいえば尖閣などよりはるかに台湾です。だから、台湾を巡って米中が本当に合意できれば、日本にとって不安要素は無いのではないか。朝鮮半島というのは、そもそも朝鮮半島の中でその脅威が整理されるべきでしょう。でも、アメリカは、台湾の問題では日本を絡ませてくる、日米安保の問題として絶対に絡んでくるという懸念を持っているものですから、米中が合意をして、東アジアから戦争がなくなる時代を沖縄の人たちは一番望んでいると思います。

 その時に初めて沖縄に基地を置く必要がなくなって、米軍も撤退をせざるを得ない。そういうことを私たちは実現できるようになってほしいと思っています。

 今日少しお話ししましたが、私は国会で日中関係の改善をやってくれ、やる必要があるということをずっとことあるたびに言っております。今や日中関係というのはとても大きいのですよ。貿易にしても様々な輸出入ではアメリカを超えていますし、外国観光客も4分の1は中国から来ているのです。貿易においても、国際観光においても、我が国にとって中国は一番の相手なのです。アメリカにとっても中国は一番の相手ですけれども。日本とアメリカとの関係よりも日本と中国との関係の方が、経済的の関係としてははるかに大きくなっています。投資的な問題は別にしてです。

 そのように重要な日中関係を日米同盟の強化というだけで敵対関係にしようとしている今の安倍政権は問題だと思います。一昨日の日中国交回復45周年の中国大使館のパーティーには安倍首相が初めて来ましたので、流れがそういう方向に向かうことを願っています。

 国連軍の話では、普天間飛行場にも国連旗が立っていますし、嘉手納基地にも国連旗が立っていますし、ホワイトビーチにも国連旗は立っているわけです。朝鮮半島の平和的な解決や米中間のトゲである課題を解決していく流れがうまくスタートできるように、日本側もそういったものを引き受ける覚悟を持つことが求められているのではないか。アメリカの代わりに中国と敵対する関係、役割を演じようとしている今の安倍政権の立場は、方向転換すべきじゃないかと国会でもずっと指摘しています。今日のお話をさらに学ばさせて頂きたいと思います。ありがとうございました。


渡邊 ありがとうございます。中国をどのように見るかというのは常に議論の別れるところです。アメリカではこの議論をパンダハガーとドラゴンスレイヤーと言います。パンダハガーというのはパンダをハグする人、中国大好きですという人ですね。ドラゴンスレイヤーというのは龍を退治する人です。ドラゴンは中国の別名ですので、中国と戦ってこれを倒すという、2つの立場があります。これは両極ですが、アメリカでも日本でも常にそれぞれの割合は変わりますが並存しているのが今の現状です。どちらが正しいかどうかは別にして、どちらもそれなりにそうなのだろうと思います。

 私はそれよりも中国がどのような国であるかの方に注目しています。中国は共産党独裁の国家であるということ、中国の軍隊は中国の軍ではなくて共産党の軍であるということ、そういう話をいろいろと突き詰めて、中国はやはり今のところしっかりと見なければいけないと私は思っている人間です。


柳澤 ありがとうございます。皆さんのお話を私なりに都合よくエッセンスの取りまとめをさせて頂ければ、伊勢﨑さんのお話も加藤さんのお話も、我々の周りで物騒な状況が起きている、もしかすると戦後、日本人に問いかけた時に「戦争になるかもしれない」という答えが一番多い時期に来ているのだろうと思うのですね。

 私が一番言いたいのは、それは誰の戦争なんですか、誰のための何を解決しようとする戦争なのですか、ということを考えていった場合に、日本という要素がどのくらい出てくるのですかということです。確かに覚悟はいるのだけれども、それは日本が覚悟しなければいけないことなのかどうかということにもなってくるだろうと思うのですね。

 戦争の危険が無いなんてことはない。やっぱり危険はあるんです。もちろん仲良くするに越したことは無い、仲良くすればいいじゃないかというのも1つの考え方ですが、そう簡単に仲良くできないというのはお互い様ですからね。

 状況が非常に複雑に絡み合った中で、今日の日本人の危機感があるとなると、それをほぐす作業がどうしても必要です。そこで、ほぐしの道具として何を使うのかということですが、私が申し上げたいのは、「これは何の戦争ですか、これは誰の戦争ですか、目的は何なのですか、何が解決なんですか」ということです。それが見えないと「戦争なんだから相手をやっつけるしかないじゃないか。そうじゃないとこっちがやられちゃうじゃないか」という論理にはまっていって、結局、脳みそを使ったことにならないんじゃないかという感じをさらに強く受けた次第です。

 再反論を含めて一言ずつパネラーの伊勢﨑さんと加藤さんから頂いて、そして会場からのご質問やご意見を頂きたいと思いますが、伊勢﨑さんと加藤さんからは特に無いそうですので、ご意見も十分拝聴したいところでありますが、時間の制約もありますので、手際よくご協力していただければと思います。


(会場からの質問1) 読谷から参りました。今日は皆さんのお話をお聞かせ頂いて大変勉強になりました。朝鮮半島に国連軍の形を借りて米軍が居座っているということですが、国連が国連軍だといっていることを米軍から取り返すということはできないのでしょうか。もう1つは米中が和解して同盟国になった時、日本はどうなるのかということをおっしゃっていたわけですが、米中を介して同盟を組んで台湾問題や南北問題が解決した暁でも、日本には自衛隊が必要なのでしょうか。


伊勢﨑 最初のご質問にお答えします。

 それを「国連軍」と呼ぶかどうかの問題は、一九九七年にブトロス・ガリ国連事務総長が当時の北朝鮮外務相に当てたと言われる親書に、そのジレンマが現れています。

朝鮮国連軍は、安保理の権限が及ぶ下部組織として発動されたものではなく、それがアメリカ合衆国の責任の下に置かれることを条件に、単にその創設を奨励しただけのものである。よって、朝鮮国連軍の解消は、安保理を含む国連のいかなる組織の責任ではなく、すべてはアメリカ合衆国の一存で行われるべきである。

 国連の公式文書としてあります。国連総会で北朝鮮がおかしいじゃないかと文句を言ったのですね。国連総会の報告書が国連のホームページで英語ですけれども読めます。

 まあ意味は、ぶっちゃけ、過去、朝鮮戦争はあのように始まっちゃったんだから国連としてはしょうがない。「国連軍」というのはアメリカが全てをやるということで、当時の国連が承認しただけの話であって、これは基本的にアメリカ軍なんだから、他の国連加盟国も参加するのも、そこから脱退するのも、国連軍そのものを解消するのも、国連と関係なく、アメリカでやってくれ、ということです。

 これを変えるにはどうしたらいいか。知恵を絞らなければいけません。今はアメリカが超大国ですが、みんなの国連ですからね。例ヨーロッパには北朝鮮との国交がある国がいっぱいあります、そういう国が中心となって、朝鮮半島の究極的なソリューションを発議するのが一番手っ取り早いですね。これは可能だと思います。

 本当に北朝鮮の“挑発行為”は問題ですが、なぜ北朝鮮がそういうことをするのかという構造的な問題になかなか世論は向かないのですけれども、それを誰かに言わせる。ドイツのメルケルさんなんか良いですね。トランプさんをビビらせるには。知恵を絞りましょう。

 1953年から凍結状態のこの「国連軍」の印象操作はアメリカの覇権にとって必要なのです。これを崩すことから全ては始まります。


加藤 一言で言えば、非武装化するか軍事化するかということの決定権は日本には無いだろうと思います。それは全て国際状況、おそらく米中の決定に委ねられるだろうと思います。


(会場からの質問2) ウチナンチューです。沢山の話を聞かせて頂いてありがとうございました。最初に伊波議員がレポートした先島の自衛隊強化、これはもう恐怖です。あれだけ進んでいるということは県民に知らされていません。議員からもっと県民に知らせて頂きたい。もっともっとその辺を指摘してもらいたいというのが1点。

 それから沖縄の優位性についての指摘がありました。軍事的優位性ということだけが優位性という話になっていますが、沖縄ほどあらゆる発展性があるという点で、優位性のある土地はないじゃないですか。国際交流の場、観光の場、経済発展の場、歴史的に沖縄の王国が築いた成果がピカピカと光っているんですよ。それを抜きにして、軍事的な優位性だけが叫ばれているというのは残念です。

 今の状況について柳澤さんがまとめられた、沖縄が発信する歴史的な義務があるのではないかという点、まさしくいろいろな意見を集約すると、そこに尽きるのではないかと思うのです。沖縄側からの発信が足りないということ、その点は沖縄側のだらしなさは指摘されて当然だと思います。それをしっかりと指摘してもらった上で、アドバイスをしっかりとやってもらいたいなと思います。

 今、しがらみで沖縄がこういう状態になっていて、米中の戦争は無いだろうということについては常識的にみて大国が戦争をするはずがないですよ。しかし、摩擦的な、地域的な戦争なり、事変というものは起こりうる。それが沖縄だという点も恐怖をもって感じております。今こそ、いかに発信するか、それは沖縄の優位性は軍事ではない。沖縄の真の優位性は、あの万国津梁(ばんこくしんりょう)の鐘をもっていること、そして「異産至宝は十方刹に充満せり」(めずらしい宝は国内に充ち満ちている)、これが原点でなければなりません。今から原点を作ろう、中心になることを作ろうとする必要はありません。もう既に原点は歴史の上で輝いているのですよ。そういう意味で沖縄の歴史的な使命です。

 今叫ばれておりますのは、もう一回、沖縄を捨て石にするのではないかという恐怖です。一方で原発の輸入は認めていいのではないかという議論が出ています。大和においては、どうせ入れるにしても沖縄だから心配するなという、ムードにしかならないんじゃないか。そういう差別的な沖縄、これはもう耐えられない状態に来ています。そんなこんなも含めて沖縄からの発信を期待して、その面については沖縄だけはだらしないですから、1つアドバイスも加えてもらいたいなということを申し上げます。


(会場からの質問3) 抑止についてご意見を伺いたいと思います。抑止力というのは日米安保の中で言うならば、アメリカ軍が沖縄にあるということが抑止であって、その内容は問わないのではないかと思います。PAC3の要員のための人員が若干増えるなどというのは問題ではないということです。

 かつて、小沢一郎さんが極東アジアの安全保障には第7艦隊と嘉手納空軍があれば十分だと言われたことがあるのですが、私も同感です。アメリカはThe More The Better、もっとあればもっと良いということで、新しい基地を作ることは歓迎していると思うのですが、大事な海を壊して辺野古に新しい基地を作るなんていうのはもってのほかだと思うわけです。こういうことも含めて、今の日本の抑止力というものについて、実際はどうなんだということを柳澤さんにお伺いしたいと思います。


(会場からの質問4) 伊勢﨑先生にお聞きしたいことがあります。安保と関係する地位協定について今日は触れられておられませんでしたが、日本が加害者側の立場を持つ日ジブチ地位協定を締結していると著書で拝見しました。日米地位協定も改定がなかなか進まない現状ですが、日ジブチ地位協定の存在と関係があるのか。地位協定の改定を行うことができる権限を持つポジションというのは両国にとってどのポジションが持つのか。現実的に地位協定の改定を実現するためにはどういったアプローチが必要なのかということをお聞きしたいです。


(会場からの質問5) 日本は大国ではなく中流国家という話、非武装というような判断を自国では出来ないという話でしたが、昔、非武装中立が流行った時期がありましたけれども、今の段階では自衛隊は現にあるわけだから、自衛隊の存在は認めると。しかし、そのあり方はどうするかという問題、それも含めて武装中立みたいなことはもう一度考えられないのかということ。

 今日の柳澤先生が主宰するそういう考え方を、一研究者やグループの身内の理論ではなくて、1つの学会に高めることはできないかということ。

 我々がこういう論議をするのも、日本国民や日本の政治が沖縄の今の状況に感謝しないといけないです。国民が自国の安全保障について真剣に考えられるようになりつつあるのは、今の沖縄の我々の状況があるからだと思っています。そういう議論をしているのも、辺野古をどうするのか、高江をどうするのかというのが出発点だったと思います。

 大きな外交上、戦略上の話はなかなか解決しませんが、辺野古は触ってはいけない地球のサンクチュアリなんですよ。細かいことは言いませんがそこをなんとか止める、埋め立てを撤回する理由はいくつもあるのに沖縄県が躊躇している。国会で代執行されるというだけで恐怖を感じているから撤回の決断が下せないわけです。国会議員の認識が変われば代執行を止められると思っています。辺野古は絶対にダメですよ、それは全てのデータが示しているわけですから。そういうことを国会議員の個人個人に理解してもらうようなアプローチはできないものだろうか、ということを提案と言いますか、質問も兼ねてお願いしたいと思っております。


(会場からの質問6) 北朝鮮の暴発についてお伺いしたいと思います。トランプは極東で緊張状態が続くとアメリカの兵器が売れるので、販売促進として緊張状態を止めることはないと思います。ただ、日本も図に乗って同じように北朝鮮を脅しあげると暴発するかもしれません。そういう危険性が非常に高いと思うんです。

 あまり早く暴発してしまえば、アメリカに核は届かない。同胞の韓国に核を落とすかと言えば落とさないと思うんです。手持ちの核を持ったまま自滅するかというとそれもないと思うんです。じゃあどこに落とすかと言えば、日本しかないじゃないですか。30発核を持っていたら、世界に落ちる3発目から32発目まで、全部日本に落ちてくると私は思うんです。

 今、安倍さんが非常に図に乗っていますけれども、やはりリメンバーパールハーバー、追い込まれた国の命運を悟れということを言わないといけないのではないか思います。私の質問は、今、北朝鮮のリーダーがどこまで追い込まれているか、そういった情報を知りたいということです。


柳澤 私の方で少し整理をさせて頂きますが、地位協定の話は伊勢﨑さんから、日本は自衛隊がなくても米中が和解すれば良くなるのかということと、武装中立に対する考え方については加藤さんからお答え頂きたいと思います。抑止力とは実際どうかと言っても非常に漠然としておりますが、小沢一郎さんが言っていたように横須賀と嘉手納があればいいんじゃないかという話についてどう考えるかを渡邊さんからお願いしたいと思っております。政治をどう変えればいいのかという話、それは一言で言えば選挙に勝てという話なのですが、その辺は伊波さんからお願いしたいと思います。

 私から申し上げれば、沖縄からの発信について、もう沖縄には歴史の土台もあるし原点もあるというのはおっしゃる通りだと思います。ただ私が申し上げたいのは、それが安全保障の言葉になっていないということです。それが歴史の言葉であり民族の言葉であり、要はウチナーグチで語られているけれども、戦争の戦略の話として、説得できるような形で組み立てる必要があるというのが私の問題意識です。そういう意味でこれからも問題提起をしていかなければいけないなと思っているところであります。ということで、今の仕分けに従ってお願いできましたらと思います。


渡邊 小沢先生の話は難しいですね。簡単に言えば、軍事戦略よりも同盟戦略の方が上位にあります。同盟戦略の失敗を軍事戦略でカバーできません。ということであれば、横須賀と嘉手納だけで良いというのは、軍事作戦よりも同盟をどのように捉えるかという、それだけに尽きてしまうのではないかなと私は思います。


伊波 国会の全体を変えるというのはとても難しいことですが、沖縄は前回の総選挙で1区から4区まで辺野古NOという結果を出したわけです。今回も同じような結果を出すことができれば、沖縄の意志は変わらないということをしっかりとした国政へのメッセージとして出せるので、私もそこへ頑張っているわけです。1つの地域である沖縄の声というものを確固たるものにしていく。そのことが国会議員全体を変える大きな力になっていくと思っています。  民進党が希望の党に飲み込まれそうになって、安保法で分ける云々などと、民進党や希望の党は辺野古をある面容認するところがずっと継続しているのです。なかなか沖縄の思いは届きません。でも日中が平和的な関係になり、そういう流れを作っていく中で、沖縄の声が不動なものとして発信できれば、政治はそれを大きく受け止めてもらえるものだと期待しながら頑張っていきたいと思います。この件の問題も私なりに頑張っていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。


柳澤 1つ落としていました。北朝鮮が暴発するのではないかという深刻な疑問なんですが、私は暴発しないと思います。金正恩は悪いやつだけれども馬鹿ではないので、今の状況で暴発するというのは、暫くはないと思います。アメリカが空母を前に出すとか、今やらなければやられるという状況まで追い詰めればありうるということなんだろうと思っております。


伊勢﨑 地位協定のことを話すと長くなります。簡単にいうと10月26日、集英社クリエイティブから本が出ます。

「主権なき平和国家:地位協定の国際比較からみる日本の姿」

 アメリカの地位協定はいくつあるか知っています? 100以上あると言われています。そのうちの1つが日米地位協定です。地位協定の国際比較を初めてやった本だと自負しております。ぜひ読んで下さい。

 地位協定を国際比較すると非情なことがわかります。米韓地位協定と日米地位協定は被差別義兄弟みたいな感じです。例えば嘉手納ラプコン(Rader Approach Control)とか横田ラプコンとか、あんなものはアフガニスタンでもあり得ません。米軍基地をどう使うか、何を持ち込むか、どういう訓練をするか、ましてや他国の攻撃にどう使うか、これは全部、受け入れ国の許可制です。協議ではないですよ。許可制です。主権国家として当たり前なんです。イラクでもアフガニスタンでも、駐留米軍に対して主権国家は許可を与える立場なのです。それがないのは韓国と日本だけで、「平和時」の地位協定の中では日本だけなんです。どうしてでしょう。

 同時に、日本人に気付いてほしいのは、日本は「既に地位協定の加害者」であるということです。

 南スーダンからは自衛隊は引きました。でも、国連が南スーダン政府と結ぶ「国連PKO地位協定」に自衛隊は戦力として入っていたんです。戦力として自衛隊は現地法から免責されていたんですよ。

 現在も日ジブチ地位協定があります。我々は2国間地位協定の加害者側に立っているんです。加えて「加害者としての日本は日米地位協定のアメリカより凶悪」なのです。なぜかというと、例えば米軍のオスプレイが住宅地に落っこちて、日本人が多数犠牲になる。こういうのが軍事的過失です。「公務内」の事故ですね。裁判権はアメリカにあり、アメリカの軍事法廷が裁きます。それが日本にはないんですよ!

 これが、ジブチの民にとってどういうことか、お分かりになりますよね?

 皆さんは米軍のオスプレイが落っこちることを心配しています。でも、我々の同胞の自衛隊が同様の事件を起こすことは、なぜかスルーする。その時、日本は、軍事的過失を裁く法律も法廷もないのです!

 今の日本の法体系は、軍事的過失が起こっても自衛隊員個人に故意犯として責任を負わすしかないのですよ。国家の、国家の指揮命令系統の責任を審理する法体系がないのです。これは自衛隊員の人権問題であるとともに、相手国の人道問題です。これをなぜリベラルと称するこのグループ…皆様のような…がスルーできるのですか?

 前回、当会が議員会館で南スーダン撤退後のどうするかという円卓会議をやらせてもらって、伊波さんをご招待しました。僕は、沖縄出身のあなただからこそこの問題を取り上げて欲しいと言わせてもらいました。本土の政治家は誰も言わないから。人権に敏感な沖縄の政治家が、この国家としての非人道的行為に声を上げなければいけないと思います。

 日米地位協定の問題は「沖縄の問題」になっちゃっていますよね。これが米との地位協定を着実に改定して生きた他の全ての国と違うところです。他の国では、地位協定改定は「国民運動」になるんです。地位協定における日本の加害者性。これをあえて沖縄が訴える。これしか、日米地位協定の改定を国民運動にするきっかけはないと思います。


加藤 なぜ地位協定を変えられないか。日本は完膚なきまでにアメリカに負けた敗戦国だからです。アフガニスタンもイラクも敗戦国ではありません。両国の現在の政府は戦勝国ですから。

 米中関係の話ですが、戦前、近衛文麿が「英米本位の平和主義を排す」と言って、英米の秩序に挑戦して、我々は完膚なきまでに叩きのめされました。次に我々は「米中本位の平和主義を排す」かどうかという問題です。米中本位の平和主義を拒否しなければ、私たちはおそらくは平和——平和の内実は問いません——、戦争はないだろうと思います。でもそれは嫌だというならば、一体どういうことを考えなければいけないのか。私たちが迫られているのは、そういう局面なのかもしれない。戦争の問題というよりも、私たちはどういう生き方をすべきなのかということを日本国民全体に問われているのではないかと思います。


松竹 ありがとうございました。「自衛隊を活かす会」はこれからもいろいろな企画をやっていきます。12月25日(月)には東京ですけれども北朝鮮と核ミサイル問題をやりますし、来年にかけては抑止力を連続的に深めていく、抑止力に代わるものを探求していく講座もやっていきます。

 それは全部ホームページに出していきますし、沖縄は大変大事な場所ですから、また沖縄で出来るだけやりたいと思います。本日はありがとうございました。